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「わたしも海に行きたい!」
いつもの鍛冶屋でわたしは吠えた。
「いけばいいだろ」
「行きたい行きたい行きた〜いっ!」
「馬でいけばそのうちに着く」
「そうじゃないでしょ! そこは俺が連れてってやるよっとか言ってくれて一緒に行くのがセオリーなんでしょ!」
わたしとダリルのやりとりを見ていたミーナが
「そうやって断られるところまでか、テンプレってやつなんだよねっ!」
はうっ! 助け舟ではない悲しい現実。
「だいたい、わたしみたいな美少女から海に誘われて、嬉しいとかなんとかないの?」
「フィナさんってこの界隈では凄い人気だもんねっ。噂では求婚なんてのもあったとか無かったとかっ!」
この狐っ子は本当によく知っている。あの剣士くんの連れ子みたいで、討伐依頼に出るたびにダリルに預けられているけど、ダリルともなんか親しい……世話してくれる人ってだけじゃないような。
「それで断ったのが、わたしにはもうココロに決めた人がいるから。とかって! きゃーっ」
この子! どこまで知っているの⁉︎ これ以上はやめてダメだからやめてダメだから!
「でもわたしも海には行きたいかな。街の中や草原や森はあるけど、海はまだ行ってないし」
ミーナちゃんもこちら側だったみたい。仕方ないと言った具合にため息をついて準備するダリル。
ミーナちゃんまぢ天使!
ドヤ顔でサムズアップするミーナちゃんはとても可愛い。
「だが脚はフィナに用意してもらおう」
街の門を出て少し歩いたところでダリルがおもむろにそんなことを言った。
……脚? わたしも馬は持ってるけど、ダリルのみたいに何人も乗れるサイズじゃないんだけどなぁ。
「馬車でも借りに戻る?」
ダリルはわたしの問いかけには答えずに、門から離れて人気のない茂みへと連れ込まれる。
「まさかっ……だ、だめよ? ミーナちゃんも見てるし、そんなことっ!」
「何を言っているか分からんが、ミーナなら知ってる事だから構わん。大鷲を呼び出せ」
「え?」
ダリルはそう言ってわたしの背中側に回り、両手を取る。
「なにこれ、手取り足取りってやつ⁉︎ ミーナちゃんも見てるしだめよ? 何を一体──」
「そのピンク色の脳みそに刻んでおけ。これもお前のスキルのうちだ」
ダリルの手を通じて私の手から何やら魔力が照射されて地面に紋様を描く。
「これって……ダリルが前にやった?」
相変わらず心臓のドキドキは死にそうなレベルだけど、目の前の出来事には覚えがある。
「その時にお前も契約者になっている。お前がこれを実行できるということを知っておけ」
出来上がった魔法陣に向けて魔力を込めろと言われ半ば無理矢理に、ゲロを吐きそうな気持ちで魔力を飛ばした。そんな使い方をしたことないから頭がクラクラする思いで。
そうして現れた大鷲はやっぱりあの時の子で、わたしに頭を下げて服従しているようだった。
懐かしの空の旅。海へ向かってわたしたちは空を飛ぶ大鷲に乗っている。わたしが前、後ろにダリルだけど、その膝にはミーナちゃんがダリルの腕に抱えられて嬉しそうにしている。そこいいなぁ、代わりたいなぁ。え、ダメ? ごめんなさい。
ダリルの自分で行けと言うのを結局実行したようなものだけど、わたしの知らないわたしのチカラを知ってるダリルってもしかしてわたしのこと好きなのかな?
海に着くと狐っ子ミーナちゃんは水着と浮き輪ではしゃいでいて、ダリルは離れて釣りを始めた。
「えぇー、せっかくだからダリルも泳ごうよー」
わたしの可愛いビキニ姿で悩殺してやるつもりなんだからっ!
そうしてブー垂れていると、何やらダリルの竿に大物が食いついたらしく、その釣竿は大きく弧を描いている。
「お? なに? でっかい魚釣れるの⁉︎ わたしブリがいいなぁっ!」
わたしがお昼ごはんが何になるのかとワクワクしていると、ダリルは勢いよく竿を引き上げて吊り上げたのだ。とても綺麗な人魚を。
しかもその人魚、水面からむしろ自分で飛び出したんじゃないかってくらいに見事な弧を描いてダリルの胸に着地したかと思うと、うっとりした顔で首に手を回してダリルに自然とお姫様抱っこされている。
「え? なに? え? 人魚? そしてなんでそんな釣られ方してうっとりしちゃって抱かれてるの⁉︎ ダリルもダメよっ、うちでは人魚なんて飼えませんからねっ! 返してきなさい! ほら、早く! 警察来ちゃうわよ⁉︎」
「あ、クローディアだ! おひさー!」
ミーナちゃんが浮き輪のまま駆けてきて挨拶している。まさかのお知り合い?
「うん?……もしかしてミーナ? なんなん? そんな可愛らしなってぇ、何このもふもふ、さわらせろー!」
「うわー、きゃはは、くすぐったい。」
ピョンという擬音が似合いそうな跳び方でダリルから降りた人魚はミーナちゃんを撫でまわしてふたりとも嬉しそうだ。
「え? ということは……」
「まあ、そういうことだ。この際だからミーナにも、フィナにも会わせておこうと思ってな」
そう言ってダリルはわたしの手を取り繋いで2人のところへと歩いていく。
いきなりそんな強引な……なんだかドキドキするよぉ。
「クローディア、ミーナ、フィナ。せっかくのいい天気に海だ。しっかりと仲を深めておくといい。うむ、女子会ってやつだな」
そう言うとダリルは引き合わせの終わった私の手を離して、白く青い鳥を召喚して雪の結晶を煌めかせながら瞬く間に飛び立ってしまった。
「ええっ⁉︎ ちょっ? ええええええぇぇぇ⁉︎」
「おやおや? この香りは……この子ダリルに恋してるんやなっ? いやー、春やん。青い春やーん。ミーナ、ウチもこの子気に入ったわー。同じダリル好き同士仲良うしようなっ!」
「え? あ、よろしくお願いします? でもあいつ帰っちゃったよ⁉︎」
「まあ、ダリルも女子会って言ってたじゃないっ? 帰りはフィナさんの大鷲もあるし、楽しもうよっ!」
「おお? この子召喚できるのん? すごいやん!ますます気に入ったわぁ。ほんでダリルのどこが好きなん? 今のあいついろいろ欠けとるけど、どんなとこが好きなん? なあなあ?」
「え、えっとね……」
思ってたのと違う海水浴になっちゃったけど、新しい友達も出来たし、ミーナちゃんとも色々話して仲良くなれて良かった。
帰りには大鷲召喚を思い出すのに時間かかりすぎてクローディアさんに手伝ってもらうことにはなったけど。だって、あんなに密着されたら、それだけで頭いっぱいだったんだから、ねぇ?