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桃視点
ある日、俺はまろから逃げた。
ずっと忘れられなかった。あの幸せな瞬間、日々をまろと一緒に居るうちに記憶が無くなってしまう俺が俺じゃなくなりそうな感覚に突然狩られたのだ。
「……あにき、俺、もう嫌だ助けて、」
俺は声が震えていた。
あの腕の中は安心するのに、怖くて、苦しくて……どうしても外に出たくて、俺は信用のあるあにきの家に逃げ込んだ。
あにきは黙って俺を迎え入れてくれた。
何も聞かずに布団を用意してくれて、その温かさに涙が出た。
久しぶりに眠れると思った。
けど、俺は甘かった。
黄視点
気づいたら、玄関を乱暴に叩く音が響いてきた。
「おるんやろ、ないこ」
その声を聞いた瞬間、背筋が凍った。
「……まろ、お前、なにしに来たんや」
扉を開けると、そこに立っとったのは余裕の笑みを浮かべたまろ。
こいつは最初から、ないこの居場所を知っとったんやろ。
背後で布団から飛び起きたないこの気配を感じる。
俺は咄嗟に前に立ちはだかった。
「こいつはここで休ませたる。お前には返さへん」
けど、まろは片眉を上げただけやった。
「……あにき、勘違いしとるな。ないこは俺のもんや。お前が止められるわけあらへん」
次の瞬間、強引に腕を引き剥がされた。
必死に掴んでも、アルファの力には敵わん。
ないこが俺の背中に縋りついて震えるのを感じながら、俺は悔しさに歯を食いしばった。
桃視点
「やめろ……まろ、やめろよ!」
叫んでも、まろは振り向きもしない。
あにきの手から乱暴に引き剥がされて、俺はまた、あの腕の中に押し込められた。
「な? 俺からは逃げられへんやろ」
耳元に囁かれて、全身が痺れる。
あにきの「逃げろ!」って声が遠くに響いた。
でも俺の足は、もう動かない。
心のどこかで、これでいいやって思ってしまっていた。
――だって。
まろの胸の中は、苦しいほどに安心するから。
外に逃げても、結局はここに戻ってしまう。
何度でも、何度でも。
「……まろ。俺、やっぱり俺まろだけでいいや」
泣き笑いみたいな声でそう言った俺を、まろは満足げに抱きしめた。
あにきの叫びが遠ざかる。
俺の世界は、またひとつだけに閉じた。
――これが、俺の幸せなんだ。
/ 100♡ より 続き