「あのね、佐藤くん……。昨日の返事なんだけど」
気持ちを落ち着けるよう言葉を切った私は、すっと息を吸い込んだ。
「私も、ずっと佐藤くんのことが好きだったんだ」
そう言った時、彼の表情が変わった。
「え……」
「だから昨日、「付き合って」って言ってくれた時は嬉しかったよ。
あの時は驚いて、なにも言えなかったけど……本当に嬉しかった」
思い出すと昨日と同じ熱が走る。
それと同時に、恥ずかしくって、なにかを叫びたくなった。
佐藤くんは大きく目を開いた。
意表をつかれたといった様子に、不安がもたげて笑顔が崩れてしまいそうになる。
だけど怖気づいちゃだめだ。
気持ちをきちんと伝えると決めたんだから。
「……私ね。
佐藤くんと体育祭の実行委員をした時から好きだったの。
だから今年初めて同じクラスになれたのも、斜め後ろの席になれたことも、すごく嬉しかったんだよ」
緊張して早口になりながら、私は一生懸命伝えた。
そんな私を、佐藤くんはじっと見つめている。
「だから……なんというか、その……。
こんな私ですが、よろしくお願いします……!」
私はそっと右手を差し出した。
「広瀬……」
佐藤くんは差し出した私の手に視線を落とす。
私はできるだけ微笑んだ。
そうしないと、足が震えそうだった。
頭の上で木の葉が揺れる。
風がやんだ時、佐藤くんは一歩前に踏み出した。
私の手を取り、優しく包み込む。
初めて触れた佐藤くんの手は、見た目からの印象よりずっと温かかった。
「……よろしくね、佐藤くん」
嬉しくて静かに呟いた。 涙が出そうにもなった。
佐藤くんはほんの少し、握る手に力を込めた。
それだけで本当に本当に嬉しくて、気を抜くと泣いてしまいそうだった。
***
夕食を食べ終えるとすぐ、私は自分の部屋に引きこもった。
手にはスマホ。
眺めるのは、放課後交換した佐藤くんのLINEアドレスだ。
(あぁ、どうしよう……)
メッセージを送ろうか、いや、やっぱりやめようか。
こうしてもう1時間以上、ベッドの上でスマホとにらめっこしている。
(……よしっ)
ついに私は勇気を出して、指を動かした。
―――――――――――――――――――――――――――
広瀬です。
今度の日曜日、どこかにいかない?
―――――――――――――――――――――――――――
ドキドキしながらメッセージを送信すると、ややあって彼から返信があった。
―――――――――――――――――――――――――――
いいよ、どこにいく?
―――――――――――――――――――――――――――
(……やっ、やったー!!)
これって、デートの約束をしたってことだよね?
私は何度も何度もメッセージを眺めて、心の中で歓声をあげた。
(すごい……。私、佐藤くんとデートできるんだ……!)
あまりの嬉しさに、スマホを持ったままベッドをゴロゴロ転がってしまう。
勢いあまって壁にぶつかった時、突然ドアがノックされた。
「は、はい!」
慌てて体を半分起こすと、レイが訝し気な顔で立っていた。
(わっ)
私は慌ててベッドの上で居直した。
目を合わせると、彼はすっと眦を細める。
(なによ……)
そんな目で見られると腹が立つけど、たしかに今のはちょっと挙動不審だった。
『な、なに?』
『フトンに水をこぼしたんだ。
悪いんだけど、シーツを替えてもらえない?』
『あぁ……』
なんだ、そんなことか。
私はすぐに頷いて、部屋を出た。
廊下の端の物入れをあけた時、レイが呆れた声で言う。
『っていうか、あんた朝からずっと様子がおかしいけど、なに?』
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