そして唇が離れて、お互いの視線をまた合わせて、微笑み合う。
「透子。どうしてここまで待たせちゃったか言い訳してもいい?」
「もういいよ。樹がまたこうやって戻ってくれてるだけでもう幸せだから」
もうこれ以上何も望まない。
今樹がここにいてくれるだけでいい。
「でもそれだとオレが納得いかないから。ここまで透子に悲しい想いさせたこと謝らせてほしい。ちゃんと言い訳させて?」
「わかった。じゃあ、話聞かせて?」
「了解」
お互いソファーにそれぞれ正面向いて座り直す。
「何から話そっか」
「聞きたいこといっぱいありすぎるけど」
「だよな」
「ってか、REIジュエリーの新ブランド社長って・・・うちの会社は?」
「ん?辞めてないよ」
「辞めてないの!?」
「うん。本来のこっちの会社は社長も無事に戻って来たから、ちょっと休んでた状態って感じかな。とりあえずこの新ブランド立ち上げるのに時間かかるし忙しくなるから、しばらくそっちに専念させてもらってただけ。でも新ブランドも落ち着いたから、一度そろそろ戻ろうと思ってる」
「えっ、そんな兼業みたいなこと許されるの?」
「まぁ。そもそもそうさせたの親父だし」
「えっ!?」
「実はこのREIジュエリーのREIKA社長さ~、実の母親なんだ」
「・・・えっ!? ちょっと待って。えっ?そうなの?」
「世間的には公に発表してないんだけどさ」
「うん。REIKA社長ってなんか謎に包まれてる感じ」
「まぁそうさせたのも結局親父だし」
「えっ?それも!?」
「元々母親はさ知ってる通りアクセサリーのデザイナーで。そこそこ活躍し始めた時にオレがデキて、子育てに忙しくなっちゃって。で、親父は親父で会社大きくするのに必死でさ。そのままどんどん家庭を顧みなくなっちゃったんだよね」
「そうだったんだ・・・」
「でもそうなってくるとさ、母親もストレス溜まっちゃって、デザイナーの夢も諦めきれなくなってきたらしくて。それから離婚して母親はあのブランド立ち上げて自分の夢選んだんだよね。でも親父の力は借りたくないからって自分で立ち上げてあそこまで大きくして、あえて親父のことも伏せて自分の力であそこまで有名になったんだ」
「そっか・・、全然知らなかった」
「母親側に引き取られたけど、オレもそんな母親の夢は応援したかったから、若いうちから家出て、オレはオレで一人で生活しててさ。でもオレは一人っ子だし親父的には跡継ぎにオレが必要だったから、結局はそっちの人生をすでに決められてて」
「うん・・・」
「実はREIジュエリーも経営厳しくなってた時期もあってさ。それであのプロジェクトで新ブランド立ち上げる話が出たんだ」
「そっか。じゃあ、あのプロジェクトで始まる前からすでに樹が関わってたってこと?」
「そっ。正直賭けだったんだよね。あのプロジェクトも」
「どういうこと?」
「正直新ブランドとの企画だし、どこまで実現出来てヒット出来るかもわからなかった。でももしこのプロジェクトが成功したらうちの会社もREIジュエリーも莫大な利益が出ることも期待出来た。でもその結果が出るまでは結局オレの人生もどうなるかわからなかったんだ」
どんどん樹の抱えてた荷物の全貌が明らかになっていく。
それは自分が想像もしていなかったことで、一つずつその話を受け取って行く。
「前にさ、栞と二人でいて透子が誤解してすれ違ったことあったの覚えてる?」
「あっ、うん」
「あれさ、この新しいブランドの立ち上げにいろいろと動いてた時だったんだよね」
「そうだったの!? 言ってくれれば・・・って言えなかったのか、その時は」
「うん。透子に誤解されて苦しかったし、ホントは言ってしまいたかったんだけど、これは内密に進めてたことだったから、透子にも言えなかった。ごめん」
「謝るのは私の方だよ。そんな大変な時に私が勝手に勘違いして大騒ぎしてごめんなさい」
「しょうがないよ。透子には伝えられてなかったんだし。実際そう思わせてしまって誤解させることしたオレにも責任があったワケだから。透子にそれを隠してること自体が透子傷つけてたことには変わりないから・・・」
「それは全然大丈夫。樹は一人で誰にも言えずに頑張ってたワケだし」
「実際、あのプロジェクトが成功しなければ、どっちの会社も危なかったんだよね。ホントはさ、透子に言えばよかったのかもしれないけど、これはうちの家のことの延長線の話だし、会社としてもどうなるかわからない状況で、そこまでの心配も不安も透子にまでさせたくなかった」
「うん・・・」
きっと樹はそういう人なのはちゃんとわかってる。
「そんな不安定な状況の中で、その時のオレは透子を守る自信がなかった」
きっと私はどんな樹だとしても、どんな状況でも一緒に頑張る自信あったんだけどな。
きっと当事者の樹は男としてもそういうことじゃなかったんだろうな。
「でも、私はどんな樹だとしても傍で支えてあげたかった。力になりたかった」
「透子はそういうと思った。ホントはそんな透子に甘えたかったのも本音。出来ることならずっとそのまま一緒にいたかったし、一緒に頑張りたかった」
「うん。それでよかったのに」
「でもさ。多分これはオレのプライドなんだよね。親父に対しても母親に対しても。オレの誠意を見せて証明したかったし、本気で両方の会社の力にもなりたいってこと伝えたかった」
「そっか。樹らしいね」
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