バンドをやめると、またリストカットが始まった。
リスカの傷が増えて、どうしようもなくなると、また逃げ場を探すように、新たなバンド仲間を探して……あたしの18歳までは、そんな風にして価値もなく過ぎていった──。
だから、学生の頃をどう思うなんて聞かれたら、あたしは迷わずこう答える。
無価値──って。
何の価値も見い出せないまま、いたずらに手首に刻んだ傷は、えぐるように深く、リスカをやめてからも消えることはなかった。
ずっと残っていく醜い傷あとは、自分で自分を傷つけた代償。
あたしは左手首のサポーターを、一生はずせない。
今なら、あの頃のあたしに、言ってあげられるのに。
そんなことをしたって、仕方がないって。よけいに辛くなるだけなんだからと。
だけど、当時の自分にそんな思いやりの言葉が届くわけもない。
ぼろぼろのあたしには、リスカにしか、自分の居場所を見つけられなかった。
そんなあたしに、今のあたしが何を言ったって、受け止められるはずもない。
死にたくて、死にたくてしょうがなくて。
遺書なんて、何度も書いた。
死にたいのに死ねなくて、その代わりに手首を切り刻んでた10代の頃──
あの頃、死ななくてよかったのかどうかなんて、本当のところは、今だってよくわからない。
リスカをやめた今も、あたしはリスカの瞬間をありありと夢に見る。
カッターの刃を恐る恐る肌にあてて、スッと横に引く瞬間──痛みと、安堵とが訪れる、ほんの一瞬のあの時を。
もう何度も何度も夢に見て、あたしはそのあまりのリアルさに目を覚ます。
サポーターをはずして見つめても、手首には新しい切り傷は見つからない。
だけどあの、記憶の中にこびりつくように消えずに残る瞬間は、いつまでも痛みとともにあたしを切り刻んで、新たな傷あとを増やし続ける。
いくつになっても、あたしはきっと夢に見るのかもしれない。
自分の手首を切る瞬間を。
やがて老いて、おばあちゃんになってもまだ夢に見て、
死ぬ間際にさえも、夢の中のあたしは、あのピリピリと引きつれるような皮膚の痛みに、飛び起きるのかもしれない……。