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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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数時間後。
エリオットはいつものピザ屋のカウンターに立っていた。
店内はまだ昼前で、客はまばら。
オーブンの熱と、焼けたチーズの匂い。
店長が奥から声をかける。
「エリオットー、生地もう一枚伸ばしといて」
「はーい」
エリオットは生地を台の上に置く。
手のひらでくるくる回しながら伸ばしていく。
いつも通り。
慣れた作業。
――のはずだった。
ふと、手が止まる。
(……)
今朝の光景が頭に浮かぶ。
ネクタイ。
近い距離。
あと少しで触れそうだった唇。
エリオットの耳が少し赤くなる。
「……」
思い出した瞬間、
口元がゆるむ。
にや。
生地を伸ばしながら、また思い出す。
(チャンスの顔、近かったな)
にやにや。
店長が不思議そうに見る。
「エリオット」
「はい?」
「なんでそんな嬉しそうなんだ」
エリオットは一瞬止まる。
「え?」
自分の顔に気づいてない。
店長が笑う。
「恋でもしたか?」
エリオットは少し考えてから答える。
「……どうでしょう」
またにやっと笑う。
店長は肩をすくめる。
「若いなあ」
その時、
生地を回していた手がまた止まる。
エリオットはふっと息を吐いた。
小さく呟く。
「続き…」
自分でも驚くくらい自然に出た言葉。
頭の中で思い出す。
ネクタイを引いた感触。
チャンスの距離。
エリオットは顔を少し隠すように腕で口元を覆う。
「……やば」
ちょっと恥ずかしい。
でも。
またにやける。
店長が遠くから叫ぶ。
「エリオットー!チーズ!」
「あ、はい!」
エリオットは慌てて動く。
チーズをばらまきながら、
またぼそっと言う。
「帰ったら…」
少し笑う。
「もう一回やろ」
ネクタイ、引くやつ。
終わり。
お読みいただきありがとうございました!