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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
コメント
1件
うわ……第95話、めちゃくちゃ重くて切なかったです……「忘れる」ってことが一方的じゃなくて、自分で選んだ選択だったってのが胸に刺さりました。「探さないで」って書いた自分と、「忘れても探す」って言った自分、どっちも本物なのが辛い。最後のメッセージ「あの人は今も君を探している」で全部ひっくり返された気がしました…ちゃんと受け止めました。続きを静かに待ってますね🤍
第九十五話 忘れる前の約束
「止めようとしていた……?」
彼女の言葉を、少年は繰り返した。
病室で見た記憶。
『忘れてもいいよ』
そう言っていたように思っていた。
けれど、さっき蘇った場面では違った。
その人は、
最後まで自分が忘れることを止めようとしていた。
「……じゃあ、どうして俺は忘れたんだろう」
少年は病院から持ち帰った写真を見つめた。
写真には二人の人物が写っている。
青いリボンの人。
そして、箱を持っている人。
顔は見えない。
「この二人のどっちかが、俺に忘れることを頼まれたの?」
「まだ分からない」
彼女は写真の端を指でなぞった。
「でも、ここ」
「ん?」
写真の隅に、細い文字があった。
さっきまでは気づかなかった。
『忘れるのは、最後の手段。』
少年は息を止めた。
「……最後の手段」
「何かから逃げるためだったのかな」
「分からない」
でも、その言葉を見た瞬間、胸の奥に痛みが走った。
逃げた。
何かから。
誰かから。
あるいは――
何かを守るために。
少年は立ち上がった。
「もう一回、病院に戻ろう」
「今?」
「うん」
二人は再び病院へ向かった。
さっきの記録をもう一度確認する。
手書きの紙。
『二人目は、本人が思い出してから。』
そして、もう一枚。
以前は見落としていた小さなメモが、
ファイルの底から見つかった。
『本人が希望した場合のみ、過去の記録を開示する。』
その下には日付。
事故の翌日。
少年はその日付を見つめた。
「……俺が頼んだんだ」
「何を?」
「過去を、開かないように」
彼女が驚く。
「じゃあ、病院の人に?」
「たぶん」
さらに下に、短い文章がある。
『理由については本人から説明あり。ただし、本人の希望により記録には残さない。』
「……理由を話したのに、記録には残さなかった?」
「うん」
少年は紙を握った。
「俺自身が、残さないでくれって言ったんだと思う」
それなら、誰かに記憶を消されたわけではない。
事故の衝撃だけでもない。
自分で、未来の自分から過去を隠した。
なぜ。
その答えを探していると、彼女が別の紙を見つけた。
「これ……」
そこには、病院側のメモではなく、
少年自身の筆跡らしき文字が残っていた。
『もし思い出しても、あの人を探さないで。』
少年の顔から血の気が引いた。
「……俺が書いた」
「でも、今は探してる」
「うん」
その下には続きがあった。
『探せば、また同じことになる。』
二人は黙った。
事故の前。
少年は誰かを守ろうとしていた。
事故の後。
少年は、その人を探さないように
自分自身へ言い聞かせた。
それでも――
記憶の中には、ずっとその人が残っていた。
青いリボン。
銀色のチャーム。
約束。
『待ってる』
『戻る』
『忘れても、探すから』
矛盾している。
探すなと言った自分と、
忘れても探すと言った自分。
どちらが本当なのか。
「……一つだけ、分かった」
少年が言った。
「何?」
「俺は、最初からその人を忘れたかったわけじゃない」
彼女は黙って聞いている。
「忘れなきゃ、その人を危険に巻き込むと思ったんだ」
その瞬間。
また記憶が浮かんだ。
病室。
白い天井。
ベッドの横にいる誰か。
『もう、ここまでにしよう』
『でも……』
『あなたが覚えていたら、また探すでしょう?』
『……探す』
『だから、忘れて』
少年は首を横に振る。
『嫌だ』
相手の声が震える。
『お願い』
そして――
少年は長い沈黙のあと、言った。
『……分かった』
そこまでだった。
少年は目を開けた。
「……俺、誰かにお願いされてた」
「何を?」
「忘れることを」
「その人が、忘れさせたの?」
「違う」
少年は首を振った。
「俺が……その人を守るために、受け入れた」
彼女が静かに息を吐く。
「じゃあ、その人は……」
少年は答えられない。
ただ、最後に見た記憶の中で、
その人が泣きそうな顔を
していたことだけは分かった。
そして、その人が最後に言った言葉。
『全部思い出したら……今度こそ、私を探さないで』
少年は目を閉じる。
「……まだ、続きがある」
「何?」
少年はゆっくり目を開けた。
「俺は、その約束を守らなかった」
病院の廊下に、静かな時間が流れる。
忘れることを選んだ。
探さないと約束した。
それなのに今、自分はその人を探している。
そして――
その理由だけが、まだ思い出せない。
そのとき、スマートフォンが震えた。
知らない番号から、最後の一文が届く。
『約束を破ったのは、君じゃない。』
少年は画面を見つめた。
続く言葉は、たった一つ。
『あの人は、今も君を探している。』