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第7章:黄昏の残骸
教室の窓から、赤く染まる夕陽が差し込む。
だが、俺――紫苑――には、その光が温かく感じられなかった。教室には誰もいない。机も椅子も、すべて静止したまま、かつての笑い声や喧騒の痕跡だけが残っている。
空席を見渡すたびに、胸の奥が締め付けられる。優輝の事故、美月の消失、大樹の欠席、蓮の裏切り――すべてが、俺を孤立させるための連鎖だった。希望は、何一つ残らなかった。
俺はゆっくりと立ち上がり、窓の外を眺める。街灯に照らされた校庭も、風に揺れる木々も、静まり返っている。誰もいない、声もない、笑顔もない。月が赤く光り、世界を冷たく照らす。月明かりは、かつての仲間たちの顔を、思い出としてぼんやり映し出す。
胸の奥で、孤独が膨らみ、全身を締め付ける。
「……これが、最後か」
小さく呟く。答えは返ってこない。教室の空気は重く、沈黙だけが支配している。
歩みを進めると、机に残されたノートや筆記具が、まるで誰かを待っていたかのように並んでいる。触れようとしても、虚しく指先をすり抜ける。昨日までの記憶、友達の笑顔、声――すべては幻だったのかもしれない。
屋上に出ると、風が肌を刺す。空は夕闇に沈み、赤い月が校舎を照らしている。あの日の優輝、美月、大樹、蓮――彼らの顔が、月明かりに浮かぶ。手を伸ばしても届かない。叫んでも、返事はない。
「……どうして、誰も戻らないんだ」
叫ぶように呟く。声は空に吸い込まれ、返ってくるのは風の音だけだ。胸の奥の重さが、全身に広がる。孤独、絶望、裏切り、消失――すべてが混ざり合い、逃げ場のない牢獄のように俺を包む。
家に帰っても、状況は変わらない。母も父もいない。部屋は暗く、窓から差し込む月光だけが、冷たく俺を照らす。スマホも無音。友達もいない。希望も、笑顔も、未来も、すべてが消えた。
夜になり、ベッドに横たわる。夢に、消えた仲間たちが現れる。手を伸ばすが、やはり届かない。声をかけても、返事はない。目が覚めても、胸の奥の虚無感は消えず、むしろ増している。
やがて理解した。
誰も助けられない。誰も戻らない。自分も逃げられない。
これまで起きたすべての出来事――事故、欠席、裏切り、消失――は、すべて俺を一人にするために起きたことだったのだ。
教室に戻ると、最後の机を抱きしめ、空席を見渡す。月光が静かに差し込む教室は、まるで廃墟のようだ。沈黙だけが支配し、風の音さえも止まったかのように感じられる。
「……これで、終わりか」
静かに呟く。希望も救いも、笑顔も未来も、もう何も残っていない。俺は机に突っ伏し、目を閉じる。
赤い月が、教室全体を冷たく照らす。
沈黙だけが残され、紫苑――俺――は、世界から完全に孤立する。
笑顔も希望も、友情も、すべては灰になり、風に散った。
外の世界は、まるで時間が止まったかのように静かだ。
赤い月の下で、教室の残骸は語る――ここにいた者は、すべて消えたのだと。
俺はもう動けない。声も出せない。世界は完全に絶望の中に沈み、永遠の静寂が支配する。
こうして、紫苑の物語は終わる。
誰も救われず、
誰も帰らず
誰も残さない、