テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3,386
扉が閉まる音が、やけに静かに響いた。
外のネオンも喧騒も遮断されて、
一気に空気が変わる。
チャンスの家は思っていたよりも整っていて、無駄がない。
生活感はあるのに、どこか一線引かれているような空間。
「……へぇ」
エリオットがゆっくりと中を見渡す。
「ちゃんとしてるじゃん」
「意外か?」
「ちょっとね」
くすっと笑いながら、部屋に一歩踏み込む。
そのまま、何気ない動作で――
自分のネクタイに指をかけた。
きゅ、と少しだけ引いて。
緩める。
喉元が少し開いて、呼吸が楽になる。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。
「いつもこんな窮屈なの着てるの?」
振り返りながら、軽く首を傾げる。
チャンスは帽子を外し、テーブルに置いた。
そのまま、ゆっくりネクタイに手をかける。
「カジノは“大人の社交場”だからな」
余裕のある声。
「それなりの格好は必要だ」
するり、とネクタイを少し緩める仕草。
慣れている動き。
エリオットはそれをじっと見て――
にこっと笑う。
「似合ってたよ」
「……そうか」
「うん」
一歩、近づく。
さっきより、自然に。
「でもさ」
指先が、チャンスのネクタイに触れる。
軽くつまんで、くいっと引く。
「こうやってちょっと崩した方が、好きかも」
距離が近い。
近すぎるくらいに。
チャンスはその手を見て、少しだけ目を細めた。
「……お前な」
「なに?」
エリオットは無邪気に返す。
けれど、視線は逸らさない。
チャンスはゆっくりとその手を取る。
引き離すんじゃなくて――
そのまま、指を軽く握る。
「ここでも同じことすんのか」
低い声。
「場所変わっても関係ないでしょ?」
「ある」
即答。
一歩、距離を詰める。
「ここは俺の家だ」
さっきより少しだけ低く、近い声。
エリオットの呼吸がほんの少しだけ揺れる。
「だから?」
それでも、笑う。
挑発みたいに。
チャンスは一瞬だけ黙って――
ふっと息を抜いた。
「……いや」
その手を離す。
「好きにしろ」
エリオットは少しだけ目を丸くして、すぐに笑う。
「なにそれ、急に余裕」
「元々だ」
「ほんとに?」
またネクタイに指をかける。
今度はさっきよりゆっくり。
ほどくように、指を滑らせる。
「余裕ある人ってさ」
結び目を少し緩めながら、囁く。
「こんな風に触られても平気なんだ?」
チャンスの喉が、わずかに動く。
ほんの一瞬の沈黙。
それから――
「……試してみるか?」
エリオットの手をそのまま掴む。
ぐっと引き寄せて。
距離が、一気に縮まる。
「どこまでが“余裕”か」
低く、静かに。
逃げ場のない距離で。
エリオットは一瞬だけ目を見開いて――
すぐに、にやっと笑った。
「いいよ」
ほんの少しだけ、息が近い。
「負けないでね、チャンス」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!