ガラ……
「やほー、さっきぶり。」
「ん……」
「珍しいね、教室来いだなんて」
「話があって」
ほんとに珍しい。クロは最近、僕と話す時なんだかぎこちないし。……話。いい話かな。それ、とも……
「で、話ってなに?いい話?告白?」
「……悪い話、かもな」
「…なんかあったの?」
「メイ、俺のことが─」
─好き、なのか?
「……ひゅ、」
一瞬、頭が真っ白になる。なんで知って……るの。
「4月の…同学年として初めて話した日のこと、覚えてるか?……その後、なんとなく向かった屋上で、メイを見た。……俺と付き合えるかな、って言ってたのを」
あー、終わったんだ。終わりなんだ。
この恋は、ここで切れる。……そう確信した。
「…そうだよ。そうだ、その通りだ。……ごめんね、気持ち悪いよね、同性愛者なんて友達にしたくないよね、ごめんなさい、恋なんて、好きになったり、して……」
今まで隠してた感情が、一気に溢れかえる。
ごめんね、あと少しだけ、付き合ってね。クロ。
「え、っあ、……その傷…?」
「これぜんぶ僕がつけた傷だよ。勝手に妄想して、辛くなって…」
「……」
「…無理に言葉かけなくていいよ。どうせ、今日で全部終わる。ぜんぶ、ぜんぶ無くなる。……君への想いと君との思い出、全部消すから。」
「全部消す、って……」
「…やっぱり、忘れて。…あと、もう関わらないで。」
「え?いや、…嫌だ。なんで……俺はメイと……メイのこと…好きになった、のに……」
「そうなんだね。」
……好きになった、か。じゃあ、両片想いで、両方同時に失恋だね。
苦しいけど、やっと解放されるんだ。……だから。
「……ごめん。ごめんね。僕の元好きな人に、迷惑かけたくないんだ。…さようなら。もうしばらく戻らない。」
その言葉だけ残して、僕は教室を飛び出してしまった。
(なんであんなこと言ったんだろ…)
それから二ヶ月後。すっかり不登校になった。
今でも、あの日のことを後悔している。
目の前には─ロープと傷だらけの手。……そう。今から血だらけで死ぬの。
自傷は落ち着く。なんか、生きてる心地がする。今から死ぬけど。
……今日は、クロと初めて出会った日。初めて、授業を寝て過ごして……初めてが多かった日。
ふと、いつかの会話を思い出す。
─ね、くろ。僕ね、自殺するならクロと初めて出会った日にしたいな。
─どうした……?そんな急に。
─思い出の日を、記念日にするの。できれば心中したいな。くろと。
─えぇ…
「う”、っ……!おえ”ッ、げほ、……ふー、っ、ひゅぅ、」
……死のうと思ってるけど、さっきからずっとこの調子だ。吐き気がやばい。
飛び降りの方がいいかな。首吊りは苦しそうだし、体の中のもの全部出るって言うし。ばっちい。
「やっぱ高い……5階だから……」
僕が住んでるのはマンションの5階。飛び降りるのにはぴったりな場所だ。
ベランダに吹き抜ける風が涼しい。僕、この中で死ぬのか。
「…死ねる」
……ねえ、クロ。会話の中でも、いっぱい伏線を貼ったよ。
あの映画の話、覚えてる?あれね、僕の理想の予定そのまんま。
君が助けてくれると思ったから。
…でも、
「……助けてくれなかったね。」
……理想の押し付けすぎかな。
でも、これが最後のわがまま。ごめんね。
手すりに手をかけて、登ろうとした時だった。
「メイ!!!!!」
─振り向くと、真っ直ぐな瞳と目が合った。
走って来てくれたのか、息が上がっている。
「くろ……?」
「はあ、は、っ、間に合った……か?」
「……来てくれたんだ……!きみなら来てくれると思ってた…よ……」
……僕の体が、あたたかい腕に包まれる。
いつもみたいに結んでいない黒い髪が鼻をくすぐった。
「ごめん、ごめん……!何も助けられなくてごめん…!辛いはずなのに、気づいてたのに、助けられなくて…!」
鼻をすする音が聞こえた。クロの声が漏れる。泣いてるんだ……だめ、泣いちゃだめ、もらい泣きしちゃうよ……
「……助けてくれたよ、君は。えへへ、嬉しいなあ。あったかくて…一人の人に、こんなに愛されてるんだって、僕は生きていいんだって、君に気づかせてもらえた。」
「…助けられた、のか……?」
「うん。助けてくれた。ありがとう……!」
それから5分くらい、ずっとクロの腕の中で泣いた。
…今までの気持ち、全部さらけ出すみたいに。
「……あ、ごめん…俺ハグなんかして…」
「あ、ちょっと待って。離さないで……」
「え?」
「……僕、今とっても幸せ。恋が叶ったみたいに。でも、クロとは恋人じゃない。……両想いだけどね、もうそこで止めたいと思うんだ。一線を超えちゃ、いけない気がして。だから、この恋はもう終わり。このハグは、両想いのちょっと可哀想な2人として、最初で最後のハグ。これからは、親友以上恋人未満、ってところで、一旦止める。でも……」
クロと離れて、ベランダの前に立つ。ステージに立つみたいに。
……あるいは、結婚式で新婦を待つ新郎みたいに。
ボロボロのぬいぐるみの目が、夜の光を反射してきらきら輝いている。
2人を結ぶ指輪のように、ね。
「いつか、この恋が普通になるまで待ってて。そしたら、迎えに行くから。それまで待ってて。いつか絶対……約束してくれる、?」
……クロが微笑んだ。ふわり、という表現が一番似合う、優しい笑み。
ああ、この子に恋してよかった。この人を、好きになって、良かった。
「約束、だ。それまで誓いのキスはお預けだな」
「……あはは、そうだね」
「……よし……!合格だ!」
「おめでとう!やったね。……てか、どこだっけ。」
「えと…”蒼ヰ高等学校”ってとこ。」
「え、そこから推薦来たんだけど」
「……え?…ということは……」
「…一緒だ!!やった!!!嬉しい……!!!」
ほんとに嬉しい。これからまた3年間、クロと。初めて少女漫画のような恋をして、初めてあれだけ一緒に泣いた子と。2人でまた過ごせる。
思わずハグをしてしまう。……もちろん、友達としてだけど。
だって、恋人としてのハグはまだお預けだもんね。
「うわ、っ!?」
「やった、やったあ!嬉しいなあ。ほんとに……えへへ…」
「……やったな。」
「これからもよろしくね、……クロ!!」
…普通に恋としては報われなかったけど。
一人の同性愛者が繰り広げる人生の大体…5歩目ぐらいの終盤?
……としては、いい終わり方になった。
きっと、僕はもう1人で寂しがることはない。
「へへ…僕、今とっても─」
─幸せだ!
終
制作・著作
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ⓐⓦⓞ
ENDROLL
如何でした?
私としては結構な力作
はやく同性婚認めないんすかね…
えとまあ、主な出演者は─
〈同性愛者/主人公:メイ〉&〈██に悩まされる青年:クロ〉
でした。
ぜひこの2人に拍手を
88888888888888
では
さよーならー