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ゆゆゆゆ
3,331
#doublefedora
数時間後。
エリオットはいつものピザ屋のカウンターに立っていた。
店内はまだ昼前で、客はまばら。
オーブンの熱と、焼けたチーズの匂い。
店長が奥から声をかける。
「エリオットー、生地もう一枚伸ばしといて」
「はーい」
エリオットは生地を台の上に置く。
手のひらでくるくる回しながら伸ばしていく。
いつも通り。
慣れた作業。
――のはずだった。
ふと、手が止まる。
(……)
今朝の光景が頭に浮かぶ。
ネクタイ。
近い距離。
あと少しで触れそうだった唇。
エリオットの耳が少し赤くなる。
「……」
思い出した瞬間、
口元がゆるむ。
にや。
生地を伸ばしながら、また思い出す。
(チャンスの顔、近かったな)
にやにや。
店長が不思議そうに見る。
「エリオット」
「はい?」
「なんでそんな嬉しそうなんだ」
エリオットは一瞬止まる。
「え?」
自分の顔に気づいてない。
店長が笑う。
「恋でもしたか?」
エリオットは少し考えてから答える。
「……どうでしょう」
またにやっと笑う。
店長は肩をすくめる。
「若いなあ」
その時、
生地を回していた手がまた止まる。
エリオットはふっと息を吐いた。
小さく呟く。
「続き…」
自分でも驚くくらい自然に出た言葉。
頭の中で思い出す。
ネクタイを引いた感触。
チャンスの距離。
エリオットは顔を少し隠すように腕で口元を覆う。
「……やば」
ちょっと恥ずかしい。
でも。
またにやける。
店長が遠くから叫ぶ。
「エリオットー!チーズ!」
「あ、はい!」
エリオットは慌てて動く。
チーズをばらまきながら、
またぼそっと言う。
「帰ったら…」
少し笑う。
「もう一回やろ」
ネクタイ、引くやつ。
終わり。
お読みいただきありがとうございました!
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