テラーノベル
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朝ごはん代わりのピザを食べ終えると、
エリオットは立ち上がった。
「そろそろ行かないと」
伸びをしながら言う。
金髪の天然パーマが朝の光にふわっと揺れる。
チャンスはソファに座ったまま腕を組む。
「仕事か」
エリオットは頷く。
「ピザ屋、朝の仕込みあるから」
そう言いながらシャツを整える。
そして――
チャンスのネクタイを見て、にやっと笑った。
「ちゃんと結んである」
チャンスは少し呆れた顔。
「お前がやったんだろ」
エリオットは近づいてきた。
「確認」
そう言って、ネクタイの結び目を指で直す。
距離が近い。
チャンスは動かない。
エリオットは結び目を整えながら言う。
「今日も引っ張っていい?」
チャンスは小さく息を吐く。
「好きにしろって言っただろ」
エリオットは楽しそうに笑う。
「覚えてる」
そのまま――
ネクタイを軽く引いた。
チャンスの顔が近づく。
ほんの少しの距離。
エリオットはそのまま止まった。
チャンスの目を見る。
朝の光の中で、
二人の距離はほとんどゼロ。
エリオットが小さく言う。
「ねぇ」
チャンスの視線が動く。
「なに」
エリオットは少しだけ首を傾ける。
「仕事行く前の挨拶」
ネクタイをもう少し引く。
チャンスの顔がさらに近づく。
あと少しで――
その瞬間。
エリオットのスマホが鳴った。
「……あ」
二人とも止まる。
エリオットがポケットからスマホを取り出す。
画面を見る。
「店長」
チャンスは小さく笑う。
「呼ばれてるぞ」
エリオットは少し不満そうに眉を下げる。
電話に出る。
「はい、今行きます」
短く答えて通話を切る。
それからチャンスを見る。
ネクタイはまだ握ったまま。
エリオットは少しだけ笑った。
「続き」
チャンスが眉を上げる。
「帰ってから」
エリオットはネクタイをぱっと離す。
そしてドアの方へ歩く。
靴を履きながら振り返る。
「逃げないでね」
チャンスはソファに座ったまま答える。
「仕事行け」
エリオットはくすっと笑った。
「行ってきます」
ドアが閉まる。
部屋は静かになる。
チャンスは少しだけネクタイの結び目を触った。
(……あいつ)
小さく息を吐く。
朝の未遂の距離が、
まだ少し残っていた。
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ゆゆゆゆ