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「チッ……」
隣で、那由多が舌打ちをした。
「また、面倒なのが来た。帰るか」
そう言って、腰を浮かそうとした那由多を、「これっ」と、八意が引き留める。
「あ~~~! デヴァナガライ! 那由多がいるじゃないの! なんて奇遇なの! これも、神のお示(しめ)しかしら!」
「玉依(たまより)! 何のようじゃ!」
お茶を盆の上に置きながら、八意は向かってきた女性に呼びかけた。
「八意! 相変わらず、ちんちくりんねって、あれ?」
女性、玉依はこちらを見てニコリと微笑む。
「珍しい! ここにお客がいるなんて初めてじゃない?」
典晶の前に立った玉依は、腰に手を当て、こちらを見下ろす。くりくりとした大きな目は好奇心に満ちており、典晶、美穂子、文也の順で見て、最後にイナリに視線を合わせた。
「ん?」
玉依は目を細め、イナリを見つめる。
「あれ? この子、もしかして……」
「宇迦之御魂神の娘じゃ」
「やっぱり! イナリちゃん? 久しぶりね! 大きくなった! 少しまえまで、こんな位だったのに!」
そう言って、玉依は自分の膝下に手を当てる。
「玉依姉、会ったのは一月前のことだから、余り成長はしていない。宝魂石を食べて、人の姿になっただけだ」
「そっか! 見違えたと思ったら、人の姿になってた! 前は、狐だった物ね!」
天然だ。典晶は思った。イナリを見て、人と狐の区別も付かない。やはり、この人も歴としたこちら側の神様なのだ。
「で、君は……。不思議な感じね。人とも、妖(あやかし)とも違う。かといって、那由多とも違う」
一周して、今度はこちらに視線を向けてきた。居心地が悪いが、典晶は頭を下げて、口に入っているおにぎりをお茶で飲み下した。
「土御門典晶です」
「土御門? じゃあ、歌蝶さんの子供?」
「そうじゃ、歌蝶姉様の子供じゃ」
「イナリちゃんと典晶君が一緒にいるってことは、嫁入り? なんだ! 早く知ってれば、私も一枚噛んだのに!」
「止めろ、ただでさえ、ややこしい事になったんだ。お前まで絡んだら、余計ややこしくなる。気をつけろよ、典晶君達。こいつは、玉依姫命(たまよりひめのみこと)だ。暇を持て余している神様の一人だ」
「何よ! 人をトラブルメーカーみたいに言って。それに、暇を持て余してるって、失礼じゃない? これでも、ちゃんと人間界で社会人をしてるのよ?」
「トラブルメーカーは事実じゃろう? して、なんの用じゃ?」
うんざりと言いながら、八意は体を横に倒し、玉依の背後に視線を送った。
典晶も、八意に釣られて視線を玉依の背後に移す。
すっげ! どうなってるんだ?
お馴染みの言葉を言いながら、一人の青年が入ってきた。傍らには、少女がピッタリとくっついている。
「白鳳君! こっちこっち!」
玉依は手を振って、白鳳と呼ばれた青年を呼び寄せる。
年の頃は、典晶立ち寄りも少し上だろうか。中肉中背。顔は、典晶と同じくパッとしない。那由多や文也の様に、人を引きつける魅力のない顔だ。シャツにジーンズと、至ってラフな格好をしている。
「誰じゃ、お主は?」
「あの、初めまして、天(あま)城(ぎ)白(はく)鳳(ほう)です」
白鳳は腰を折って、こちらに挨拶をした。典晶達も、座ったままで頭を下げる。
「そっ、私の、内縁の旦那さん!」
そう言って、玉依は白鳳の腕にしがみつく。が、白鳳は玉依を力一杯振り払う。
「で、こっちが……」
白鳳が足下で隠れてこちらを伺う少女を示す。
「私と、白鳳君の愛の結晶。その名も、天城朱華(はねず)よ! 生憎、認知はされてないんだけどね」
玉依が、少女、朱華の手を取って手を上げさせる。
「朱華じゃ……」
ぺこりと頭を下げた朱華は、警戒するようにこちらを見てくる。
イナリと同じように、雪のように白い肌、そして、ピンク色の瞳と髪の毛。年は、二歳児程度だろうか。かなり小さいが、足腰はしっかりしているようで、自分で立って歩いている。
「はぁ、帰りたい」
露骨に嫌な表情を浮かべる那由多。そんな那由多を、「まあまあ」と良い、美穂子が朱華の前に歩み寄って腰を屈める。
「可愛い~! 神様と人間の子供? へぇ~、凄いわね! 初めまして、私、美穂子!」
「みほこ?」
「そっ、宜しくね、朱華ちゃん!」
強引に朱華の手を取った美穂子は、一方的に握手をすると、朱華の頬を指で押して感触を確かめる。
「典晶! イナリちゃん! すっごく柔らかい! 良いな~、子供の肌の張りは、最高よね」
「おい……! 美穂子! 止めろって!」
仮にも、いや、紛れもなく朱華は神様の子供だ。人間が触ってはしゃいで良いのだろうか。見ると、玉依が憮然とした表情で美穂子を見下ろしていた。