テラーノベル
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ふわふわと顔が熱くて、目に映るカウンター席から見えるお酒の数々やオレンジ色に店内を照らすライトや、オシャレっぽい絵画やアンティーク調の飾り。
全部ゆらゆら揺れて。
耳元で響く坪井の声に、心臓が跳ねることも次第になくなり。
「飲みやすい?お前可愛いね。普段から可愛い顔してるけど」
息が耳にかかる。
背筋がぞくぞくと、知らない感覚が真衣香を襲う。
サラリ、と。
いつも眺めるだけだった坪井の髪が肌に触れた。
「酔うと可愛いうえに、エロいよ、お前」
腰に触れてた手が離れて、下腹というか、太ももというか。
ゆっくりと撫でられて。
素直に気持ちがいいな、と感じた。
感じたので、そのままに笑顔を見せ。
更に坪井の手に自分の手を重ねた。
「坪井くんの手、気持ちいいね」
「……マジで?」
「うん」
短く真衣香が答えた、すぐあとに。
「マスター、ありがと。今日これで足りる?」
「ちょっと、多いかな」
「あはは、んじゃ次1人で来た時何かそっから出してよ」
坪井の言葉に応えるようにしてマスターは微笑んだように見えた。
けれど、その表情はぼんやりとしか頭に残らずに。
真衣香の記憶には、ああ。あご髭が素敵なおじさまだったなと。
そんなふうに、頭の中には揺れるような不確かな記憶が残っていた。
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