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七亡
1,516
#サイコパス
のの
32
26
雫石しま
253
「何のつもりだ?」
俺の妖精の囀(さえず)りの様にハスキーだが、圧倒的にドスの効いた質問。
疑問、疑問、疑問――
「何の……て、アメよ」
だからこれの何処がだ?
当然の様に言い放つ女の言葉が、俺の崇高な頭では理解出来ない。
愚民の下卑た考えは受け付けないのだ。
「ジョンは昨日から排出してないでしょ? 溜まった物は外に出さないと、身体に悪いのよ」
ま……まさか?
「今日はスッキリしちゃいましょう」
女のその笑みの意味に、俺は全てを理解してしまった。
こいつ……俺の黄金水を、こんなくだらん容器に注がせようとしてやがる。
『ふざけんな!!』
俺は思わず叫びそうになったが、思い止まる。
冷静だ冷静。
こいつは本物の馬鹿だ。
確かに生理現象は止められない。
それは俺といえど例外では無いのだ。
「ジョンのあられもない姿を見れるなんて……私は幸せだわぁ」
女はうっとりと目を輝かせている。この場から去る素振りが無い。
俺の一挙一動まで収めるつもりだろう。
「きっと琥珀色の輝きなんでしょうね……」
当たり前だ。
俺の神秘なる黄金水の前では、あらゆる香水が産廃と帰す程高価な物だ。
全財産を投げ売ってでも欲しがる女は多い。
それを只で手に入れようとは、この女は中々の策士だが、こいつは自分が馬鹿を露呈している事に気付いてない。
今は夏場だ。此処が地下とはいえ、容赦無く発汗作用という生理現象で、身体の水分を奪っていく。
つまり一日500ミリ程度の水分補給では、意図的に排出する必要は無いのだ。
この女、馬鹿だとは思ってはいたが、まさかここまで馬鹿だったとは……。
正直その浅はかさに幻滅したよ。
所詮は俺の敵にはなり得ない。
「ジョンは飲み会の席に行った事はあるかしら?」
俺が女を憐れんでいる最中の事だ。
いきなり何関係の無い事を言い出すんだこいつ?
まあいい。馬鹿なりの寝言だ。
答えてやろう、そのラストクエスチョンに――
「当然だ」
とはいえ、愚民共が馬鹿の習わしの様に行う、新年会や忘年会といった類いでは無い。
あんな下卑な席では酒も不味くなるが必然。
俺のエタニティウォーカータイムは、限りなく崇高でなくてはならない。
その席に男等、論外処か俺の品位まで下がりかねない。
男は性的欲求でしか行動出来ない、女以上に馬鹿な生物だ。
そんな下等生物共と交えた酒席に、俺が参加等ナンセンスだ。
俺は決して参加はしない。
俺がするのは開催のみだ。
勿論参加費は、全てその他以下が奉納という形。
俺は宴を楽しむだけ。
わざわざ神が愚民の為に酒宴を設けるのだから、それが至極当然の摂理だろ?
そんな神なる俺が開催する崇高な酒席とは、上質の女のみを揃えた、俺が頂点の王様ゲームのみ。
だがそれがどうした?
何の因果関係も無いのだが――
「お酒の席では、不思議と近くなっちゃうのよねぇ」
確かにな。この女が言ってる事は分からんでもない。
この場では何の関係も無いが、妙に納得したその時だった。
「先程のお茶に、ちょっと利尿のお薬混ぜちゃいましたぁ」
この女が馬鹿な事を言い出したのは。
「……は?」
俺の背筋に戦慄が走る。
その前にさっきのはお茶ですらない。汚水だ、訂正しろ――と反論する間も無くだ。
利尿の薬を混ぜた……だと?
「ほらほら、こうでもしないと汗になっちゃうでしょ?」
甘かった。何処まで底知れないのだこいつは!?
だとすると……まずい!
「水滴がぽちゃんぽちゃん、て感じで溜まっていくでしょ?」
その通りだった。
まるで閉めても漏れる水道管の様に、徐々に、だが確実に満たされていくのが実感していく。
こいつが明かしてしまったから尚更だ。
「おほほほ。さあレッツ放出ぅ!」
愉快に囃し立てる馬鹿女が、何時の間にか俺の前で、八ミリビデオカメラを抱えていた。
まさか……まさかまさかまさかまさか!?
「そのまさかよ。ちゃんと保存しないとね」
俺の心を読むな!
異常に気付き、レンズから隠そうと身を捩らせるが――無駄だった。
「これをウェブ上にアップしたら、ジョンのファンはどう思うかしらね?」
そんな事は決まってる。誰もが有り難く拝むに違いない。
だが勝手に晒す事は許されない。例え有料であってもだ。
「やめろぉぉぉぉ!!」
流石にこれは如何に俺と云えど耐えきれず、有らん限り叫ぶしかなかった。
絶対に流出させてはならない!
この場は我慢だ。要は排出しなければいいのだ。
方法は? 何か方法が有るはずだ!
俺はIQ220の頭脳をフル回転させた。
逃れられる策は――