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空が、明るい。
魔界の空より、ずっと。
セラフィナは、馬車の窓から外を見ていた。
「……まぶしい」
「人間界の空は、少し高いですからね」
リリアが、やさしく答える。
セラフィナの隣には、
父――魔王。
その後ろ、そして外側には、
近衛騎士クロウ・フェルゼン。
さらに。
馬車の周囲を囲むのは、
人間界と魔界、混成の護衛部隊だった。
(……多い)
「セラフィナ」
魔王が、低く声をかける。
「怖くはないか」
「……だいじょぶ」
少しだけ考えてから、答える。
「みんないる」
その一言で、
馬車の外の護衛たちの背筋が伸びた。
* * *
王都・正門。
門が、ゆっくりと開かれる。
人間界の兵士たちは、
武器を構えず、胸に手を当てていた。
「――魔界より来訪!」
「魔王、ならびに姫君セラフィナ・ノワールを迎える!」
ざわめく民衆。
だが、恐怖より先に。
「……ちいさい」
「……可愛い……」
囁きが、広がる。
馬車の扉が開き、
セラフィナが姿を見せた瞬間。
空気が、止まった。
ノエル・クラークは、すぐに膝をつく。
「人間界王子、ノエル・クラーク」
「姫君を、歓迎します」
アルト・ヴォイドも続く。
「勇者アルト・ヴォイド」
「命をもって、守ることを誓います」
「……のえる」
「……あると」
名前を呼ばれた瞬間。
二人の心臓が、同時に跳ねた。
* * *
城内の庭園。
歓迎式は短く、
すぐに花の咲く場所へ案内された。
「……おはな!」
セラフィナは、目を輝かせる。
「人間界の花です」
「……かわいいいろ」
一歩、また一歩。
花に近づこうとして――
「……あ」
つま先が、石に引っかかった。
「――っ!」
ころん。
小さな体が、前に倒れる。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「……っ、う……」
目に、涙がたまる。
「……いたい……」
その一言で。
「セラフィナ!!」
魔王が、即座に駆け寄る。
「姫君!」
クロウが、剣を投げ出す勢いで膝をつく。
「だ、大丈夫ですか!」
ノエルとアルトも、ほぼ同時に動いた。
「医師を――!」
「いや、俺が抱く!」
民衆まで、息をのむ。
セラフィナは、地面に座ったまま、
小さく顔を歪めた。
「……ころん、した……」
「……いたい……」
ぽろっ。
涙が、落ちた。
その瞬間。
魔王の周囲の魔力が、
一気に殺気を帯びる。
「……誰だ」
「この石を、ここに置いたのは」
「ぱ、ぱぱ……!」
セラフィナが、慌てて父の服をつかむ。
「だいじょぶ……!」
「せらふぃな、ないてるだけ……」
その一言で。
魔王は、はっとして、娘を抱き上げた。
「……すまん」
「怖かったな」
クロウは、震える声で言う。
「……血は、出ていません」
ノエルは、膝をついたまま。
「すぐに整備を……!」
アルトは、拳を握りしめる。
(……泣かせたくない)
セラフィナは、父の腕の中で、
目をこすった。
「……もう、だいじょぶ」
「びっくり、しただけ」
そして。
小さく、笑った。
「……おはな、きれい」
その瞬間。
張りつめていた空気が、
ふっと、ほどけた。
* * *
帰りの馬車。
セラフィナは、父に抱かれたまま、
窓の外を見ていた。
「……にんげんかい」
「こわい?」
「……ううん」
少し考えてから。
「やさしい」
「みんな、あわててた」
ノエルとアルトは、深く頷く。
「当然です」
「当然だ」
セラフィナは、にこっと笑う。
「……また、くるね」
その約束は。
人間界にとって、
何より重い誓いだった。
――こうして。
魔界の姫は、転び、泣き、
それでも笑った。
そして人間界は。
守るべき存在を、心から理解した。