テラーノベル
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「……ほい、土方コノヤロー。これ、バレンタインのプレゼントでィ」
執務室のドアがガラリと開き、総悟がいつも通りの死んだ魚のような目で、ひょいと小さな箱を俺の机に放り投げてきた。
「あ?」
一瞬、耳を疑った。だが、箱の表面には「爆破注意」とも「毒物混入」とも書かれていない。中身を確かめるまでもなく、どうせいつもの嫌がらせか、あるいは中にタバスコや激辛ワサビでも仕込んだ爆弾チョコの類だろう。
「……てめぇ、俺をショック死でもさせる気か。いらねぇよ、お前の悪戯に付き合ってる暇はねぇんだ」
「人聞きの悪いこと言わねぇでくだせェ。せっかく可愛い部下が日頃の感謝を込めて高級チョコを買ってきてやったってのに。まぁ、いらないならそこにでも放っておいてくだせェ」
総悟はふんっと鼻を鳴らすと、さっさと踵を返して部屋を出て行った。
俺はため息を吐きながら、その箱をろくに確認もせず、すぐに机の引き出しの奥へと突っ込んだ。
鍵をピシャリと閉める。
こいつからの菓子は、後で爆発物処理班にでも回すか、総悟の目の前でゴミ箱に叩き込むのが正解だ。
だが、部屋を出て行った総悟と入れ替わるように、山崎がまたせっせと廊下から荷物を運び込んできた。
「副長……追加分です……。もう畳の上がチョコのピラミッドですよ……。なんで俺には一個もないのに、副長は引き出しに隠す余裕まであるんですか……ううっ……」
山崎の手によって、目の前の畳の上に、これでもかと色鮮やかなラッピングが積み上げられていく。
赤、ピンク、リボン、ハート。街の女たちが俺に宛てて贈ってきたという、大量の菓子。
それらを眺めていると、胃の腑の底から、どす黒いほどの虚しさが、じわじわと競り上がってきた。
(……何なんだよ、これは)
これだけ大量の、他の女からの菓子があるっていうのに。
俺の懐にある、あの銀色の小さな包みは、たった一つの、あいつに宛てた箱だけは、行き場を失って俺の胸を虚しく圧迫し続けている。
こんなにたくさんの人間が俺にチョコをくれる。
なのに、俺が一番欲しい相手からは、義理の一欠片すら届かない。
それどころか、あいつのところへこの銀色の箱を持っていけば、
「男からなんていらねぇ、女から貰った方が良い」
と笑われて、終わりなんだ。
畳の上に積み上がった、きらびやかなお菓子の山。
それが、俺の届かない片想いをこれでもかと見せつけているようで、ひどく滑稽で、惨めだった。
他の誰に好かれたって意味がねぇんだよ。
俺は、あの天然パーマの、だらしない、死んだ魚の目をしたあいつにだけ、これを受け取って欲しかった。
「副長? 顔色が死人のようになってますけど……」
「……うるせぇ。山崎、それ全部、お前が食え。一つ残らず、お前の腹に収めろ」
「えっ!? 良いんですか!? ……いや、嬉しいけど、流石にこの量は糖尿病になりますって!」
「知るかッ!!」
俺は怒鳴り散らすと同時に、椅子を派手に蹴立てて立ち上がった。
この部屋にいたら、自分の独りよがりな情けなさに押し潰されそうになる。
「パトロールに行ってくる。……朝まで戻らねぇからな」
懐の、銀色の包みをもう一度だけ上から強く握りしめ、俺は逃げるように執務室を飛び出した。冷たい夜風が、俺の愚かな頭を少しでも冷やしてくれることを願いながら。
風花🎧🫧🥀@中学受験生
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かんな
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コメント
1件
おお、この土方、苦しいな……! 大量のチョコに囲まれながら「一番欲しい相手からは一個も来ない」ってとこ、めっちゃ刺さったわ。総悟があんな素っ気ない手渡し方してるのに実は高級チョコってギャップもニヤリとする。最後に逃げるように夜パトに出るところ、余韻がえぐい。続き読みてぇ🔥