テラーノベル
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「何のつもりだ?」
俺の妖精の囀(さえず)りの様にハスキーだが、圧倒的にドスの効いた質問。
疑問、疑問、疑問――
「何の……て、アメよ」
だからこれの何処がだ?
当然の様に言い放つ女の言葉が、俺の崇高な頭では理解出来ない。
愚民の下卑た考えは受け付けないのだ。
「ジョンは昨日から排出してないでしょ? 溜まった物は外に出さないと、身体に悪いのよ」
ま……まさか?
「今日はスッキリしちゃいましょう」
女のその笑みの意味に、俺は全てを理解してしまった。
こいつ……俺の黄金水を、こんなくだらん容器に注がせようとしてやがる。
『ふざけんな!!』
俺は思わず叫びそうになったが、思い止まる。
冷静だ冷静。
こいつは本物の馬鹿だ。
確かに生理現象は止められない。
それは俺といえど例外では無いのだ。
「ジョンのあられもない姿を見れるなんて……私は幸せだわぁ」
女はうっとりと目を輝かせている。この場から去る素振りが無い。
俺の一挙一動まで収めるつもりだろう。
「きっと琥珀色の輝きなんでしょうね……」
当たり前だ。
俺の神秘なる黄金水の前では、あらゆる香水が産廃と帰す程高価な物だ。
全財産を投げ売ってでも欲しがる女は多い。
それを只で手に入れようとは、この女は中々の策士だが、こいつは自分が馬鹿を露呈している事に気付いてない。
今は夏場だ。此処が地下とはいえ、容赦無く発汗作用という生理現象で、身体の水分を奪っていく。
つまり一日500ミリ程度の水分補給では、意図的に排出する必要は無いのだ。
この女、馬鹿だとは思ってはいたが、まさかここまで馬鹿だったとは……。
正直その浅はかさに幻滅したよ。
所詮は俺の敵にはなり得ない。
「ジョンは飲み会の席に行った事はあるかしら?」
俺が女を憐れんでいる最中の事だ。
いきなり何関係の無い事を言い出すんだこいつ?
まあいい。馬鹿なりの寝言だ。
答えてやろう、そのラストクエスチョンに――
「当然だ」
とはいえ、愚民共が馬鹿の習わしの様に行う、新年会や忘年会といった類いでは無い。
あんな下卑な席では酒も不味くなるが必然。
俺のエタニティウォーカータイムは、限りなく崇高でなくてはならない。
その席に男等、論外処か俺の品位まで下がりかねない。
男は性的欲求でしか行動出来ない、女以上に馬鹿な生物だ。
そんな下等生物共と交えた酒席に、俺が参加等ナンセンスだ。
俺は決して参加はしない。
俺がするのは開催のみだ。
勿論参加費は、全てその他以下が奉納という形。
俺は宴を楽しむだけ。
わざわざ神が愚民の為に酒宴を設けるのだから、それが至極当然の摂理だろ?
そんな神なる俺が開催する崇高な酒席とは、上質の女のみを揃えた、俺が頂点の王様ゲームのみ。
だがそれがどうした?
何の因果関係も無いのだが――
「お酒の席では、不思議と近くなっちゃうのよねぇ」
確かにな。この女が言ってる事は分からんでもない。
この場では何の関係も無いが、妙に納得したその時だった。
「先程のお茶に、ちょっと利尿のお薬混ぜちゃいましたぁ」
この女が馬鹿な事を言い出したのは。
「……は?」
俺の背筋に戦慄が走る。
その前にさっきのはお茶ですらない。汚水だ、訂正しろ――と反論する間も無くだ。
利尿の薬を混ぜた……だと?
「ほらほら、こうでもしないと汗になっちゃうでしょ?」
甘かった。何処まで底知れないのだこいつは!?
だとすると……まずい!
「水滴がぽちゃんぽちゃん、て感じで溜まっていくでしょ?」
その通りだった。
まるで閉めても漏れる水道管の様に、徐々に、だが確実に満たされていくのが実感していく。
こいつが明かしてしまったから尚更だ。
「おほほほ。さあレッツ放出ぅ!」
愉快に囃し立てる馬鹿女が、何時の間にか俺の前で、八ミリビデオカメラを抱えていた。
まさか……まさかまさかまさかまさか!?
「そのまさかよ。ちゃんと保存しないとね」
俺の心を読むな!
異常に気付き、レンズから隠そうと身を捩らせるが――無駄だった。
「これをウェブ上にアップしたら、ジョンのファンはどう思うかしらね?」
そんな事は決まってる。誰もが有り難く拝むに違いない。
だが勝手に晒す事は許されない。例え有料であってもだ。
「やめろぉぉぉぉ!!」
流石にこれは如何に俺と云えど耐えきれず、有らん限り叫ぶしかなかった。
絶対に流出させてはならない!
この場は我慢だ。要は排出しなければいいのだ。
方法は? 何か方法が有るはずだ!
俺はIQ220の頭脳をフル回転させた。
逃れられる策は――
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