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めっちゃ泣けてくる、、、好き
僕は頻繁に暗殺者から狙われていたが、僕に手が届く前に事前に防がれていた。
それは全てラズールのおかけだ。
でも五歳の時に死にかけたように、ごくたまにラズールの手をすり抜けて暗殺者の魔の手が僕に届く時がある。
もうすぐ十一歳の誕生日を迎える日のことだった。
この日は王や大臣達が不在で、ラズールが「たまにはのんびりと過ごしましょう」と言って、花が咲き乱れる中庭でお茶を飲んでいた。
当然、中庭の周りにはラズールが強力な結界を張ってある。
ラズールも僕には及ばないが、強い魔法を使えるのだ。
その結界に何かが触れたらしく、ラズールが確認をする為に席を離れた時だった。
結界を破って一本の矢が僕の肩を貫いた。
僕は迫ってくる矢に気づいた。だけど反応した時には遅く、振り向いて魔法で作ろうとした膜をすり抜けた矢が僕を貫いた。
「あっ…」
「フィル様っ!!」
異変に気づいたラズールが、ものすごい形相で僕に駆け寄る。
二の矢が迫ってきたけど、ラズールが身体から発した衝撃波で弾き飛ばした。
「衛兵っ!不審者だ!城内をくまなく捜せ!必ず見つけて殺せっ!王女が襲われたっ!」
「はっ!」
ラズールの声に数人の衛兵が集まり、命令を聞いて各自走って行く。
「ラズール…」
「フィル様っ、喋ってはなりません。今、矢を抜きます。とても痛いので俺の肩を噛んで下さい」
「んっ…」
ラズールが僕のシャツを破って肩を露にして抱き寄せる。
僕はラズールに言われた通りに、ラズールの肩を噛んだ。
「いきますよ。大丈夫。あなたはとても強い方だ…!」
「んんーっ!!」
ラズールが、勢いよく矢を引き抜いた。
とてつもなく激しい痛みに、僕の全身に力が入る。
「ああ…やはり毒が塗られている。フィル様、もう少し我慢してくれますか?」
「ん…」
「良い子だ。失礼します」
ラズールは一旦僕の身体を離すと、地面に自分の上着を敷いた。その上に僕を寝かせて、燃えるように熱い肩の傷に顔を寄せる。
「あっ!」
ラズールが強く血を吸って吐き出すことを繰り返す。
僕は痛くて呼吸を整えることだけで精一杯で、全てをラズールに委ねていた。
やがて肩に何かの液体をかけられ、やんわりとした温もりと共に痛みが引いていく。
ようやく痛みが去って、僕は安堵の息を吐きながら自分の肩を見た。肩には赤い痕が残っているものの、すでに傷口が塞がっていた。
ラズールも安堵の息を吐いて微かに笑う。
そして汗で顔に張りついた僕の髪の毛を撫でながら、僕の顔を覗き込む。
十九歳になったラズールの精悍な顔に、僕は思わず見とれてしまった。
「よく…頑張りましたね。毒を吸い出して、毒消しと化膿止めの薬をかけて傷口を塞ぎました。数日熱が出て痛みがあるかもしれませんが、もう大丈夫ですよ…」
「うん…ラズールありがとう。ラズールも…肩、大丈夫だった?思いっきり噛んじゃったから…。ふふ、ラズールがいなかったら僕はもう何度も死んでるね」
「肩は大丈夫ですよ。それに俺が絶対に守ります。何があっても死なせませんよ」
「うん…ううっ…」
「どうされました?痛みますか?」
「ちっ、違う…」
突然、僕に悲しみが襲ってきた。
ずっとずっと耐えてきたけど、ラズールがあまりにも優しいから我慢できなくなった。
「ゆっくりでいいので話してください。俺には何でも話してください」
ラズールが僕を抱き上げて膝に乗せ、涙が流れる頬に唇を寄せる。ラズールの唇が温かくてこそばゆくて、僕は少しだけ首をすくめた。そしてラズールの目を見つめてゆっくりと話し出した。
「…僕は、自分の立場をわかってる…。姉上の身代わりを立派にやらなきゃいけないってわかってる。病弱の姉上が、早く元気になってほしいって…心から願ってる。…でも、姉上が元気になったら僕は秘密保持のために殺される。この国の王女が実は双子で、もう一人は男で、しかもその男が王女のふりをしていたなんて、絶対に知られる訳にはいかないから…。そういうことを全て、ちゃんと理解してる。でもね…時々どうしようもなく辛くなる時があるんだ。僕は…何のために生まれてきたのかなって。価値のない僕は、生まれて来なくてもよかったんじゃないかなって。…ふふ、ラズールがあまりにも優しいから、ちょっと気が緩んじゃった…」
笑った拍子に目尻から涙が零れた。
その涙をラズールがまた唇を寄せて吸い、耳元で「フィル様…」と優しい声を出す。
「うん…」と鼻声で返事をした僕をそっと抱きしめて、ラズールが優しい声で続ける。
「俺が傍にいます。これからもずっと。もしも王女様が元気になられてあなたの役目が終わったら、俺があなたをこの城から連れ出します。追手が来ても、どこまでも一緒に逃げます」
「えっ?そんなことしたらラズールまで殺されちゃう…」
「あなたのためなら構いませんよ。でも殺されません。あなたと二人で、どこかでのんびり暮らしたいから」
「ラっ、ラズールぅ…!いいの?僕のこと、邪魔じゃない?」
「ふっ、なんてことを仰るのですか。あなたを大切だと思いこそすれ、邪魔だなどと露とも思いませんよ」
「うっうっ…、ありがとう…」
「ほら、もう大丈夫ですから泣き止んでください。あなたが泣くと俺まで辛くなります」
「うんっ…、でも止まんない…っ」
「困った方だ…」
僕はラズールにしがみついて、いつまでも泣き続けた。そのうち泣き疲れて、気がついた時には僕の部屋のベッドの上だった。
この日以来、僕とラズールの絆は更に強くなった。
だけど王が、このことに気づいていない訳はなかったんだ。