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第200話:猫川まるきと二度目のコラボ〜いっそのこと配信しちゃいましょうこのエピソードを〜
北海道、帯広市。築三十年、家賃四万円のボロアパート。
「うぅ……っ。小麦粉、まじぃ……」
エウリアンに騙され、120回払いの極悪ローンで300万円の版画を買わされた俺——秋谷雪(40歳)は、袋麺や玄米すら買えなくなり、水で練っただけの小麦粉をすすってむせび泣いていた。
そんな絶望の四畳半に、PCのディスコードから軽快な着信音が鳴り響いた。
画面に表示されたのは、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)と……あの大手個人勢VTuber、猫川まるきのアイコンだった。
『あはははははっ! ひーっ、お腹痛い! ルシフェルさん、最高すぎます!』
通話が繋がるなり、スピーカーからまるきの爆笑が弾けた。
『月給10万円で、300万円の版画をフルローン!? しかも、無いボーナスを当てにして年2回18万円のボーナス払い!? まさか令和の時代に、そんな古典的なエウリアンに引っかかる社長がいるなんて!』
「笑い事じゃないぞ、まるきちゃん……! 俺はガチで明日からの食費がないんだ! このままじゃマジで餓死する……っ」
俺が鼻水をすすりながら訴えると、結愛が氷点下の声で冷酷に告げた。
『自業自得です。ですが、ルシフェル様が悲惨な小麦粉生活を送っていると報告したところ、まるき先輩から素晴らしい【事業再生プラン】をご提案いただきました』
「事業再生……?」
『はい! ルシフェルさん、それ、最高のエンタメ(ネタ)じゃないですか! いっそのこと、今すぐルシフェルさんのチャンネルで【コラボ配信】しちゃいましょうよ!』
まるきの提案に、俺は三万円のゲーミングチェアから転げ落ちそうになった。
「はぁ!? 配信!? 俺のこの、一生消えない情けない借金エピソードを!? 世界中に晒せって言うのか!?」
『転んでもただでは起きない。それが株式会社インフィニティ・ワンの社是です。300万円の痛手を、少しでもスーパーチャットで回収します。サムネと待機所はすでに作成済みです。強制スタートしますよ』
「お、おい! ちょっと待て結愛! 俺はまだ心の準備が——」
『配信、開始しました』
無慈悲なシステム音が鳴り、俺のYouTubeチャンネルのライブ配信が強制的にスタートした。
画面にデカデカと表示されたサムネイルのタイトルは。
【緊急コラボ】月給10万のスーパーボトム社長、絵画詐欺(エウリアン)で300万円の借金を背負うの巻【猫川まるき参戦】
『こんまる〜! みんな、聞いて聞いて! 今日はね、うちのかわいい後輩(?)のルシフェルさんが、とんでもないアホをやらかしたので、みんなで笑い飛ばしに来ましたー!』
まるきがプロの配信者ボイスで明るく煽ると、待機していた数千人のリスナーたちが、一斉にコメント欄に雪崩れ込んできた。
『は? 300万!?』
『草草草草草』
『またルシフェルがやらかしたのかww』
「あ、あわわ……こ、こんばんは、ルシフェルです……」
俺が力なく挨拶すると、まるきが楽しそうに事件の全貌を暴露し始めた。
『この人ね、「自分は三億円の器だ」とか「会社の経費で落ちる」とかイキって、美人のお姉さんにホイホイついて行って、1枚100万の絵を3枚もローンで買っちゃったんですよ!』
『しかも社長のくせに月給10万だから、今、袋麺や玄米も買えなくて水で練った小麦粉食べてるんです! やばくないですか!?』
コメント欄の流れる速度が、滝のように加速していく。
『典型的なアホで草』
『エウリアンの最高の養分www』
『経費の知識ゼロの社長(笑)』
『うめお先生のアドバイスをどう解釈したらそうなるんだよww』
リスナーからの「典型的なアホ」という容赦ない罵倒の嵐。
だが、その直後だった。
『小麦粉はあかん。これで玄米買いなさい』——¥10,000
『エウリアンへの授業料だと思って生きろ』——¥5,000
『最高のエンタメをありがとうww腹痛いww』——¥50,000
ドカン、ドカン、ドカンッ!!
画面が、赤や黄色や緑のスーパーチャットで埋め尽くされ始めたのだ。
「え……? な、なんで……?」
俺が呆然としていると、結愛が淡々と解説を入れた。
『ルシフェル様。リスナーの皆様は、貴方のその【突き抜けた愚かさ】に価値を見出しているのです。他人の不幸と、極限のバカっぷりは、このネット社会において最高の蜜の味ですからね』
『そうそう! ルシフェルさんみたいな愛されポンコツ社長、なかなかいないですよ! ほら、リスナーのみんなも「頑張って生きろ」ってお金投げてくれてるじゃないですか!』
まるきがケラケラと笑う。
その背景では、俺の四畳半の壁に飾られた300万円の美少女版画たちが、赤スパ(高額スーパーチャット)の光に照らされて、なんともシュールに輝いていた。
「お前ら……っ」
俺の目から、今度は小麦粉の不味さからではない、別の熱い涙がこぼれ落ちた。
「お前らぁぁぁっ! ありがとぉぉぉっ! これで、明日は特売の玄米が買えるよぉぉぉっ!!」
『草』
『泣くほど嬉しいのかww』
『借金は500万あるけどな!ww』
『スーパーボトム社長、一生推すわww』
画面を埋め尽くす「草」の文字と、止まらないスーパーチャットの嵐。
エウリアンに騙され、会社の経費という幻想に踊らされ、圧倒的な借金を背負った40歳の男。
だが、そのどうしようもない「アホな生き様」こそが、奇跡的なエンターテインメントへと昇華され、再び万のリスナーを熱狂させていたのだ。
「見てろよ……! 俺は絶対に、この300万の借金を配信で返してやるからな!! お前ら、これからも俺の人生という名のピエロ(喜劇)を笑ってくれぇぇっ!!」
『あはははっ! 言ったなルシフェルさん! みんな、これからもインフィニティ・ワンをよろしくねー!』
俺の叫びと、まるきの明るい笑い声が、帯広の四畳半から世界へと響き渡る。
資本主義の地獄の底から、スーパーボトム社長の新たな下剋上が、今、高らかに幕を開けたのであった。
コメント
1件
ゆうきあきやさん、最新話読み終えました! 「突き抜けた愚かさ」がまさかこういう形でエンタメに昇華されるとは…借金エピソードをネタに配信で返すっていう解決、すごく面白かったです。強制スタートの結愛さんの無慈悲さと、それを笑いに変えるまるきさんのプロっぷりが輝いてました。小麦粉すすってたシーンから一気にスパチャの嵐、その落差が気持ちよかった!
まう
104
81
魚卵
75
ゆうき あきや
4,132