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第2話:仕事の天才と、勉強ダメダメな後輩
目黒蓮が宮舘の指導下に入ってから一週間が経った。
その一週間で、総務部の誰もが目黒の「二面性」を嫌というほど知ることになった。
「あ、目黒くん! ちょっとその重い資料箱、あっちの棚の上に運んでもらえる?」
「はい、お安い御用です!」
目黒は持ち前の高身長と長い四肢、そしてサッカーで鍛え上げた見事な体幹を活かし、他の社員が二人懸かりで運ぶような重い段ボール箱を、軽々と、しかも爽やかな笑顔で運んでみせる。
通りすがりの女子社員や他部署の年配の社員からも、「本当に気が利く良い子ね」「格好いいわね」と、すれ違いざまに黄色い視線や感嘆の声が送られていた。
当の本人は、そんな視線など1ミリも気にしていない様子で、ただ真っ直ぐに宮舘のデスクへと戻ってくるのだが。
しかし、ひとたびデスクに座り、パソコンの画面に向き合った瞬間、彼の「完璧なイケメン」のオーラは音を立てて崩壊した。
宮舘が自身のタブレットから、社内の共有チャットツールを使って指示を送る。
『目黒くん、先月の経費精算のデータを、このフォーマットに沿ってエクセルに入力しておいてくれるかな?』
目黒はスマートフォンでそのメッセージを確認すると、「了解しました!」と力強く頷いた。
……が、そこからの動きが完全に止まった。
キーボードの上に置かれた目黒の大きな手が、まるで未確認物体を恐る恐る触るかのように硬直している。
彼は眉間に深いシワを寄せ、画面に表示された単純な関数や数字の羅列を、まるで未知の古代文字でも見るかのような目で見つめていた。
#短編集
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夢花𓂃𓂂ꕤ*.゚
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#Snow Man
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宮舘がふと横を向くと、目黒は魂が抜けたような顔で、パソコンの画面を見つめたまま完全にフリーズしていた。
> (…やっぱり、研修成績表の通りだね)
宮舘は心の中で小さく微笑んだ。
運動神経や対人スキルは群を抜いているのに、勉強や事務作業、数字の計算といった座学分野に入った途端、目黒は信じられないほどダメダメになってしまうのだ。
宮舘は自身のデスクを引き寄せ、あらかじめ準備しておいた一冊のファイルを開いた。
それは、宮舘がこの一週間の目黒の様子を見て、彼のために個人的に作成した「特製マニュアル」だった。
宮舘は目黒の肩をポンポンと軽く叩いた。
目黒がハッとして宮舘を振り返る。その顔は、テストで赤点を取っ
た子供のように申し訳なさそうに歪んでいた。
スマートフォンの音声認識アプリを起動した目黒が、消え入るような声で呟く。
『すみません、宮舘先輩……。俺、こういう細かい数字とかパソコンの操作、本当に苦手で……。頭が全然追いつかなくて、何から手をつけていいか分かんなくなっちゃいました……』
いつものクールで完璧な佇まいはどこへやら、すっかり落ち込んで耳を垂らした大型犬のようになっている。
宮舘は優しく首を振ると、手元に用意したファイルを目黒のデスクに広げた。
そこには、文字による説明は最小限に抑えられ、代わりにカラフルな図解や、実際のパソコン画面のスクリーンショットがステップごとに細かく貼り付けられていた。
どのボタンを押し、どの順番で数字を入力すればいいのかが、一目でわかるように視覚化されている。
宮舘はタブレットに文字を打ち込んだ。
『大丈夫。誰でも最初は分からないことばかりだから。文字や数字だけで覚えるのが難しければ、この図の通りに順番にやってみて。まずは1番のアロー(矢印)が指しているセルに、この数字を入れるところから始めてみよう』
目黒はそのファイルと、宮舘のタイピングされた文字を交互に見た。
宮舘の作ったマニュアルは、信じられないほど丁寧で、直感的で、勉強が苦手な目黒の脳内にも驚くほどスムーズに染み込んできた。
自分のために、耳が聞こえないというハンディキャップがありながら、ここまで時間と労力をかけて分かりやすい資料を作ってくれた先輩の優しさが、痛いほど伝わってきた。
『……これ、先輩が俺のために作ってくれたんですか?』
目黒がスマホに向かって呟く。宮舘は少し照れくさそうに、小さく頷いた。
その瞬間、目黒の胸の奥がドクンと大きく跳ねた。
世間の人々は、自分の容姿や運動神経といった「目に見える完璧な部分」ばかりを見て褒めそやす。
しかし宮舘は、自分の「ダメダメな部分」を否定せず、ただ静かに寄り添い、どうすれば自分が前を向けるかを考えて、こんなにも温かい手を差し伸べてくれた。
「……すごすぎる」
目黒の口から、本音の呟きが漏れた。それは音声アプリを介さずとも、目黒の輝くような瞳と、真っ直ぐに宮舘を見つめる視線だけで、十分に宮舘へと伝わっていた。
『宮舘先輩。俺、絶対これできるようになります。先輩の時間を無駄にしたくないんで、死ぬ気で覚えます!』
スマホの画面に表示された力強い言葉の通り、目黒は猛然とパソコンに向かい始めた。
マニュアルを指でなぞりながら、慣れない手つきで、しかし一歩ずつ確実に数字を入力していく。
宮舘は、そんな目黒の真剣な横顔を隣から見守りながら、胸の中に淡い温かさが広がっていくのを感じていた。
教育係という大役に最初は戸惑っていた宮舘だったが、この真っ直ぐで不器用な後輩のためなら、いくらでも力を尽くしたい――そう思い始めている自分に、まだ宮舘自身は気づいていなかった。
コメント
1件
うわぁ…第2話、めちゃくちゃよかったです🥀 目黒くんの「仕事はできるのに勉強はダメダメ」なギャップが可愛すぎますし、宮舘先輩が彼のために一人ひとりの特性を見抜いて手作りのマニュアルを用意してくれる優しさ…ちゃんと“できない自分”を否定せずに寄り添ってくれる人がいるって、すごく温かいですよね。 「すごすぎる」って呟く目黒くんの気持ち、すごくわかる。自分のためのものを作ってもらえるって、心に響くものがありますよね。2人の距離が少しずつ縮まっていく感じが、これからもっと楽しみです🌙 続き、静かに待ってます。