テラーノベル
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「……本当に繋がるのかよ、こんな番号」
深夜の静寂に、街灯のジーッというノイズだけが響く。
俺、佐藤タクミは、駅前の寂れた電話ボックスの中にいた。
右手に握りしめたスマホの画面には、ネットの掲示板で見つけた出所不明の電話番号。
「午前2時ちょうど、無人駅の遺失物管理所に繋がれば、失くしたものが必ず見つかる」
オカルトなんて信じちゃいない。
でも、藁にもすがる思いだった。
半年前、交通事故で亡くした婚約者・美咲。
彼女が死ぬ間際まで身につけていたはずの婚約指輪が、現場からも遺品からも消えていた。
あれだけは、どうしても俺の手元に取り戻したかった。
2時00分
震える指で発信ボタンを押す。
電子音が耳元で鳴り響く。
一回、二回。
夜の闇を切り裂くような、どこか無機質な音だ。
五回鳴って誰も出なければ諦めよう、そう思った矢先。
『……はい、こちら遺失物管理所でございます』
心臓が跳ねた。受話器越しに聞こえてきたのは、拍子抜けするほど穏やかで、年老いた男の声だった。
「あ、あの……忘れ物の問い合わせをしたいんですが。半年前、笹原駅の近くで失くしたプラチナの指輪です。内側に『T to M』と刻印があって……」
一気にまくしたてる。
男は、紙にペンを走らせるような乾いた音をさせた後、低く、優しく笑った。
『ああ、それならございますよ。ずっと大切に保管しておりました。……タクミさん、あなたがいらっしゃるのを、今か今かと待っていたところです』
「え……?」
なぜ、名乗ってもいない俺の名前を知っている?
背筋に冷たいものが走ったが、それ以上に「指輪があった」という歓喜が勝った。
『明日、駅の北口にある古い管理センターまで取りに来てください。扉は開けておきます。代わりと言ってはなんですが……そこにある「あなたのもの」も、一つ置いていってくださいね』
「俺のもの? ああ、手数料ってことですか?」
『ええ、まあ、そのようなものです。……では、お待ちしておりますよ』
プツリ、と通話が切れた。
深夜の電話ボックスは、急に温度が下がったように感じられた。
俺はスマホをポケットに放り込み、夜道を走り出した。
ようやく、美咲が戻ってくる。
俺の、欠けた日常が埋まる。
そう信じて疑わなかった。
この時、俺が「代わり」に何を置いていくことになるのか
その本当の意味なんて、これっぽっちも考えていなかったんだ。
#ダークファンタジー
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