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数日後の春日井家。
静かな仏間に、線香の香りが穏やかに漂っていた。
母親は千歳の写真が飾られた仏壇の前に正座し、静かに目を閉じて手を合わせる。
長い沈黙の末、震える声が漏れた。
「チーちゃん・・・」
写真へ優しく微笑みかけながら、母はぽつりぽつりと語り始める。
「チーちゃんを殺したヤツら、みんな逮捕されたわ」
その言葉に安堵を滲ませながらも、すぐに表情は曇った。
「気づいてあげられなくて、本当にごめんなさいね」
肩を震わせ、涙が頬を伝う。
「チーちゃんが苦しんでいたのに
私ったら全然気づいてあげられなかった
こんなバカな女が母親で
本当にごめんなさいね・・チーちゃん」
その言葉を聞いた千歳は、母の背中を見つめながら小さく首を振る。
「そんな事ないよ、お母さん・・・」
「え?」
不意に背後から聞こえた女性の声に、母は驚いて目を見開き、勢いよく振り返る。
そこには涙を浮かべた千歳の姿があった。
母は信じられないものを見るように目を見開く。
「ち、チーちゃん!?本当にチーちゃんなの?」
千歳は泣き笑いのような表情でうなずいた。
「ごめんね? お母さん・・・
親より先に死ぬなんて、とんだ親不孝者だよね」
言葉の途中で涙が溢れ、声が震える。
「私って・・・」
嗚咽に言葉が飲み込まれる。
しかし母は力強く首を横に振った。
「バカな事言うんじゃないの」
そう言うなり母は千歳へ駆け寄り、涙を流しながら強く抱きしめた。
「悪いのはお母さんの方よ」
抱き締める腕に力がこもる。
「私・・自殺したって本当に信じてた
バカよね・・・よく考えればチーちゃんが
自殺する筈無いって分かるのに」
自分を責めるように唇を噛む。
「私・・チーちゃんの事
全然見てあげれてなかった
母親失格よね・・・」
母は泣き崩れながら何度も首を振る。
「本当にダメな母親でごめんね」
千歳は涙を拭いながら、優しく母を見つめた。
「ううん・・・そんな事無い
私、お母さんの元に産まれて幸せだったよ」
その一言に、母は再び涙を溢れさせる。
「チーちゃん・・ぐすっ」
千歳は照れくさそうに笑い、それでも真っ直ぐ母を見つめた。
「お母さん・・・大好き」
母も涙を流したまま笑顔を浮かべる。
#普通
野々さくら
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ありあ
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「私も大好きよ・・愛してるわ」
千歳は何度も頷いた。
「お母さん・・・これからも私は
ずっとお母さんの娘だから
ずっとお母さんの事、見守ってるから」
母は涙で滲む視界の中、娘の姿を焼き付けるように見つめる。
「私のお母さんで居てくれて、本当にありがとう」
千歳は涙を流しながら、それでも穏やかな笑みを浮かべた。
母はその笑顔に微笑み返し、そっと手を伸ばす。
「チーちゃん!これからもずっと一緒に──」
その瞬間だった。
ふっと空気が揺らぎ、千歳の姿は淡い光となって静かに消えていく。
母は呆然と立ち尽くした。
「チーちゃん!?待って!」
伸ばした手は空を切る。
それでも母は、優しく微笑みながら空を見上げた。
「会いに来てくれてありがとう」
◇ ◇ ◇
夜風が静かに吹き抜ける。
街の喧騒から離れた公園には、虫の声だけが静かに響いていた。
千歳は柔らかな笑みを浮かべ、信愛へ向き直る。
「ありがとう・・・信愛」
その瞳には、もう先ほどまでの悲しみだけではなく、どこか晴れやかな光が宿っていた。
「信愛のおかげで、お母さんに想いを伝えれた」
信愛は少し照れくさそうに笑って首を横へ振る。
「ううん・・・お礼なんて良いよ」
そして真っ直ぐ千歳を見つめた。
「私、千歳の事、友達だって思ってるから
友達の為に協力するのは当然のことでしょ?」
千歳は思わず吹き出す。
「ふふふ、何それ」
少し肩をすくめながら苦笑した。
「私、幽霊だよ?」
信愛は迷いなく答える。
「私・・この前言ったよね?
『私は霊と話してない、春日井千歳って言う
一人の女子中学生と話をしてるんだ』って」
その言葉に、千歳は目を丸くした。
やがて優しく微笑み、小さく呟く。
「信愛は、とことん私を人間扱いしてくれるね」
少し寂しそうに夜空を見上げる。
「生きてるウチに信愛と出会ってたかったな」
信愛は返す言葉が見つからず、ただ千歳の名前を呼んだ。
「千歳・・・」
千歳は首を横に振り、穏やかに笑う。
「信愛に出会えて、本当に良かった」
ありがとうね・・・」
そう言うと、千歳はそっと両腕を広げ、信愛を優しく抱きしめた。
温もりなど感じられるはずのない抱擁。
それでも信愛には、不思議と千歳の優しさだけは確かに伝わってきた。
「千歳・・・」
信愛が震える声で名を呼ぶと、千歳は少しだけ距離を取り、優しい笑顔を浮かべた。
「さようなら・・・信愛」
その瞬間、千歳の身体は淡い光の粒となり、ゆっくりと夜空へ溶けるように消え始める。
信愛は涙を堪えながら、その姿を最後まで見届けた。
「千歳・・・」
最後に残った笑顔も、夜風と共に静かに消えていく。
信愛は満天の星空を見上げ、小さく微笑んだ。
「私も出会えて良かったよ・・千歳」
夜空には無数の星々が瞬き、まるで千歳がどこかで優しく見守っているかのように、静かに輝いていた。
File2−ネメシスの影−──END
コメント
1件
×××さん、File2完結おめでとうございます……このエピソード、本当に泣きました。千歳が最後にお母さんに「大好き」って伝えられたシーン、そして信愛に「生きてるうちに出会いたかった」って呟くところがもう、胸が締め付けられました。幽霊と人間の友情という設定が、ここまで温かく、切なく、そして美しいものになるんだなって感動しました。千歳の優しさが夜風に乗って読者にも届いてくるようでした。×××さんの描く世界、本当に好きです。