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今日は休日である。ぼっちの俺を気にかけていつもは清蓮が家に押しかけて来るが、今日はどうやら大事な用があるらしい。
せっかく一人なんだし、テレビをつけて家に籠るのも悪く「もしもーし?」
…そうだ久しぶりにこった夕飯でも作ってみようか、夕方になれば近所にある業務スーパーに「ねぇーー!居るよねー!?」
うるせぇ
先程から玄関のドアを一定のリズムで叩く音が聞こえる…いやうるさ
「あーそーぼー!…出てこないなぁ…野球しようぜ磯野ーーー!!」
俺は磯野ではない。決して坊主では無い。
「や、やめようよ雪都…!」
「やだぁー!ねぇーー!出てよぉー!葬儀屋の緊急のお仕事だよーーー!」
少女二人の声と、葬儀屋というワード
警察に労基もクソもないのはわかっている。だが家にまでやってくるのはやめてくれ。朝の九時だぞ。
「あーけーて!あーーけーーてぇーー!」
「開ける!開けるから叩くのやめてくれ!」
廊下を走り、急いで扉を開ければ声の主が二人。
「あ、開いたァ〜やっほー」
「し、失礼だよぉ…!」
黒髪に透けて見える紫と、それと同じくらい紫を主張するスカートを履いた少女と、チャイナか巫女服か、コスプレのような服を着た茶髪の少女が入口に立つ。
「やっほ」
「やっほって…仕事があるんじゃないのか」
「そうその通り!待っている暇はないよ!ゴーゴーゴー!!」
茶髪の少女はそういうと俺の腕を引っ張る。
「だ、ダメだよ雪都!粗相ないようにって佑夏姉さん言ってたでしょ!」
それを止めるのはもう一人の少女。
「まず名前を教えてくれよ…二人とも葬儀屋だろ?」
俺の言葉に二人は互いに顔を見合うと、
「朱雀隊たいちょー!天樹雪都!」
「あ、す、朱雀隊…さ、佐久間涼風です…」
ハイテンションで言う雪都と遠慮気味に言う涼風、性格は真逆だ。
「雪都に涼風か…他の隊員は?」
「いやぁもう一人ね、居るはいるんだけどたまにしか来れなくてね?」
「や、矢俣華月って言う私達よりも一つ年上の、男の子です…」
矢俣?
聞き覚えのある苗字に頭の中であの人の顔が浮かぶ。意地悪そうな、奥に何か黒いものを秘めたようなあの顔をだ。
「その子ってお兄さんいたりしないか?」
俺の言葉に雪都は考える素振りを見せたあと。
「…″そっち″の矢俣さんはいい感じに流されちゃった」
後頭部に手を置きそう言うと「後で聞いてみてよ」と付け足して言った。
「あ、あの、そろそろ時間が…」
俺を覗き込むようにして涼風が言う。
「そうだった。悪い今着替えるから待ってくれ」
「いいよ〜」
雪都と涼風は頷くと玄関へと入ってきた。
「…いや、着替えるから出てくれよ…」
電車を乗り換えず、着いた駅から徒歩二分。
「裁判所…?」
おいおいこれはとんでもないところじゃねぇか。どう考えてもワイシャツと清蓮が俺に寄越してきたズボンで来ていいとこじゃない。
「さぁ入って入って〜向こうも急いでんだぁ」
雪都が俺の背中を押し、涼風も申し訳なさそうに横を歩く。警備員の人達はそんな怪しい俺たちの動きを止めることなく見送った。
「どうして裁判所に…」
「まれに、刑事課や、政府から以外で依頼されることがあるんです。」
腕に着けた紫のベルトの時計を見ながら早足になって言う涼風は軽く雪都を睨みつけたように見えた。
「…こういうのは基本葬儀課に許可を取らなくてはいけないのですけど、どこかの誰かが軽々引き受けてしまったので」
「はーい、ボク遠回しに人のことを悪く言うことって良くないと思いまーす」
お前か
「それで今、葬儀課の中で緊急で仕事を頼めるのが、限られてしまって…」
それで俺か
「なんとなく事情は分かったよ。それで、話を戻すがどうして裁判所なんだ。」
「そうそう!それはねぇ」
法廷の扉が開かれるとそこには女性と若い男がいた。
「ドキドキ!そこに賊心はあるのかな?真実を見抜け!葬儀屋裁判〜!」
…辺りがやけに静かだなぁ
「ふざけてるの…?」
雪都の頭がガッツリ掴まれる。涼風は案外雪都のいいストッパーなのかもしれない。
「いだだだだ」
「朱雀隊のお二人と葬儀課の方が到着したので、今回の依頼について確認させていただきます。」
裁判官と思われる男は顔が垂れ下がった布で見えないが、手馴れている感じからして葬儀屋と関わりがあるのだろう。男は話を続けた。
「こちらは原告人及び依頼者の細川様、こちらは被告人及び賊心があると仮定されている、椎野様でございます。」
傍聴席の最前列に座り雪都から涼風、そして俺へと書類が回される。
そこには原告人と被告人、二人の情報が入っていた。被告人の年齢は予想していた通りだったが、原告人の女性の年齢を見て目を丸くした。四十九歳…!?全くそんな姿には見えないほど健康的で若い見た目をしていた。
「依頼を確認させていただきます。依頼は『娘を見殺しにした椎野様の神魂の解体』で間違いございませんか」
「どうでもいいからさっさとこの男を殺してよ!」
殺す?
「刑事課や政府からの依頼の他に、葬儀屋に直接入る依頼には、こういった相手の神魂を解体して欲しいという依頼も少なくないんです」
涼風は小声で言った。
「それを決めるのは葬儀屋の方々であり、今回裁判官の立場である私は公平を期すためにここにいます。この裁判には検察官、弁護士などはおりません。法廷も非公開となっています。葬儀屋の皆様は両者の証言を聞き、賊心があるか否か回答して頂きます。既に理解しているとは思いますが改めてご了承ください。」
ありがとう裁判官さん、俺初めて知ったよ。
「それでは開廷致します。まずは原告人の主張を」
裁判官が言い切る前に証人台を強く叩いて女性は悲嘆の涙を流しながら声を荒らげた。被告人を罵倒する言葉も度々入り裁判官に注意されながらも信頼をしていた椎野という被告人に騙され大事な娘を見殺しにされたと叫ぶ。
「ねぇ、さっきから言ってる見殺しってどういうこと?」
雪都が伸びをしながら言う。どうやら葬儀屋は質問のみであれば発言が許されるようだ。
「私が娘と電話していたら途中で電話が切れたのよ!心配になってコイツに電話したら、なんともないって嘘をついたわ!なんともないわけ無かったわよ…!アンタが電話した時!娘はもうアンタんとこのマンションから飛び降りて死んでたんだから!」
「そんな…」
「そりゃ酷い話だね…」
涼風と雪都は言葉を漏らす。
「すぐに分かったわよ!アンタ娘が飛び降りる瞬間見てたんでしょ!それを見ててよくこんなこと、アンタのせいでうちの子は!!」
「原告人は一度落ち着いてください。落ち着くまで発言を禁止します。その間に被告人、」
男は頷き立ち上がると、俯きながら女性と入れ替わるように証人台に立った。
「お、俺は…勇気が出せなかったんだ…だから彼女であるあの子を死なせてしまった…全部俺が悪いんです。」
自白でいいのだろうか、自分の罪を自覚しているように感じる。
「証言はそれで終了ですか?」
男はゆっくり頷く。がしかし遠慮気味に手を挙げた人物がいた。涼風だ。
「勇気が出なかったとは、ど、どういう意味ですか…?細川さんの娘さんが亡くなった理由があるのなら、詳しく教えてください…」
被告人と目が合うと涼風は先程までの相手の顔色を伺う瞳ではなく真っ直ぐな、貫くような瞳で被告人を見た。
「彼女は、本当だったら俺と一緒に飛び降りるつもりだったんだ。あの子が生きたくない、死にたいって言うから…!貴方に電話したのも、飛び降りる前で別れを告げていたと思ったんだ…!」
また何か話し出しそうな女性を抑えるかのように裁判官の「続けなさい」という声が部屋一帯によく響いた。男は頷いてから言われた通り話を続ける
「飛び降りる直前、怖くなって俺はやめようって彼女に言ったんだ…!飛び降りれそうな段差から降りて安心してたら貴方から電話が来た、その時までは俺も彼女が生きてたと思ってた!けど!電話を切った時にはもう、彼女は一人で飛び降りていたんだ…」
重い空気に思わずこの場から立ち去りたくなる。横を見れば真剣に話を聞く涼風と、何か考え事をしている雪都。
「ねぇお兄さんはさ、彼女さんがなんで自殺したいか知らないの?」
「し、知らない」
返答を聞くと雪都はまた一点を見つめ始めた。
「さっきから聞いてればアンタ!!」
とうとう痺れを切らした女性が男に手を出しそうになる。
「静粛に!もし手を出せばは貴方の原告及び依頼は無かったことにします。」
裁判官が声を張り上げた。あ、ドラマとかでよく見るあの木槌みたいなの叩かないんだ。
「…アンタが娘と付き合ってから、娘は家に帰らなくなって行ったのよ、あの子いつも私の誕生日にはプレゼントを持って来てくれるのに…!」
女性の言葉に涼風はハッとして口を開く。
「そのプレゼントは、娘さんのご意志ですか…?」
「当たり前でしょ!あの子が自分で稼いで買ってくれた物よ!この服だってそうだわ!」
涼風は雪都に目を向ける。釣られて俺も雪都を見れば当人の話など聞かずにスマホをいじっているではないか。
「では最後に、原告人と被告人。葬儀屋の方々へ伝える事があれば、お伝えください。」
男は黙りこくったままだ
「どうか!どうかお願いします葬儀屋さん!あの男は私の娘を見殺しにしたのよ!私の大切な娘を!私がどんなに悲しいか…っ」
女性の方が俺達に向かって必死に訴え掛けたところでやっと雪都のスマホを弄る手が止まる。
だが雪都も涼風も、女性を見る目は同情でも、悲哀を漂わせた目でも無かった。
今にもコイツをどう殺してやろうかと思索する、獲物を目にした猛禽類のような鋭い、そして蔑むような冷淡な瞳。脳が体に逃げろと指示してくる。
「あ〜もういいかなぁ。決まったよ、どうするか」
雪都は立ち上がると傍聴席と証人の境目である柵の上に立つ。
「葬儀屋は、原告人に賊心があるとここに証言するよ」
後編
「葬儀屋は、原告人に賊心があるとここに証言するよ」
涼風も雪都の意見に首を縦に振ることで同意を示した。
被告人ではなく原告人?一瞬耳を疑ったが間違いなく雪都は椎野ではなく細川の賊心を祓うと言った。
「どういうことよ!私じゃなくて懲らしめるべきなのはあの男でしょう!?」
堪らず原告人、細川が叫ぶ。
「説明をいただけますか」
「え〜?真剣にぃ?」
「はい、真剣に」
裁判官に言われ、雪都は仕方ないと言いながら涼風に鞄からタブレット端末を出すように言った。
「おばさんさぁ、娘さんが彼氏と付き合って家に戻らなくなったのって最近じゃないでしょ、何年前?」
「よ、四年前よ…!」
雪都はふーんと自分から聞いておいて興味のなさそうな反応をする。
「じゃあもう一つ質問ね、おばさんの身につけてる物調べてみたんだけど全部会員制のブランド品なんだね。どうやって買ってるの?」
「だから!これは全部娘が…!」
会話を聞きながら涼風はタブレット端末で何かを調べている。しばらくすると立ち上がり柵に座る雪都へ耳打ちをした。
「その回答を踏まえてこちらを見ていただきたいと思います。」
涼風はタブレットの画面をその場にいる全員へ見せた
「こちらは細川さんの投稿アプリの投稿履歴です。確かに四年前の細川さんの投稿には娘さんと一緒に写真に写っています。」
写真には娘と母、綺麗に飾られた部屋に高そうなブランド物のプレゼント。どう見ても幸せそうな家庭を連想させる画像が投稿されている。
涼風が画面をスワイプすると3年前からの投稿がでてきた。
「分かるかな、おばさん娘が帰ってきてな〜いって言ってる割にこんな投稿してるの、おかしいよね?」
矛盾を語る雪都の通り、その投稿は、プレゼントと自分の顔だけを載せた写真、そこに娘は写っていないものの、先程の投稿と変わらず綺麗に飾り付けされた部屋と、投稿の『今年も娘に祝ってもらいました』の文字。
「お兄さん、この日は彼女さんと一緒だった?」
椎野は頷く
「同居していたから彼女が実家に帰る日がなかったことくらいわかるさ。」
それを聞いて涼風はやっぱり…と呟いた。
「なーんかおかしいなぁ〜って思ったんだ、だから今ちょ〜っと他の隊に調べてもらってる。」
足を揺らしながら雪都は続ける。
確かにそうだ、会員制のブランドなら送り主である細川の娘が会員となって購入し、わざわざ細川の元まで届ける必要がある。しかし娘とはあっていないという証言。なぜそんな嘘の投稿をしたのだろうか。
緊張が伝わる法廷に着信音が響いた。
「…あぁ〜予想通り。」
雪都はまた柵の上に立ち上がると細川を見つめてこう言った。
「娘さんを死に追いやったのは、間違いなくおばさんだよ」
細川は怒りから、柵の上に立つ雪都の足を掴み引きずり下ろそうとする。が、すかさず涼風は俺にタブレットを渡した後柵を乗り越え、細川の腕を掴み、細川の前にかかった勢いをそのまま使って床へと押さえつける。
「ほら見て、会員の名前。おばさんの名義で登録されてるよ、住所も全部ね。」
スマホを細川に見せながら言う。
「つまり娘からのプレゼントではなく自分で購入したものだったということか…」
やっと俺は声を出すことができた。
「ん?いやこれがおばさんの娘さんが買ったものなんだよね。」
細川の顔色が悪くなった
「おばさんが、娘さんのクレジットカードから払って買った物ってこと」
頭が混乱してきた、つまりはどういうことだ。
「細川さんは娘さんに無理やりクレジットカードを管理し、娘さんの貯蓄を無断で使い、あたかも娘さんの意思で買ってもらったように投稿していたんです。」
「他にも実家の光熱費、スーパーの買い物やら色々…探そうと思えば店舗で使用した履歴も見れるからね。」
親のすねをかじるという言葉は聞いた事あるが、まさかその逆があるとは思っていなかった。
「お兄さんのところ行くまでは強制で欲しいもの買わされてたってわけでしょ?それは普通に病むねぇ」
「その前に、クレジットカードの情報とか普通にその情報法的にアウトじゃ」
「葬儀屋だから許されま〜す」
暴論すぎる。
そんな会話をよそに涼風は裁判官に指示を出し裁判官と椎野はこの場を去っていった。
「お兄さんには聞かせられないからね。おばさんが経済的にも、精神的にも追いやったせいで娘は死んじゃったなんて言えないから」
「あなたは周りに自分がいい母親だと見られたかった。娘から愛されて、周りから尊敬されて幸せな人間になろうとした。」
涼風の細川を押さえつける手に力がこもる。
「けど、こんなのだれも尊敬しない。愛される努力もせず自分の子から搾取するなんて、そんなのいつか朽ちるに決まっている」
雪都は欠伸をした後、ミニスカートのポケットを探る。そして出てきたのは、結都の持っていたのと似た、包帯を巻かれた一丁の銃。
「その忠告を聞く前に、もう取り返しのつかないところまで来ちゃったんだけどね」
その銃口は、細川へと向けられた。
『その賊心、祓わせてもらうね』
細川の脳天を銃弾が貫く。
「うびゃぁぁあああ!!死んだぁぁぁあ!!」
「あーーーー!もう騒がないでよー!二回目じゃないの!?」
銃殺は初めてだよバカ!
「後の世ですよ!警戒してください!」
怒られた
辺りを見渡しせば先程まで裁判を開いていたはずの法廷は何倍も広く、と言うよりも俺達が小さくなったように全てが大きく感じた。
後の世は賊心の形が現れる。なら、今回も
「自己中心敵、承認欲求の塊…すご〜い、お似合いだァ」
細川の賊心か、その形は皆が知っているあろう童話のあの理不尽な赤の女王と周りを囲うトランプ兵。
『アンタは私の言うことを聞いていればいいの…』
『どうしてそんなことも出来ないの!』
『親に全て捧げんのがアンタの役目でしょ!』
細川の声がする。きっとこれが奴の本音なのだろう。
「下がっていてください。私と雪都で片付けます」
そう言う涼風は両手を前に突き出すと手のひらに空気が渦を巻くように集まり、一本の涼風の身長を超える鎌が現れた。
『風は導きである…』
涼風は鎌を大きく振り上げると
『鎌風』
鎌を振り下ろしてできた風が意図も簡単にトランプ兵を切り裂いていく。その後も自由自在に鎌を止まることなく振り回し、トランプ兵の軍は一瞬にして消え去った。
「ちょっと!ねぇ!ボクの出番は!?」
横を見れば拳銃を構えた雪都が涼風に文句を言っている
「じゃ、じゃあ親玉は雪都がやっちゃえばいいんじゃないかな」
額に汗を浮かばせながら涼風は言う。
「言われなくてもその、つも…り…」
雪都の声が途絶えると共になんだか腹が熱くなる。その熱は体を貫通して背中に…え?腹?
「あっ、ぁああ!」
「ちょっと嘘でしょ!?」
自分の腹を見ればダイヤの形をした槍が突き刺さっている。
「うぇ、ぇ?まじか…」
自分の死を察した。いや、ダイヤの槍って刺さるんだね…まぁトランプの中で一番刺さりそうな形してるもんね。そりゃ戦いで弾かれた勢いだけでも刺さりますわうんうん。けど、なんでまたこっち飛んでくるかなぁ…
足に力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。
「っ雪都!」
涼風がこちらに走って向かってくる
「分かってるよ〜!遊んでる暇じゃないことくらい〜!」
涼風と入れ替わるように雪都は赤の女王の元へ走る。
あ、なんか体が寒くなってきた。眠いな…
『発射ぁ!』
雪都の後ろにはいくつもの銃が登場する。何十丁もある銃口から発射された銃弾は自我を持っているかのごとく自由に動いたあと赤の女王、細川の賊心へ命中した。
『待ちなさい!待ちなさいよ!子供が大人に逆らっていいと思っているの!?』
賊心はまだ強気のようだが、何十発もの銃弾を食らってはもう動くことは不可能である。
「どうやら口が減らないようだな」
呑気な口調とは打って変わって荒々しい言葉でそう言ったあと、雪都はどこからかショットガンを取り出し、賊心へ向け
「さっきからその喋り方ムカつくんだよ、ババア」
撃ち抜いた。
賊心は朽ちた土のようにボロボロと崩れていく。それと共に後の世から本来あるべき世界へと戻る。
「涼風!」
雪都はすかさず涼風の元へ走り出した。
「どう、傷は!?」
「今血を抑えてるんだけど…これじゃもう…!」
「クソ…っ」
雪都は乱暴に自分の頭を掻き乱すとスマホを取り出し葬儀課のある人物へと電話をかけようとする。
しかしその手を止めたのは涼風だった。
「…待って雪都…これってもしかして……」
雪都は涼風が示す場所へ視線を移す。
「体が戻って…っ『再生』…!」
槍で貫かれた傷は、存在しなかったかのように無くなっていた。
ーー葛の葉葬儀 事務所
「再生を使えるようになったから戦闘員として導入する…?」
備品の携帯端末を片手に清蓮が床に書類をばら撒く。
「おい、落としてんじゃねぇよ」
そんな清蓮のケツを蹴るのは結都だ。
「三善てめぇ何結都さんに迷惑かけてんだ殺すぞ」
「ダメ…」
イラつく紗霧とそれを抑える杏璃を他所に、清蓮は困惑の表情を見せた。
「どうしていきなり、まだ早すぎるだろ…危険だ…!」
「雪白も…早いと…思う…」
清蓮の意見に雪白が同意する。
「早いも何も、あの人はそういう人だろうが」
結都は自分の気に入っているカウンターテーブルの一番右のイスに座って言う。
「芦屋道國は、生まれた時から葬儀屋の人間だ」
「死んでない!生きてる!わーい!」
目が覚めてからの第一声はそれだった。
気がつけば葬儀課の仮眠室。洗濯されたてのベッドの横には涙目の涼風といつもの調子の雪都。起きて早々涼風に謝られたし雪都にはふちゅーい!と怒られた。確かにあれは俺の不注意でもある。
「本当に良かったです…!道國さんが死んじゃったら私どうしようかと…!」
「そ、そんな思い込まなくても…ってあれ、傷は?」
自分の腹をさすってみたが痛みも感じないし傷痕もない。涼風に聞くと困った表情のまま固まってしまった。
「葬儀屋マジックだよ!」
対面する俺と涼風との間に挟まるように雪都が顔を出す。傷も直せるのか、すごいな葬儀屋マジック。
「何が葬儀屋マジックだアホ」
いつの間にか現れた高身長の銀髪の男。
「いたーい!いきなりデコピンしないでよ!」
「うるせぇ朱雀はさっさと今回の報告書を出せ」
銀髪の男はまたしても雪都にデコピンをかました。そして俺と目…が、合う…
「ひ、ひめちゃん!?」
「久しぶりだな、みち。おばさん元気にしてるか。」