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ばたっちゅ
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#誓い
耀聖(ようせい)
381
第九十四話 選んだ忘却
病院を出ても、二人はしばらく何も話さなかった。
少年の手には、さっき見つけた写真がある。
病室の外に立つ二人。
青いリボンの人。
そして、顔の見えないもう一人。
写真の裏に残されていた言葉。
『君自身が、忘れることを選んだ。』
何度読んでも、その意味が分からない。
「……自分で忘れることなんて、できるのかな」
彼女が呟いた。
「俺も、そこが分からない」
少年は写真を見る。
「でも、あの記録を書いた人は……少なくとも、そう考えてた」
「じゃあ、何か理由があったってこと?」
「たぶん」
二人は病院の前のベンチに座った。
少年は、これまで集めてきたものを一つずつ並べた。
銀色のチャーム。
古い写真。
破れた紙。
そして、病院から持ち出した写真。
「事故の日に忘れたものだけじゃない」
彼女が言う。
「うん」
「その前から、何かを隠してた」
少年は頷いた。
今までの記憶を思い返す。
『秘密は、忘れたから隠したんじゃない』
『守るために隠した』
あの言葉。
もし本当に、自分が忘れることを選んだのなら。
それも誰かを守るためだったのかもしれない。
「……あの人を守るため?」
彼女が尋ねる。
「たぶん」
少年は写真の青いリボンを見る。
「でも、それだけじゃない気がする」
「どういうこと?」
「俺が忘れたら、その人も守れると思ったんじゃないかな」
彼女が黙る。
その言葉を口にした瞬間、
少年の頭に記憶が浮かんだ。
白い病室。
自分のベッドの横に座る誰か。
『本当に、忘れるの?』
自分は答えた。
『……うん』
『後悔するかもしれないよ』
『それでも』
その人が何かを差し出す。
小さな箱。
少年は首を横に振った。
『それは、まだ持ってて』
『どうして?』
『全部思い出したときに、返して』
そこで記憶が途切れた。
少年は目を開けた。
「……箱」
「箱?」
「病院で、俺は箱を渡されそうになった」
「でも、受け取らなかった?」
「うん」
少年は頭を抱える。
「いや……違う」
記憶を整理する。
「俺が『持ってて』って言ったんだ」
「誰に?」
少年は答えられない。
顔が見えない。
声もはっきりしない。
ただ、その人が箱を持っていた。
そして、自分はその人に何かを頼んだ。
「……忘れたことを、あとで取り戻せるようにしたんだ」
彼女が写真を見る。
「だから箱が残ってた?」
「たぶん」
二人は顔を見合わせた。
これまで箱は、
過去の秘密を閉じ込めたものだと思っていた。
けれど、本当は違う。
箱は――
自分が忘れたものを、
未来の自分に返すために残されたのかもしれない。
そのとき、少年のスマートフォンが震えた。
知らない番号。
『病院の写真を見たね』
少年は画面を見つめる。
すぐに次のメッセージが届いた。
『なら、次は「誰に忘れることを頼んだのか」を思い出して』
少年の表情が変わる。
彼女が画面を見る。
「……忘れることを頼んだ?」
「うん」
「誰かに、自分から?」
少年は小さく頷いた。
そして、その直後。
もう一通。
『ただし、その人の顔を思い出そうとしてはいけない。』
二人は顔を見合わせる。
『先に、理由を思い出して。』
少年はスマートフォンを握りしめた。
「また、順番なんだ」
「うん」
思い出す順番を間違えると、同じことが起こる。
病院に残された言葉が、
ようやく意味を持ち始めていた。
顔を思い出す前に。
名前を思い出す前に。
なぜ、その人に忘れることを頼んだのか。
そこから思い出さなければならない。
少年は目を閉じた。
すると、また病室の記憶が浮かんだ。
『忘れてもいいよ』
『……本当に?』
『うん』
『じゃあ、約束して』
『何を?』
少年は、記憶の中でその人を見つめていた。
そして――
『俺が全部思い出したら……』
そこで記憶が途切れた。
少年は目を開けた。
「……何か、約束した」
「どんな?」
「分からない」
けれど、今度は違った。
言葉の続きを忘れているのではない。
その約束をした相手のことを、
思い出そうとしている。
そして、少年は気づいた。
その人は――
自分が忘れることを手伝った人ではない。
自分が忘れることを、
最後まで止めようとしていた人だった。
コメント
1件
**はる。だわ。** この話、めっちゃ刺さったわ…。「忘れることを選んだ」ってタイトルからして答えは出てるのに、その理由と「誰に頼んだのか」がまだ見えないもどかしさがたまらん。箱が「未来の自分に返すための鍵」だったって気づきのシーン、構成として美しいとしか言いようがない。しかも「顔を思い出すな」って制約かけてくるところ、続きが気になって仕方ない🔥 約束の続きも早く知りたい…!