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王の血を持つ者
恐ろしい『何か』を隠している者。
彼女は、彼女自身の手で壊される。
たとえそれが、運命だとしても、、、。
彼女、アナシス・フラン・スカーレットの朝は早い。夜明け前に起き、軽い食事をとって街を出る。
「、、行きましょう。もうじき日が昇ってしまいます」
麻布のローブを目深に被り、大きな鞄を肩から下げている。髪は血のように深い赤。目は心を見透かすような虹色だ。
整った顔を隠すように俯き、地図を広げている。
「次は、サライア村ね。馬車で一週間、、、。路金が心配だけれど、大丈夫かしら」
ここはウィステリア王国。雪深い冬国で、年の半分が雪に覆われている。主な生息魔獣はウィンターウルフ、ウィンタードラゴンである。
サライア村はウィステリア王国の中では温かい方で、作物がよく育つ大きな村だ。
「この辺りは馬車の通りが多いはずなのだけれど、、、」
その時、近くを農作物を積んだ馬車がガタゴトと音を立てて通りかかった。
「すみません、ロザリアまで乗せていただけますか」
「あいよ、銅貨4枚でいいぜ」
運転手の手に硬貨を乗せ、2台へ乗り込む。
(サライア村までロザリア、クレモンド、フウィーガルね、、、残りの手持ちは銀貨12枚と銅貨20枚。クレモンドからフウィーガルまで四日かかるから、最低でも銀貨4枚。少しギリギリかもしれないわ)
少し考え込んでいたが、馬車の大きな揺れでこちらへ戻される。
(かなり揺れたわ、どうかしたのかしら)
彼女の予想は大体当たる物である。
「ありゃ、、、嬢ちゃん、すまねぇ。馬が石踏んで怪我しちまってよ。これ以上歩けそうにねぇんだ。金返すから他当たってくれ」
「それは大変ですわ、私が治しましょう」
少しの沈黙の後、運転手が口を開く。
「治すって、、、お前さん医者だったのか?」
「いえ、治癒魔法を使います」
「、、、、、、治癒魔法って、冗談はよしてくれ。大人を揶揄っているのか?」
治癒魔法。常人には使えない、凄まじい魔力を要する魔法。ひとつの国に3人いるかどうか、使える人が少ないのだ。治癒魔法を使う者は一般的に聖女と呼ばれる。
「揶揄ってはいません。必要がないならもう行きますね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!頼む、ロザリアまで無料で乗せる!頼むよ」
懇願する人を見捨てるような真似は出来ないとばかりに頷き、馬に手をかざす。
『ヒール』
彼女の手から緑色の光が溢れ出し、血の滴る馬の足を包む。そうして傷口が塞がっていき、やがて傷は無くなった。
「お前さん、本当に聖女だったのか、、、」
「いえ、私は聖女には値しません。この通り、簡単な傷しか治せませんから。」
治癒魔法にはいろいろな種類がある。通常治癒、反映治癒など、5種類ほど。だがそれを全て使えるのは、最初の聖女しかいないと言われている。
「だとしてもすごいことだ、ありがとう」
「お役に立てたなら光栄です。あと、このことは内密にお願いします。余り知られてもアレなので。」
「あぁ、約束しよう」
頷かれると、彼女はまた荷台へともどり、馬車内の木箱に腰掛けた。
そうして彼女、アナシス・フラン・スカーレット–––王の血を持つ者を乗せた馬車は、ロザリアへと急ぐのだった。