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「そんな心配いらないわよ、奥野おくの君だって相手がいるんだし。私だってちゃんと――」


 ちゃんと、夫を愛してる。そう言うつもりだったのに、何故だか言葉が出てこない。たとえ岳紘たけひろさんに酷いルールを作られたとしても、自分が彼を愛する気持ちに変わりはないはずなのに。

 私が気づかないうちに、夫を想う気持ちが少しずつ歪み始めているのだろうか? ずっと綺麗なままの愛情を両腕いっぱいに抱えて、いつまでも彼に捧げるつもりだったのに……


「ねえ、しずく。アンタ、やっぱり何かあったんじゃ……?」

「違うわ、何もないの。何もないから、麻理まりは心配しないで」

「雫……」


 それ以上は問い詰めないでほしい、そう態度で表せば麻理はもどかしそうな表情を見せながらも口をつぐんだ。こう言う時、私が何を聞かれても答えない事を彼女はよく知っているから。

 麻理にこんな表情をさせてしまって申し訳ないとはおもう、でも真実を知れば友達思いの彼女がどんな反応をするか。もしかしたら離婚を進めてくるかもしれない、それは私にとって正直厳しくて。


 もし離婚話が出たとしても両親や岳紘さんが賛成するとは思えないし、やはり私がまだ夫のことを好きなことには変わりない。岳紘さん以外の男性を意識することも考えられないし、触れられることだって……

 そう考えた瞬間、何故かあの日――奥野君が私の髪に触れた時の感覚を思い出してしまった。


「どうしたの、雫? 急に赤面したりして」

「え? そんなことは……」


 何故だか分からないが、体温が上がっていく気がする。意識してないはずなのに奥野君のあの時の顔が、浮かんでしまい心が落ち着かない。

 一体どうして……?


「|雫《しずく》、アンタもしかして……」

「違うわ、ちょっと暑くて。それだけだから、気にしないで」


 分かってる、こんな誤魔化しは|麻里《まり》に通じないってことくらい。だからといって素直に|奥野《おくの》君とのやり取りを思い出したからだ、なんて言えるわけもなく。これ以上、麻里が追求しないでくれる事だけを祈っていた。


「……雫じゃなきゃ、問いただしている所だったわ。一途なアンタが岳紘さん以外の男に揺さぶられるわけない、そう思えるから黙っておくことにする」


 麻里はとても勘が良い、こう言葉にすることで私の気の迷いを全て見透かしてると伝えてくるのだから。だからこそ、あの話が出来ないワケでもあるのだけれど。

 別に今の私が奥野君に心揺さぶられてるつもりはない、だけど全く意識してなかった頃とは少しだけ違っている気もしていた。彼がただの後輩でなく、男性として私に接してこようとするから。


「……そろそろ出ましょうか? いつもの雫ならとっくに夕飯の支度に帰るって言いだしてる時間よ」

「え? ああ、本当ね。ごめん、麻里に気を使わせてばかりで」


 持っているスマホのディスプレイの画面を指差し、麻里は今の時間を教えてくれた。確かに今までの私ならば、|岳紘《たけひろ》さんの夕食の準備だと言って帰っていただろう。

 そのことに全く気付かなかった事には驚いたが、その日は深く考えずに麻里と別れて買い物をして帰った。


 ……だけど、この日の夜。

 夢に出てきたのは大人になった奥野君で、私はその夢の中で彼に寄り添い恋人同士のように甘えていたのだった。


 そんな複雑な気持ちを抱えた状態なのに、夫との生活にも些細な変化があって……


 ガチャン! と、大きな音を立てて持っていたはずのトレーが床に落ちた。その上に置いていた二つのワイングラスが割れて、ガラスの欠片がフローリングに散らばっている。

 驚いた表情をしている岳紘たけひろさんに謝り、急いでしゃがみ込み大きな破片から拾い始めた。


「ごめんなさい、ちょっと驚いてしまって……すぐに片付けるから、ソファーで待っていて」


 動揺を悟られないようになるべく冷静にそう言ったつもりだったが、少し声は上擦っていたかもしれない。だって……急に岳紘さんが私の手に触れてきたりするから。

 普段から触れ合いのない私たち、それでも奥野おくの君の夢を見てからの私は少しおかしかった。もしかしてあの夢が私の隠れた願望なのかと何度も不安になり、麻理まりに相談しようかと悩みもした。

 少しだけ後ろめたさを感じていたからだろうか? 岳紘さんがトレーを持ってくれようと私の手に触れた瞬間、思わず過剰に反応してしまったのだ。少なくとも今までは平気な顔をして、渡すことが出来ていたのに……


「危ないから俺がやる、しずくは箒とちりとりを持って来てくれ」

「……え? でも私がやった方が」

「いいから」


 割ったのは自分だし、岳紘さんに手伝ってもらうほどの事でもない。そう思ったが、なぜか今回に限って彼は自分が片づけると言って譲らなかった。

 大きな破片を集め終わった岳紘さんが箒を受け取り小さな破片まで綺麗に片付けていく。それを確認した後、念のため掃除機をかけていると岳紘さんがジッとこちらを見ていることに気付いた。


「……どうかしたの?」


 掃除機を止めて所定の場所に戻そうと持ち上げた時、真剣な表情の岳紘さんがそれを私から少し強引に取り上げた。いきなりの彼の行動といつもと違う様子に驚き、つい夫を見上げてしまった。

 何か言いたげな表情、長い付き合いでそれくらいは私でも理解できた。分からなかったのは……その後の彼の言葉の意味で。


「何故、そうやって俺を避ける?」

「……え?」

夫婦間不純ルール

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