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レオンとセドリックさんは3日後の昼に帰って来た。現場であるレンツェが王都と隣接した街であることもあって、比較的簡単に往来できるのだ。騒動が起こった場所と距離が近いというのは、警備上の観点からすれば決して歓迎すべきことではないかもしれないが……すぐに現場に直行でき、状況把握が行えるのは良かった。
私は戻ってきたばかりのレオンを急かした。バルカム司祭が亡くなったという衝撃的な知らせを受けてから、ありとあらゆる可能性を想像して待機していたのだ。早く詳細を聞かせて欲しかった。ルーイ様も『とまり木』のメンバーも皆考えていることは同じだ。
「みんな俺の話が待ちきれませんって顔をしているね……」
場所は再びレオンの部屋。彼はソファに腰掛けると、ゆっくりと息を吸って吐き出した。これは決して私たちを焦らそうとしているわけではなく、呼吸を整えて高ぶった気持ちを落ち着かせようとしているのだ。そうやって深い呼吸を数回ほど繰り返した後、レオンは話を再開させた。彼の中で準備ができたようだ。
「3日前……レンツェに調査に行かせた一番隊の兵から、バルカム司祭が自害したとの報告を受けた。これについてはクレハたちもその場にいたから内容は知っているね」
レオンの言葉に私は頷いた。急ぎの知らせだったので、司祭が亡くなったということ以外は分からなかったけど……
「俺とセドリックは詳しい経緯を確認するため、現場に急行した。実は……司祭が死んだという知らせを受ける少し前に、彼が派遣先の教会からいなくなったという話は聞いていたんだよ。だから、薄々嫌な予感はしていた」
「それって、最初に言っていたレンツェで起きたトラブルの事ですか?」
「そうだ。あの時は少し立て込んでいてね。次から次へと新しい情報が入ってきて、俺も頭の中が整理できていなかった。それに、司祭が直ぐに見つかる可能性もあったから、クレハたちに教えるのを躊躇したんだ。結果は知っての通りだけど……」
私たちが部屋に来た時にレオンが見ていた書類。あれはバルカム司祭に関することだったのか。目まぐるしく変化する状況を冷静に見極めるのは大変だろう。不確定な要素だってあるし、慎重になるのは当然だった。
「セドリック。例のものを……」
「はい」
レオンの背後に控えていたセドリックさんが、懐から何かを取り出してテーブルの上に置いた。皆の注目がテーブルに向かって集中する。
「これは……手紙ですか?」
なんの変哲もない白い封筒。汚れや破損もない。見た目に不自然なところは見受けられなかった。
「バルカム司祭が死の間際に残した物……所謂遺書というやつだな」
遺書――――
ルーイ様があるかもしれないと予想はしてたけど、今この場で出てくるなんて……
「この封筒があった場所は海に面した崖の上……司祭は海に身を投げて命を絶ったんだ」
「投身自殺か。場所が海とは厄介な……遺体は?」
「崖から300メートルほど南に下った浜辺で発見されました。落下時……もしくは潮に流されている最中、岩などにぶつかったのでしょう。遺体の損傷はかなり激しかったです。不幸中の幸いだったのは、顔への傷は比較的少なかったので身元の確認が行えたことです」
「死んだのは司祭で間違いないということか……」
「はい。遺書の筆跡も調べましたが、司祭の書いた文字で間違いないかと……」
「その遺書、見せて貰ってもいいか?」
「どうぞ。我々はもう確認しましたので」
ルーイ様はテーブルの上の封筒を手に取ると、慎重に中身を改めていく。私もそれを横から覗かせて貰った。
この封筒は崖の上に残されていた司祭の祭服の中から発見されたそうだ。祭服は綺麗に畳まれており、更に風で飛ばされないよう、拳ほどの大きさの石を数個ほど上に乗せて固定してあったという。発見したのは司祭を捜索中だった一番隊の隊員だ。
『神の御前にすべての罪を告白します。心から悔い改め祈りを唱えよう。さすれば神の豊かな憐れみにより罪は赦される』
封筒の中には一枚の紙が入っていた。そこに記されていた文章は数行ほどの短いもので……これがバルカム司祭が最期に残した言葉。彼の遺書だとされているものだ。
「これが司祭の遺書? ずいぶんと抽象的な文面だね」
遺書を読んだルーイ様は釈然としないのか、そっけない口調で言い放った。私も彼と同じで引っ掛かるところがある。遺書というからにはもっと司祭の心情や、事件の背景が記されていると期待していたのに……
「えーと、神……というのはメーアレクト神だよね。司祭は自分の罪を悔いていた……精神的に耐えられなくなって自殺したってことでいいの?」
「神に赦しを乞い……そして最期は神の御許に行きたいと願いながら海に身を投じたってとこか。メーアレクト神は水を司る海の女神だしね」
クラヴェル兄弟の言う通り、遺書に記されている文だけで推理するとそんな感じだろうな。なんだかモヤモヤするけど、筆跡は司祭のもので間違いないらしい。遺書が入っていた祭服も同様だ。実際に近くの浜辺で遺体も見つかっているということもあり、警備隊は自殺と判断したのだ。
「レオンよ、お前はこれをどう思う? 素直に自殺として処理するのか」
「まさか。その遺書には不自然なところが多々ある。自殺の根拠にすることはできない」
レオンの回答にルーイ様は満足げに微笑む。遺書がおかしいと考えているのはレオンも同じだった。ふたりはまず、この遺書の謎から解明していくようだ。
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ねむ