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――無い!
そんな方法有る訳がなかった。
「我慢したら身体に毒よ。ジョンが膀胱炎になっちゃったりしたら……私は心配で泣いちゃうわ」
お前が言うな!
「頼む……頼むから普通にトイレに行かせてくれ!」
もうこうなったら恥も外見も無い。
懇願! 圧倒的懇願!!
俺がこの瞬間だけは折れてやったんだ。さっさと開放しろ。
「駄目よ。ここでしなさい」
だがそんな俺の懇願等、女は聞く耳持たず。
神の頼みすら背くというのかこいつは?
「大丈夫よ、ここには私しか居ないんだし……。そんなに遠慮しなくていいのよ」
そんな問題じゃ無ぇぇぇ!!
ああ不味い! 凄まじい勢いで貯蓄されていくのが感覚で分かる。
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
俺の状況を見て取ったのか、女が手拍子で煽りたててきやがった。
どうすればいい?
「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!」
うるせぇ黙れ――
そうだ無心だ!
煩悩を消せ。無心、無欲、色即是空――
「さあ黄金シャワーの御開演で~す」
駄目だ! カメラを回す女と煽りに気が散る。
もう、駄目だった……。
「きゃあ! いよいよね!」
生理的現象には神と云えど抗える事は出来ないのだ。
女は待ってましたとばかりに、カメラを向けてその時を待つ。
最後まで抗ったが、まるでダムの崩壊の如く全てが押し寄せ、そして崩れていく。
神話の崩壊だ。
「やめろぉぉぉぉ!!」
響き渡る慟哭のみが、ある意味最後の伝説だった。
俺は現象に身を呑み込まれながら、神から人への頂きに達してしまった。
「あっ……あぁぁ……」
痺れる様な悦楽と屈辱。そして望まぬ開放感。
ジョボジョボと音を発てて洗面器に注がれていく聖水。
「エクセレンッ! 何て美しいの! まるで黄金の輝き……」
至極当然当たり前だ。
だが俺に、そんな余裕はもう無かった。俺は生まれて初めて、絶望という感情を味わっていた。
「うぅ……」
悔しさの余り涙を流す。これも初めての事だった。
「あらあら、そんなに泣かないの」
女は俺に寄り添い、その涙を舌で拭う。
慰めてるつもりか?
「ジョンは涙まで美味しいのね」
やはり勘違いだった。
こいつにそんな感情は無い。在るのは己の欲望と執着のみ。
「さぁて――」
女は俺から離れ、下にある洗面器の前に腰を降ろすと、その容器を両手で掴み上げる。
何をする気だ?
「――っ!?」
思う間も無く、容器に満たされた聖水を飲んで、飲んでーー飲み干してやがる!
「あぁ……何て美味しいの……。きっと私の肌はもっと美しくなるわ」
狂っている……完全に。
女は一滴残らず飲み干して御満悦だ。
「さて、今日の躾はこれで御仕舞いよ。明日はもっと凄いから楽しみにしててね」
女は立ち上がり、今日の終わりと明日の始まりを告げる。
俺はこの女を甘く見過ぎてたのかもしれない。
「明日に備えてしっかり休まなければ駄目よ。じゃあお休み」
その言葉に戦慄が走る。
まだこれ以上があるというのか?
嫌だ――
「待ってくれぇぇぇ!!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁっ!!
「うふふふふ」
女は俺の反応を嘲笑い、妖艶な笑みを浮かべながら――名残惜しそうに此処を跡にした。
俺に絶望だけを残して――。