テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
気づかれないように背伸びをして
置いていかれないように隣を歩いてさ
あの待ち合わせの場所も
最後に見送った背中も
ねぇ
自分でも、気づかないうちに、誰にも気づかれないように、背伸びをしていた。
学校の屋上で。
「ここら辺だっけ………」
屋上の真ん中あたりで、立ち止まる。
ここは、よく 仁人がいた場所だった。
風が心地よいだとか。
あの公園が見えるからだとか言って。
ここにくればだいたい仁人がいて。
2人でよく話したな。
でも、俺がゆりと付き合い始めてからは、
あんまり話さなくなったんだよな……
思い出した瞬間、胸の奥が痛くなる。
でも、別にゆりと付き合っていたことを後悔するつもりはない。
だけど。
「……っ。」
反射的に目を閉じる。
少し。いや、、、
だいぶ強い風が吹いた。
どこが心地のいい風なんだ。
寒くて、鋭い風じゃないか。
…………まあ、季節の問題もあるかもしれないけど。
そう、仁人に言ってやりたい風だった。
また、………会いたい。
会って、目を見て話したい。
そんな言葉、今さらすぎるのに。
俺もわかってるのに。
昔の俺は、仁人が隣にいることを、当たり前だと思ってた。
でも。
置いていかれないように、隣を歩いてさ。
歩幅を合わせる癖。
名前を呼ぶ癖。
気づくと探してしまう視線。
全部、無意識だった。
なのに、仁人がいなくなってから、
それが、もう自分の癖になっていたことに気づいた。
屋上の隅に座る。
遠くから聞こえる波の音。
ドタバタと廊下を走る音。
誰かの笑い声。
さっきよりも弱くなった風の音。
世界は普通に動いてる。
なのに、俺だけずっと、あの日から進めない。
『ごめんね。』
最後に聞いた仁人の声。
最後に聞く言葉が謝罪だなんて。
そう言って走り出した背中を、俺は見送ってしまった。
『まって。ねぇ!!!!』
まさか、最後に仁人に放った言葉がこれになるなんて。
自分でも思ってもいなかった。
あの時は、俺も必死で。
なんでか、悪い予感がして。
でも、明日も普通に会えると思ってて。
——最後だなんて、思うわけなかった。
思いたくもなかった。
今度はちゃんと、心地のいい風が吹く。
あの海の水面も揺れる。
同じ空の下に、もう仁人はいない。
分かってるのに。
それでもまだ、この場所に来れば、会える気がしてしまう。
会いたいよ仁人………
「………ねぇ。」
16,550
狂人⭐︎
コメント
1件
屋上のシーン、風の描写がすごく効いてました。最初は鋭く冷たい風、最後にようやく心地よい風が吹く——同じ場所なのに、時の流れと気持ちの変化が風に滲んでいて、静かに刺さりました。「歩幅を合わせる癖」「名前を呼ぶ癖」の並びも、無意識の積み重ねが喪失になって初めて輪郭を持つ感じがして、切なかったです。「ねぇ」で始まり「ねぇ。」で終わる構成も、独白の円環みたいで印象的でした。