テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
再会は、想像していたより、ずっと静かだった。
壊れかけた建物の中に、
風の音だけが通り抜ける。
サイレンも、正義の声もない。
ラグドは、yを見て思う。
――変わっていない。
笑わないだけで、
黙って立っているだけで、
同居していた頃とほとんど同じだった。
それが、何より苦しい。
⸻
「……久しぶり」
ラグドの声は、
思ったより震えなかった。
yは一拍置いて、頷く。
「久しぶり」
声は壊れていない。
ちゃんと、生きている声だった。
⸻
「敵として、だっけ」
yは冗談みたいに言う。
ラグドは答えない。
否定もしない。
肯定もしない。
その沈黙だけで、
もう十分だった。
⸻
「codeは、どうなった」
距離を保つために、
ラグドはそれを聞いた。
「壊れたよ」
yは即答する。
「完全じゃないけど」
ラグドは、それ以上聞かなかった。
理解した瞬間、ここに立てなくなる。
⸻
yが一歩前に出る。
距離が、確実に縮まる。
「世界はさ」
yの声は、
喉の奥で擦れていた。
「最後まで、嘘をやめなかった」
誰かが選んだのに、
誰も選んでいない顔をする。
血を見ないまま、
正しいふりを続ける。
「……俺は」
一瞬、息が詰まる。
「それが、どうしても許せなかった」
⸻
「それでも」
ラグドは言う。
「お前は、人を殺した」
yは、迷いなく頷いた。
「うん」
「選んだ」
「だから――」
⸻
yは、ラグドのすぐ前まで来る。
吐息が触れる距離。
「……殺せ。」
耳元でそう言った。
それは懇願じゃない。
命令でもない。
結論だった。
「俺がここで終わらないと」
「また、誰かが“選ばれた悪”になる」
yは、ラグドを抱きしめた。
懐かしい距離。
同居していた頃と、まったく同じ体温。
⸻
ラグドの指が、震えながら何かを握る。
短剣。
一瞬の迷い。
次の瞬間、
それはyの体に沈んだ。
⸻
「――っ、 ぐ、
……ぁ゛……!」
⸻
声にならない音が、
喉の奥から無理やり引きずり出される。
悲鳴じゃない。
叫びでもない。
息が、壊れる音。
⸻
yの背中が跳ねる。
肺が、強く空気を吐き出す。
⸻
「……っ、 ――゛、
ぁ……っ」
⸻
声帯が言葉を作ろうとして、失敗する。
喉が鳴る。
低く、濁った、濡れた音。
⸻
「……゛、 ――あ゛……
っ、ぁ……」
⸻
一度だけ、大きく息を吸おうとして、
途中で詰まる。
「ごぽっ。」
という嫌な音。
口の端から、
息と一緒に血が溢れる。
⸻
yの指が、
ラグドの服を強く掴む。
⸻
「……よ、 ……っ、 ――」
⸻
言葉の最初の音だけが形になり、
その先が続かない。
喉が痙攣する。
⸻
「……゛ぁ、 ぁ…… ……」
⸻
声は、
次第に息に変わり、
やがて音を失う。
⸻
yの口は、
わずかに開いたまま止まった。
血が、遅れて溢れる。
温かい。
異様なほど、現実的な熱。
ラグドは、腕を離せない。
一秒。
刺した事実が脳に届く。
二秒。
yの体重が、全部かかる。
三秒。
掴まれていた服から、力が抜ける。
⸻
yは、最後まで言葉を言い切らなかった。
それでも――
安心したみたいな顔をしていた。
⸻
ラグドは崩れ落ちる。
血が床に広がり、
冷え始める。
外で誰かが叫ぶ。
世界は、また“正しく”処理を始めている。
codeは、もう動かない。
それでも。
世界の嘘は、
完全には壊れていない。
⸻
ラグドは、静かに泣きながら立ち上がる。
yが選ばれた悪だったなら。
ラグドは、
終わらせる役だった。
⸻
世界の嘘を壊すまで。
――終。
真エンド注釈
codeは壊れたのか?
→答えは、否。
codeは仕組みじゃない。
世界が「選ばないために選び続ける」癖だ。
yを殺しても、
世界は救われない。
ただ一つ変わったことがある。
「世界は、一度だけ、自分の嘘を見た。」
yという名前で行われた選択。
ラグドという名前で終わらせられた事実。
それは、記録から消せない。
だからこれは、
ハッピーエンドでも
バッドエンドでもない。
真エンドだ。
yは、世界の嘘を壊しきれなかった。
それでも。
壊そうとした意思だけは 確かに残った。
それを背負って生きるのが、
ラグドの物語の終わり。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!