テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,625
9,447
junp
1,806
異動まで、あと一日。
照が支社へ出勤するのは今日が最後だった。
朝から社員たちは慌ただしく動いている。
「照さん、本社でも頑張ってください!」
「また戻ってきてくださいね!」
あちこちで声が掛かる。
照は笑顔で一人一人に返事をしていた。
その様子を、辰哉は少し離れた場所から見つめていた。
────────
昼休み。
照のデスクには、小さなお菓子や手紙が並んでいた。
「人気者だね」
💜「全部持って帰れる?」
💛「ギリギリ」
💜「段ボールいる?」
💛「いるかも」
二人は顔を見合わせて笑う。
その時。
🧡「照にぃ!」
康二が紙袋を持ってやって来た。
🧡「これ、みんなから!」
💛「ありがとう」
🧡「本社行っても、たまには顔出してや」
💛「もちろん」
康二は照の肩を軽く叩く。
🧡「待っとるから」
💛「ああ」
辰哉はそのやり取りを見ながら、どこか誇らしい気持ちになっていた。
────────
夕方。
終業時間。
部長が全員を集める。
「短い時間だったけど、本当に助かった」
「本社でも期待されてるからな」
拍手が起こる。
照は少し照れくさそうに頭を下げた。
💛「ありがとうございました」
「半年後、また戻ってきます」
その言葉に、オフィス中から「待ってます!」という声が飛ぶ。
辰哉も一番後ろで拍手を送った。
誰にも気付かれないように。
でも誰よりも強く。
────────
会社を出る頃には、外は夕暮れだった。
二人はいつものように駅まで歩く。
今日が最後の帰り道。
そう思うと、いつもの景色が少し違って見えた。
💜「明日から静かになるな」
💛「そんなに?」
💜「うん」
💜「照いないと、コーヒー間違えて買う人いなくなるし」
💛「まだ言う?」
💜「一生言う」
💛「参ったな」
二人で笑う。
笑っているのに、どこか寂しい。
────────
改札の前。
今日はなかなか「じゃあね」が言えなかった。
照が小さく息を吐く。
💛「半年」
💜「うん」
💛「長い?」
辰哉は少し考えてから首を横に振った。
💜「長いけど」
💜「終わりがあるって分かってるから」
💜「待てる」
照は穏やかに笑う。
💛「ありがとう」
少し沈黙が流れる。
周りには人がたくさんいる。
だから手は繋げない。
抱きしめることもできない。
その代わり。
💛「着いたら連絡する」
💜「ちゃんとご飯食べて」
💛「寝不足になるなよ」
💜「照こそ」
何気ない言葉を、一つずつ交わした。
それだけで十分だった。
────────
電車がホームへ滑り込む。
💛「行ってくる」
💜「……いってらっしゃい」
照が電車へ乗り込む。
ドアが閉まる直前。
目が合った。
照は小さく笑って頷く。
辰哉も笑い返す。
電車がゆっくり走り出す。
見えなくなるまで見送って。
辰哉は一人、ホームに立ち尽くしていた。
寂しい。
でも、不思議と涙は出なかった。
「また会える」
その約束があるから。
ポケットの中でスマホが震える。
まだ電車が駅を出たばかりなのに。
💛「もう会いたい」
辰哉は思わず吹き出した。
すぐに返信を打つ。
💜「まだ5分も経ってないよ」
ホームで一人笑う辰哉を見て、通り過ぎた康二が小さく笑った。
🧡「やっぱり隠せてへんな」
その呟きは、夕暮れの駅に静かに溶けていった。
コメント
1件
ああ、第23話読み終わりました…。今日が最後の帰り道かあ。改札前で「手は繋げない」「抱きしめることもできない」ってところ、すごく胸に来ました。周りに人がいるからできない、でもそれで十分だったって言い切れる関係性、素敵すぎます。あと「もう会いたい」ってまだ5分経ってないのに送るところ、照さんの不意に見せる甘え方が可愛すぎてにやけました。康二にバレてる辰哉さんも含めて、この距離感が本当に尊いです。半年後、絶対戻ってきますよね…待ちます。