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しらなみ
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#主人公最強
杯雪乃
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桜咲かな
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「そのときも、死亡日時は三日後だった」
課長の佐伯はそう言った。
私は書庫の中で、しばらく言葉を失った。
「十五年前にも……死亡通知が?」
「声を落とせ」
佐伯が周囲を確認する。
書庫には私たちしかいない。
それでも彼は、誰かに聞かれることを恐れているようだった。
「誰に届いたんですか」
「知らなくていい」
「高瀬さんは三日後に死ぬんですよ」
「だから関わるなと言ってる」
「無理です」
私は佐伯を睨んだ。
「母の名前が書いてあるんです」
佐伯の目が揺れた。
「十五年前、母に何があったんですか」
「……」
「課長は母を知っていたんですよね」
佐伯は答えない。
その沈黙が、何よりの答えだった。
「お願いします」
私は一歩近づいた。
「母は死にました。もう本人には聞けないんです」
佐伯の顔から、わずかに険が消えた。
「千佳さんは――」
そこまで言って、口を閉じた。
「母は?」
「役所に来たことがある」
「いつですか」
「十五年前だ」
胸がざわついた。
「何をしに?」
「死亡届を出しに」
私は瞬きをした。
「誰の?」
佐伯は首を振る。
「これ以上は言えない」
「どうして」
「記録がないからだ」
「記録がない?」
「正式には、そんな届出は存在していない」
まただ。
存在していないもの。
存在してはいけないもの。
けれど、確かに誰かが見ている。
「当時も三日後の日付だったんですか」
佐伯は答えなかった。
私は確信した。
そうなのだ。
十五年前にも、まだ生きている誰かの死亡届が提出された。
そして母が関わっていた。
「その人はどうなったんですか」
佐伯の表情が固くなる。
「三日後に死んだ」
背中を冷たい汗が流れた。
「死因は?」
「事故だ」
「転落?」
佐伯が私を見る。
「違う」
少しだけ安心しかけた。
だが、その言葉は続いた。
「車ごと川に落ちた」
溺死。
二枚目の死亡通知が頭に浮かんだ。
榊原美佐子。
九月七日。
死因――溺死。
「その人の名前は?」
「言えない」
「榊原美佐子ですか」
佐伯の顔が変わった。
ほんの一瞬だった。
でも、見逃さなかった。
「知ってるんですね」
「水城」
「二枚目に書かれている名前です」
佐伯が息を呑む。
「二枚目?」
私は言ってしまったことを後悔した。
七枚あるとはまだ佐伯に話していない。
「何枚ある」
「……」
「何枚だ」
「七枚です」
佐伯は壁にもたれた。
「そんな……」
顔色が悪い。
驚いている。
演技には見えなかった。
「七人の名前が書かれていました」
「全員、生きてるのか」
「一人については分かりません。六人は生きています」
佐伯が目を閉じた。
何かを計算しているようだった。
「始まったんだ」
「何がですか」
「十五年前の続きだ」
その瞬間、書庫の外から声がした。
「課長、いらっしゃいますか?」
職員だった。
佐伯は死亡届を封筒に戻した。
「この話は終わりだ」
「終わってません」
「今日は帰れ」
「高瀬さんは?」
「会うな」
「でも――」
「三日後まで、高いところに近づけるな」
私は耳を疑った。
「助けるんですか?」
佐伯は答えず、書庫を出ていった。
*
私は母の家へ戻った。
日が落ちていた。
遺品整理業者は帰っている。
誰もいない実家。
玄関を開けると、十二年間避け続けた匂いがした。
古い畳。
線香。
母が使っていた化粧品。
私は電気をつけた。
七枚の死亡通知を居間に並べる。
一枚目。
高瀬隆志。
二枚目。
榊原美佐子。
三枚目。
父、水城雅彦。
四枚目から六枚目は、まだ知らない人物。
七枚目だけ名前が消されている。
その横に、母の紙片を置いた。
私は、この七人に殺されました。
十五年前。
母は未来の日付が書かれた死亡届を役所へ持ってきた。
三日後、その人物が本当に死んだ。
そして今。
同じことが始まっている。
私は立ち上がった。
母は記録を残す人だった。
領収書。
家計簿。
学校からのプリント。
私が子どものころ書いた作文まで取っておく人だった。
そんな母が、十五年前のことだけ何も残していないはずがない。
押し入れを開けた。
段ボールを一つずつ下ろす。
アルバム。
保険証券。
古い年賀状。
父のゴルフ用品。
一時間近く探したころ、奥から小さな木箱が出てきた。
鍵がかかっていた。
私は台所から金槌を持ってきた。
一度ためらった。
母なら怒るだろう。
そう思ったら、少し笑えた。
「死んでまで怒らないでよ」
金具を叩いた。
三度目で外れた。
箱の中には、写真が入っていた。
十数枚。
十五年ほど前のもの。
写っているのは母、高瀬、父。
そして知らない男女。
高瀬の会社で見せられた集合写真と同じ人々だった。
七人いる。
母を除いて。
「……七人」
私は写真を並べた。
高瀬。
父。
おそらく榊原美佐子。
残り四人。
死亡通知の人数と一致する。
箱の底には、一冊の手帳が入っていた。
母のものだった。
二〇一一年。
十五年前。
ページをめくる。
最初は普通の予定だった。
買い物。
病院。
PTA。
私の学校行事。
六月に入ったところから、突然、人の名前ばかりになる。
高瀬。
雅彦。
美佐子。
高瀬。
雅彦。
そして、六月十八日のページ。
赤いペンで大きく丸がついていた。
そこに一行。
高瀬に殺される。
私は息を止めた。
次のページ。
もし私が死んだら、高瀬隆志を調べて。
母は、自分が高瀬に殺されると思っていた。
でも十五年前、母は死ななかった。
死んだのは別の誰か。
ページをめくる。
六月二十日。
文字が乱れている。
失敗した。
六月二十一日。
あの人が死んだ。
六月二十二日。
高瀬は私を殺せなかった。
そして六月二十三日。
その日の文章を読んだ瞬間、私は手帳を落とした。
だから私が、高瀬を殺す。
何かがおかしい。
母は被害者だったのか。
それとも――
私は手帳を拾った。
最後のページに、一枚の写真が挟まっていた。
高瀬隆志が写っている。
若い高瀬。
その顔を、赤いペンで何重にも囲んである。
裏返す。
母の字で書かれていた。
この人に殺された。
私は眉を寄せた。
十五年前、母は生きていた。
なのに、
「殺された……?」
そのときスマートフォンが震えた。
高瀬からだった。
出る。
「もしもし」
返事がない。
ただ荒い呼吸だけが聞こえる。
「高瀬さん?」
『水城さん』
声が震えている。
『誰かが会社に来た』
「誰ですか」
『分からない』
「警察を呼んでください」
『無理だ』
「なぜ」
高瀬がかすれた声で言った。
『そいつ、千佳なんだ』
私は動けなくなった。
「母は死んでます」
『知ってる!』
高瀬が叫んだ。
『でも今、防犯カメラに映ってるんだよ!』
私はスマートフォンを握りしめた。
『あんたの母親が――』
高瀬の声が途切れた。
そして最後に、
小さく言った。
『俺を見上げてる』
コメント
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第4話、めっちゃ重かった……でも一気に引き込まれたよ。 佐伯課長の「十五年前の続きだ」って台詞、ものすごく怖かった。母が「高瀬に♡♡♡れる」って手帳に書いてたのに、今度は高瀬が防犯カメラで母を見たって言うの、意味がわからなくてゾッとした。千佳さんが生きてるのか、それとも何か別の存在なのか……。 この不気味な空気、swingout777さんの表現力がすごい。続きが気になって仕方ないよ。