テラーノベル
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部員たちが片付けのために体育館へ戻り、部室棟の廊下でようやく白布君と二人きりになれた。……と思った、その瞬間。
「賢二郎〜! 凄かったねぇ、最後の一点! 執念のバックトス、シビれちゃったヨ〜♪」
背後から、ひょっこりと赤い頭が飛び出してきた。天童さんだ。その後ろには、苦笑いした瀬見さんと、純粋に感動している五色君まで引き連れている。
「……天童さん。終わったならさっさと着替えて帰ってください。効率悪ィです」
「冷たいな〜! 奈々花ちゃんが見てるからって、あんなに及川君をライバル視しちゃってサ。愛の力は偉大だねぇ、若さだねぇ!」
天童さんはニヤニヤしながら、私の肩をポンと叩いた。
「奈々花ちゃんも大変だね? 賢二郎のあのトス、完全に『俺の女に手を出すな』って書いてあったもんネ〜!」
「な、天童さん! 変なこと言わないでください!」
私が真っ赤になって言い返すと、今度は瀬見さんがニヤリと笑って参戦してきた。
「まあ、及川をあそこまで本気にさせたのは賢二郎の執着心のおかげだろ。西村さん、こいつ、試合中ずっとお前のことチラチラ見てたんだぜ? セッターの風上にも置けねーな」
「瀬見さんまで……! 視界に入っただけです、集中してました!」
白布君が声を荒らげる。でも、耳の先まで真っ赤なのは隠せていない。
「白布さん! 俺も感動しました! 西村さんのためにあんなに熱くなれるなんて、男の鏡です!」
「五色、お前は黙ってろ。……ったく、どいつもこいつも……!」
白布君は耐えきれなくなったのか、私の手首をガシッと掴んで、先輩たちの間を強引に突き進んだ。
「……西村、行くぞ。ここにいたら脳がバグる」
「あはは! 賢二郎、顔真っ赤だヨ〜! お幸せにネ〜♪」
天童さんの歌うような声を背中に受けながら、私たちは人気のない更衣室の奥へと逃げ込んだ。
扉を閉めた瞬間、白布君はドサッと壁に背中を預け、深く、深いため息をついた。
「……あー、クソ。……あいつら、マジで余計なことしか言わねー……」
「……ふふ、でも白布君、本当にかっこよかったよ? 私のこと見ててくれたの、嬉しかった」
私が少し照れながら伝えると、白布君は顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、熱を帯びた瞳で私を見つめた。
「……嬉しかった、じゃ済まさねーぞ。……あいつらに散々冷やかされて、俺のキャパはもう限界なんだわ。」
彼は私の腰を引き寄せると、さっきまでの喧騒をかき消すような、深くて独占欲の塊みたいなキスを落としてきた。
外野の茶化しも、及川さんへの敵意も。全部この熱さで塗りつぶしていく。
「……お前は俺の隣にいろ。」
週末、舞浜駅。
人混みの中で、白布君はいつものジャージではなく、少し大人びた黒のパーカー姿で立っていた。
「……三分のロスだ。効率悪いぞ、西村」
開口一番、いつもの小言。でも、その視線は私の服装を上から下までゆっくりと、吸い付くように眺めている。
「ごめん! ディズニーだから、ちょっと張り切りすぎちゃったかな……。変?」
「……変じゃねーよ。……似合っててムカつく。他人の視線がこれ以上集まる前に、さっさと行くぞ」
彼はぶっきらぼうに私の手を引き、指を深く絡めた。
東京ディズニーランドのパーク内に一歩足を踏み入れると、そこは色鮮やかな夢の世界。
「ねえ白布君! カチューシャ買お! 白布君は……あ、ミッキーの耳とかどう?」
「……正気か? 俺がそんな非効率な飾り、付けるわけねーだろ」
なんて言ってたはずなのに。
数分後、彼は私が選んだ101匹わんちゃんのカチューシャを、耳まで真っ赤にして装着させられていた。
「……奈々花。お前、これ一生の貸しだからな」
「あはは! 白布君、意外と似合ってるよ。可愛い!」
「……可愛くねーよ。……おい、こっち見んな。……笑いすぎだ、バカ」
彼は恥ずかしそうに前髪を整えると、周囲を牽制するように鋭い目を光らせながらも、繋いだ手だけは指先一つ分も離そうとしない。
人気アトラクションの待ち時間。
人混みに押されて密着する距離の中で、白布君がふと、私の肩を抱き寄せた。
「……奈々花。及川とここ、来たことあんのか」
「えっ、ないよ! そもそも及川さんとは近場ばっかりだったし……。ディズニーは白布君が初めてだよ」
私が正直に答えると、白布君は満足そうに、でもどこか独占欲を滲ませて目を細めた。
彼の大きな手が、私の頭をポン、と少し乱暴に、でも大切に包み込む。
「……ならいい。……今日の思い出、全部俺の計算で上書きしてやる。……お前の記憶に、俺以外の色は一ミリも残させねーから」
夢の国の魔法よりもずっと逃れられない、白布君の静かな執着。
初デートは、テストの一点差を競っていた時よりもずっと、甘く、熱い予感に満ちていた。
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