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#女主人公
灰猫さんきち
1,008
ぬくみおんせん
21
#センチネルバース
かんな
976
#魔道具職人
こはる
208
ガルスとユーリは倉庫の前まで行く。倉庫の前では荷運び人たちが、いつもどおりの仕事半分談笑半分の雰囲気で動いている。
ガルスはすうと息を吸い込んで、大きな声を出した。
「おう、倉庫のみんな。ちょっと聞いてくれ」
「なんだよ、ギルド長」
「どうかしたか?」
集まってきた倉庫の荷運び人たちに、ガルスは言った。
「ユーリが倉庫整理のいい案を考えてくれた。これからその通りに素材を入れ替える。みな、やってくれ」
「はぁ?」
コッタがいつもの陽気な笑みを引っ込めて、眉間にシワを寄せた。
ガルスは肩をすくめて言う。
「倉庫はだいぶ前からひどい有り様だ。いい加減になんとかしないといかん」
「別に今のままでも、なんとかなってるだろうが」
コッタたちはそう言い返すが、実際ミスは増えている。アウレリウスの叱責が怖くてユーリを配達に行かせたくらいだ。
「いいからユーリの指示を聞け!」
ガルスが怒鳴るが、コッタは鼻で笑った。
「ユーリの? ははっ、そう言われてもなあ。倉庫を取り仕切っているのは、俺たちだ。新入りのユーリの命令なんぞ聞けるかよ」
「そうだ、そうだ」
他の男たちもコッタの肩を持った。
「俺らは今のままで上手くやってるんだ。余計なことするなよ」
「誰のおかげで倉庫が回ってると思ってんだ?」
言いたい放題である。
頼みの綱のガルスは「やっぱりこうなるよなあ」と弱腰になった。
(こうなるよなあ、じゃないよ! ギルド長なんだから、部下の手綱は取って!)
ユーリはとても困ったが、このままにはしておけない。
一歩前に出ると、コッタたちに向かって深く頭を下げた。
「荷運び人の皆さんあっての倉庫だと、私もよく分かっています。でも、今のままではいけないんです。このままミスが増えていけば、叱られるだけでは済まない。クレームが属州総督の耳まで届けば、倉庫が取り潰されてしまうかもしれない。
私は新入りですが、精一杯学んで知恵を尽くしたつもりです。だからどうか、力を貸してください!」
ユーリが一生懸命頼むと、その場の空気がやや和らいだ。
少し落ち着いたコッタが言う。
「……とりあえず話を聞かせてくれ。俺らは学はないし、頭が悪ィから、簡単に頼むぜ」
そこでユーリは、分類ごとに管理する方法を説明した。
ごく一部の荷運び人は感心して聞いてくれたが、大半は難しい顔のままだった。
「この管理方法の一番いい点は、誰でも倉庫の中身を把握できることです。番号順で分かりやすいから、素材が行方不明になることもない。コッタさんたちが忙しい時でも、私やナナさんが倉庫から注文の内容通りに素材を取って来られます」
だから協力をお願いしますとユーリは結んだ。
けれど、男たちの反応は冷ややかだった。
コッタはいつもの人懐っこい笑みを嘘のように消して、強張った声で言った。
「誰でも素材を取ってこれるだと? 悪いが、そんなやり方は反対だ。今だって俺は長年の勘で、素材をきちんと取ってこれる。整理だなんて面倒臭ぇことしなくても、ちゃんと仕事は回ってんだ」
「でも!」
「話は終わりだ。どうしてもやるってんなら、あんたとガルスの旦那だけでやりな。俺たちは手は貸さねえ」
言い募ろうとしたユーリを遮って、コッタは立ち上がった。
「てめえら、休憩は終わりだ。次の配達の準備をするぞ!」
おお、と荷運び人たちが声を上げる。
にわかに忙しく立ち働き始めた彼らの輪の外で、ユーリは途方に暮れてしまった。
ユーリが立ち尽くしていると、ガルスが気まずそうに口を開いた。
「まいったな。コッタも他の荷運び人も頑固でよ」
ユーリは首を振る。
「どうしてこうなったのでしょうか……。今、倉庫からきちんと素材を取ってこられるのは、コッタさんを始めとした数人のベテランだけ。それが整理で誰でも出来るとなったら、仕事を取られると思った……?」
「あぁ、あるかもな。連中はほとんどが冒険者上がりか、冒険者にもなれないあぶれ者だ。ここを追い出されりゃあ、行き場がない奴ばっかりよ。
例えば、コッタな。あいつは十五の年に冒険者になったが、三年後に怪我をして引退した。力仕事はできるものの、素早く動けなくなっちまったんだ。他の奴らも似たようなもんだ。だからこそ、この仕事にしがみつこうとするんだろうなぁ」
「そんなことが……」
ユーリはつぶやく。
彼女の本来の目的は、もちろん仕事を奪うことではない。むしろ逆だ。
みながもっと働きやすくするように、仕組みを考えた。それなのに。
伝え方が悪かったのだろうか。そう思ってもう一度、勇気を出して話しかけるが、誰もろくに聞く耳を持ってくれなかった。
「だから一人でやれって。まあ無理だろうけどよ!」
荷運び人の一人に嘲笑に近い声音で言われて、体が強張った。
大きな箱を抱えていた荷運び人が、わざとらしくユーリにぶつかる。押しのけられて、ユーリはよろけた。
「おっと、すまねえな。お嬢ちゃんが小さすぎて見えなかったぜ」
わはは、とあちこちから馬鹿にしたような笑い声が上がる。ガルスの制止の声も虚しい。
ユーリは唇を固く引き結んだ。拳をきつく握りしめる。
荷運び人たちの冷笑の中で、ユーリは強く拳を握りしめた。
怒りと情けなさがふつふつと湧き上がってきて、彼女の瞳に炎を灯した。
「やってやろうじゃん……」
低く唸るようにユーリは言った。隣でガルスがビクッとしているが、知ったことじゃない。
「こんなの、日本に帰れないと分かったときに比べれば大したことない。一人でやれって? じゃあお望み通り、やりきってみせるんだから!!」
深呼吸一つ。キッと顔を上げて見据えるのは、魔窟ならぬ素材倉庫。ミッションは整理整頓だ。
「よしっ!」
ぐっと肘を引いて気合を入れる。
責任感と負けてたまるかという思いと、それに多分の意地っ張りを混ぜこぜにして、ユーリは倉庫へと足を踏み入れた。
「お、おい、ユーリ!」
背後でガルスの焦った声がする。ユーリは振り向かずに言った。
「私一人の力でどこまでできるか、限界までやってみます。だから私のことは気にしないで」
「そ、そうか……?」
ユーリはそのまま倉庫へ入る。荷運び人はもちろん、ガルスも追っては来ない。
そうして彼女はたった一人で戦いを開始した。
倉庫の中は相変わらず混沌としている。
ユーリは入り口の備品室から魔法ランタンと手袋を借りて、中へ入った。
扉の近くは箱や袋に入った素材が山と積まれ、ラベルもついていないためユーリには中身すら分からない。
すれ違う荷運び人たちの馬鹿にしたような視線を受けながら、奥へと進んだ。
入口近くこそ扉から外の光が入り、明かりも置いてあるため明るかったが、少し進むと途端に真っ暗になる。ランタンの明かりだけが頼りだ。
(まずは一番奥まで行ってみよう。奥の方がどうなっているのか、さっぱり分からないんだもの)
棚と棚の間の迷路のような通路を進む。途中から床にホコリが積もったままになっていて、人の出入りもないと思われた。
魔法ランタンをかざすと、周囲の背の高い棚と置いてある素材の箱がぼんやりと浮かび上がる。素材は異世界人のユーリには馴染みのないものが多くて、得体の知れないお化け屋敷に迷い込んだような気分になった。
しかも空気が籠もっているせいで、外の気温に対してずいぶんと蒸し暑い。息をするのも大変だった。
奥に進むにつれて棚の密度がまばらになり、ここが広い倉庫の中だと実感できる。
やがて突き当たりに行き当たった。
ユーリは振り返って辺りをランタンで照らす。彼女が今いるのは右寄りの壁際。
こうして見ると、倉庫の奥は意外にすっきりしている。棚もきちんと等間隔で並べられていて、見出しの札もついていた。
「最初の頃はきちんと管理されていたのね……」
小さい声で呟いて、ホコリが喉に入って咳き込んでしまった。ポケットからハンカチを取り出して三角に折り、口元を覆って頭の後ろで結ぶ。即席のマスクである。
ふと見ると、奥の壁にドアが取り付けられているのに気づいた。
近寄って確かめてみるが、板で打ち付けられている。それに隙間から光は入っていない。
ユーリは倉庫を外側から一周して見回ったこともあるが、ドアはなかったように思う。外側に壁が追加で作られたようだ。
(これだけ大きい倉庫だもん。入り口が一個だけなんて、やっぱりおかしいよね)
倉庫整理をやり遂げた暁には、このドアも復活させよう。
ユーリはうなずいてドアを離れ、並べられた棚を確認し始めた。
倉庫の棚は、奥から2列ほどはそのまま使えそうだった。棚に置かれている素材も少ない。
わずかに残っていた素材は、元が何か想像するのも難しいくらいに干からびていたり、ホコリまみれだったりしている。
きれいな色の石など、鉱物類はまだ使えそうだ。植物類ももともと乾燥させてあるドライフラワーや葉っぱは大丈夫かもしれない。
壊れたガラクタのようなものは、遺跡の遺物だろうか。これも使用に耐えそうである。
問題は魔物や動物由来の素材だった。
骨や牙、角などはいい。
でも、他は悲惨なことになっている。皮はなめしが甘かったのか、表面が腐りかけていた。肉は干し肉になっていたが、やはり傷んで虫食いがひどい。
ユーリは虫もそんなに苦手ではないが、さすがに顔が引きつってしまう。
次いでトカゲの尻尾と思われるものをつまんでみたら、ネチョッとして思わず悲鳴を上げた。
「もう駄目! これは駄目! 整理整頓の前に掃除だわ!!」
来た道を戻る。ホコリの積もった道に残った自分の足跡をたどれば、迷うこともなく進めた。
出入り口に近づくにつれ、設置された明かりの光や荷運び人たちの喧騒が戻ってくる。短い時間だったのにとてもほっとした。
「よう、お嬢ちゃん。もうギブアップか?」
意地悪い笑みを浮かべたコッタに声を掛けられた。ユーリは首を横に振る。
「いいえ、まさか。まずはお掃除から始めるわ。道具、借りますね。ていうか私、『お嬢ちゃん』という年ではないから。二十七歳よ」
「え? 嘘だろ」
コッタらの言葉を聞き流して用具室からバケツとモップを取り出した。バケツに水を入れ、雑巾も何枚か持って再び奥へ。
ホコリが床に厚く積もっているものだから、バケツの水があっという間に真っ黒になって大変だった。
それでもモップがけをできるだけやる。雑巾の出番はまだなさそうだ。
何度かバケツの水を取り替えるために奥と入り口を往復しているうちに、夕暮れ時になっていた。
コメント
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第13話読みました…! もう、ユーリの悔しさがすごく伝わってきて、胸が苦しかったです。 コッタたちの「仕事を取られる不安」っていうのも分かるから、なおさらやるせない。 でも「やってやろうじゃん」って一人で倉庫に踏み込むユーリの強さ、かっこよかったです…! あのネチョッとしたトカゲのシーン、笑っちゃいましたけど、それも含めてユーリがすごく人間らしくて好きです。 続きがすごく気になります。灰猫さんきちさん、今回も素敵な物語をありがとうございます🖤