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『3年2組~未解決予告~』
プロローグ
夕陽が校舎に沈む角度を忘れかけた、廃校直前の中学校。かつて子ども達の声が混ざり合っていた廊下は、今では風が運ぶ砂埃の音しか返さない。
体育館の窓には割れたガラスがひっそりとはまり、夕暮れの色が血のように滲んでいた。
その学校の裏庭にある大きな桜の木の根元。二十歳になった元3年2組の生徒が、懐かしそうに、あるいは苦笑いを浮かべながら集まっていた。
「まさか、またここに戻ってくるとはな」
「うちらの代でタイムカプセル埋めたんやっけ」
「卒業式のあと、担任がさ……“5年後に開けよう”って言ってさ」
誰かの声が笑い混じりにこぼれた。
それは確かに“懐かしさ”の色をしていた。
けれど、そこに滲むかすかな違和感に、気付いた者はいなかった。
シャベルが地面に刺さる音が、やけに乾いて響く。
根を避けながら掘り進めると、固い手応えがあった。
金属の箱が現れた瞬間、その場の空気がぴたりと止まった。
誰かが息を呑む。
誰かが笑いを引きつらせる。
誰かが無言で見つめ続ける。
「……開けるよ?」
蓋が軋むような音を立てて開かれた。
そして、中を覗いた全員の表情が同じ形に歪む。
そこに入っていたのは、作文でも、未来の自分へ向けた励ましの手紙でも、卒業アルバムに挟むような写真でもなかった。
真っ白な紙。
けれど中心には、赤く滲む文字が一行。
『3年2組の誰かが人を殺す』
誰の声ともつかない叫びが上がり、箱は地面に落ちた。
紙はひらりと舞い、夕陽を背に黒い影を落とす。
「悪い冗談やろ……誰がこんなん入れたん?」
「先生……見てへんかったんかな?」
「覚えてへん……誰も……」
箱から漂う、古い鉄の匂い。
“赤い文字”が、まるで5年間腐らずに息を潜めていたかのようだった。
その場の空気は、懐かしさから一転して凍りついた。
やがて、散りはじめた桜の花がひとひら落ちる。
それを合図にしたみたいに、誰かがぽつりと漏らした。
「このクラス……誰か、本当に……」
答えのないまま、時間だけが流れた。
そして数カ月後。
元3年2組に一報が届く。
“元3年2組の上原 昂輝が、自宅で死亡”
遺体は“事故死”として処理された。
だがひとりの刑事は、葬式で漂う沈黙の色を嗅ぎ取った。
――違和感。
――嘘をついている匂い。
――誰かが何かを隠している。
刑事は調査を始める。
廃校の裏庭で見つかった予告の紙。
5年前の卒業式。
そして、3年2組全員の“未解決の罪”を追うために。
暗闇の底に封じられていた“あの日の出来事”は、もうすぐ姿を現す。
たとえ誰も、それを望んでいなかったとしても。