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パーティーの出席にはパートナー同伴が必須だ。
だからグウェンダルが女性を連れているのは至極当然なのに、メリーティアは今の今まで彼の隣に別の誰かが立つことを想像できていなかった。
雪色の髪が息を呑むほど美しい女性だ。真っ白な肌やほんのりと血色が滲んだ頬は儚げで、庇護欲をそそられるほど華奢な身体をしている。
その美貌はグウェンダルの隣にいても引けを取らない。
彼女を一度見たら忘れられないだろうに、ホールトン家の領地でも帝都でも見た覚えがなかった。
それはメリーティア以外も同様のようで、「あの方は誰なの?」と囁く声が絶えない。
婚約解消をしてもう三カ月も経ったのだから、新しい婚約者がいても不思議ではなかった。
グウェンダルの平和と幸せを願ったから別れたのだ。自分以外の女性と幸せになる、という選択肢も当たり前に生まれるだろう。
それでも胸が痛むのはどうしようもなかった。
彼からフイと顔を背ける。
するとちょうどそのとき、皇族の入場が高らかに告げられた。
ケイリクスと皇后、それから皇子たちが入場する。今夜の主役である第一皇子が挨拶する間、メリーティアはじっと彼を見つめていた。
皇族の入場が終わると、ダンスの前に歓談の時間が設けられた。
第一皇子と皇后の周りには人だかりができており、そのすぐ隣には第二皇子の姿もある。第二皇子のそばには、挨拶をしているのだろうグウェンダルとパートナーの女性もいた。
ケイリクスはというと、ひとり玉座にかけてメリーティアの動向をただ眺めているようだ。
早速第一皇子に接近を試みようとすると、突然マイルズに腕を引かれる。
「どこ行くんだメリーティア。みんなで第二皇子殿下に挨拶をしに行くよ」
「お兄様っ! ちょ、ちょっと待ってってば」
皇子たちは近くにいるとはいえ、第二皇子のところにはグウェンダルがいる。
(グウェンダルに会いたくないのにっ!)
抵抗してもマイルズに力で勝てるはずはなく、母や父からも「観念しなさい」と言われた。
もしや彼らの目的は第二皇子ではなくグウェンダルでは? と気づいた頃にはもう遅かった。
「第二皇子殿下、ご機嫌麗しゅう」
父の挨拶に合わせて頭を下げる。
「ハイゼンベルグ侯爵。ご婦人。それにマイルズと妹君も。ひさしぶりに会えてうれしいよ」
第二皇子ユージーン・リオル・ヴェドニアは、父親とは真逆の人の好さが滲み出た笑顔を浮かべていた。
たしか、まだ十六歳のはずだ。子どものやわらかさが残る骨格をしていながら、ケイリクス譲りの整った容姿はすでに完成されている。
プラチナブロンドを顎の高さで切り揃えた奇抜な髪型も、彼の涼しげな雰囲気にはよく似合っていた。
瞳の色もケイリクスと同じ碧眼だが、汚い大人とは異なり光り輝くように澄んでいる。
メリーティアが覚えている彼の姿とは随分違った。
足元に跪いて何度も「すまない」と頭を下げていた記憶が霞むほど、本来の彼はきらきらしい美少年だったようだ。
外見のとおり性格もよく、頭脳のほうも稀にみる優秀さで、賢王になる器だと彼の教育係が鼻高々に語っているとか。
そのためユージーンを支持する貴族家は多い。
だが、母である皇妃の出身が彼の足かせとなっていた。
ユージーンの母は、聖国ハイネとヴェドニア帝国の同盟のためにケイリクスと結婚した。
当初は王女として嫁いできたのだが、あとから私生児だと判明したのだ。正当な王家の血筋ではないため祖国での立場も弱く、到底ユージーンの後ろ盾にはなり得なかった。
また身体も弱かったようで、彼が幼い頃に亡くなっている。
「マイルズ、この間は補佐官試験おつかれさま」
微笑んだユージーンは、マイルズに顔を寄せてこそこそと耳打ちした。
「ここだけの話、君は無事合格だよ」
マイルズ本人だけではなく父や母にも聞こえていたようで、こっそりと大喜びしている。
しかし前の人生でそのあとに待ち受けていた悲劇を思うと、メリーティアは心配が勝ってしまい手放しに喜べそうにはなかった。
「――第二皇子殿下、私はそろそろ失礼いたします」
間に割って入ったのはグウェンダルだ。
父はわざとらしく、たった今グウェンダルの存在に気づいたように声を上げる。
「ホールトン公爵、この度は娘が勝手な申し出をして誠に申し訳なかった! ほら、メリーティアもちゃんと謝りなさい。お前のことだからどうせホールトン公爵に失礼をしたんだろう」
子を溺愛している父だが、やることなすことすべてを肯定するほど親ばかではない。
メリーティアが送った手紙の文面から、グウェンダルに対して一方的に婚約解消を突きつけたことはお見通しのようだ。
(グウェンダルに直接謝罪させることが目的だったのね)
彼にそっと視線を向けた。
困った様子で父を宥めているグウェンダルの腕に、パートナーの女性が白魚のような手を添えている。
彼女と目が合ってしまい、咄嗟に視線を泳がせた。
近くで見てもきれいなひとだ。メリーティアは帝国一だと言われる自身の美貌を自負しているが、彼女とは美しさのベクトルが異なる。
「本当に慰謝料は必要ないとおっしゃるのですか? せめて何か贈らせていただきたい……! このままでは僕の気が済まないんだ」
父も母も必死にグウェンダルに頭を下げた。
そんな姿を見てメリーティアは申し訳ない思いでいっぱいだったが、理由が理由なので何も言えない。
「いいえ、本当にお気になさらないでください。私はまだ彼女を諦めていないので」
「――え?」
素っ頓狂な声を上げた父に、メリーティアも同調したかった。
別の女性をパートナーとして伴っておいてそんなことを言うなんて、彼女に対しても失礼だ。グウェンダルがそのような人だとは思っていなかったので度肝を抜かれた。
みんなの視線がグウェンダルのパートナーに向けられると、なぜかユージーンが笑いだす。
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