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#Paycheck
ゆゆゆゆ
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扉が閉まる音が、やけに静かに響いた。
外のネオンも喧騒も遮断されて、
一気に空気が変わる。
チャンスの家は思っていたよりも整っていて、無駄がない。
生活感はあるのに、どこか一線引かれているような空間。
「……へぇ」
エリオットがゆっくりと中を見渡す。
「ちゃんとしてるじゃん」
「意外か?」
「ちょっとね」
くすっと笑いながら、部屋に一歩踏み込む。
そのまま、何気ない動作で――
自分のネクタイに指をかけた。
きゅ、と少しだけ引いて。
緩める。
喉元が少し開いて、呼吸が楽になる。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。
「いつもこんな窮屈なの着てるの?」
振り返りながら、軽く首を傾げる。
チャンスは帽子を外し、テーブルに置いた。
そのまま、ゆっくりネクタイに手をかける。
「カジノは“大人の社交場”だからな」
余裕のある声。
「それなりの格好は必要だ」
するり、とネクタイを少し緩める仕草。
慣れている動き。
エリオットはそれをじっと見て――
にこっと笑う。
「似合ってたよ」
「……そうか」
「うん」
一歩、近づく。
さっきより、自然に。
「でもさ」
指先が、チャンスのネクタイに触れる。
軽くつまんで、くいっと引く。
「こうやってちょっと崩した方が、好きかも」
距離が近い。
近すぎるくらいに。
チャンスはその手を見て、少しだけ目を細めた。
「……お前な」
「なに?」
エリオットは無邪気に返す。
けれど、視線は逸らさない。
チャンスはゆっくりとその手を取る。
引き離すんじゃなくて――
そのまま、指を軽く握る。
「ここでも同じことすんのか」
低い声。
「場所変わっても関係ないでしょ?」
「ある」
即答。
一歩、距離を詰める。
「ここは俺の家だ」
さっきより少しだけ低く、近い声。
エリオットの呼吸がほんの少しだけ揺れる。
「だから?」
それでも、笑う。
挑発みたいに。
チャンスは一瞬だけ黙って――
ふっと息を抜いた。
「……いや」
その手を離す。
「好きにしろ」
エリオットは少しだけ目を丸くして、すぐに笑う。
「なにそれ、急に余裕」
「元々だ」
「ほんとに?」
またネクタイに指をかける。
今度はさっきよりゆっくり。
ほどくように、指を滑らせる。
「余裕ある人ってさ」
結び目を少し緩めながら、囁く。
「こんな風に触られても平気なんだ?」
チャンスの喉が、わずかに動く。
ほんの一瞬の沈黙。
それから――
「……試してみるか?」
エリオットの手をそのまま掴む。
ぐっと引き寄せて。
距離が、一気に縮まる。
「どこまでが“余裕”か」
低く、静かに。
逃げ場のない距離で。
エリオットは一瞬だけ目を見開いて――
すぐに、にやっと笑った。
「いいよ」
ほんの少しだけ、息が近い。
「負けないでね、チャンス」