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風を切る音しか聞こえない。
真っ暗な暗闇の中落ちてゆく。
一瞬、安心する様な音が聞こえた気がする。
もう少し耳を澄まして聞いてみる、懐かしいような、心配するような、どこか愛しいような声。
その声のする方へ手を伸ばし…て……
AM9時30分 家
ピピピピ ピピピピ
目覚ましの音で深い眠りから目が覚めた。
ムクリと起き上がり冷たい床に足をつける。
黒い瞳に短く切られた黒い髪、入学して3週間ほどしか着なかったセーラー服を纏った15歳の少女。彼女の名前は言の葉彩葉。
彩葉は重いため息をしてゆっくり窓側を向く。
虚ろな目に映し出されるのは異形の影。
現代ではほとんど見ない和服をまとい、首が2mほど長く黒く長い髪の女性の顔。
現在彩葉を苦しめている原因一つ
化け物
彩葉はその異形の化け物の横をすり抜け茶の間へ向かった。
茶の間にあったのは素朴な畳小さな机古びた座布団。
彩葉は朝食の準備をし始めた。
言の葉彩葉
幼い頃に父が失踪、母はいつも何処かで働いている。
年に母が戻るのは1度あればいい方ほとんど帰ってこない。
そして産まれたときから持っている化け物を映し出す瞳。
近所からはありもしないことを言っていて気味が悪いと言われ学校では、この瞳のせいで壮絶ないじめを受けた。
更に過去には自殺未遂を7回繰り返している。
3回学校の屋上から飛び降りたことがあるが風のせいで急所を外し失敗。
2回首をつるが紐が毎回切れる。
2回刃物で切るが毎回人がきて止められた。
この荒んだ過去も誰のせいとぶつけることもできずに今に至る。
やがて料理の音がやみ朝食ができた。
朝食はおにぎりと味噌汁のみ。
「………まずい」
そうつぶやいた後、朝食を食べ進めた。
食べ終わった後、少しのお金を持ち神社へ向かった。
AM10時00分 神社
真夏特有の虫の声と暑さで彩葉の額には汗が流れている。
「行かなければ…よかった…」
疲れながらボソリと言う。
長い石段を登りきり古い神社の賽銭箱の前に立つ。
5円を賽銭箱に投げ入れ、願った。
「………」
神なんぞ信じてはいないが、この現状が改善できるようにと。
ふぅと軽いため息をはき後ろを振り向いた途端、しゃんと鈴の音がした。
じゃぼんと足が沈んだ。
さっきまでの石で作られた地面ではなく澄んだ水の様な液体に変わっていた。
さっきまでなかった赤いとりでが前に立っており空は暗くなって夜のようだった。
「え?…」
彩葉は急に変わった景色を見て困惑していた、後ろを振り向くと神社だった物が赤い門に変わっていた。
「なに…これ…」
その時強く心臓が鼓動を打った気がした。
「行かなくちゃ…」
小さく何度も呟いている、狂ったように。
そして赤い門の前に立ち、手をかけようとした、途端、後ろからグイッと引かれた。
彩葉は転び目を開けると、さっきまで居た神社に戻っていた。
その時にはすでに日が暮れていた。
PM8時23分 家
家についた彩葉は布団に寝っ転がっていた。
「何だったんだろう…あれ…」
彩葉はそんなことを考えながら眠りについた。
深く考えるのは、明日の自分へ任せた。
夢
真っ暗な空間に彩葉は立っていた。
(また…この夢…)
彩葉はまっすぐ歩き出した。
右にスポットライトの当てられた黒電話があり、ジリリリリ、となっていた。
彩葉は一層顔を暗くしたあとガチャと黒電話の受話器を手に取った。
聞こえたのは父と母の会話…
「彩葉、お前は父さんと母さんの宝物だぞ!」
「やめてくださいよお父さん、恥ずかしいじゃない」
「いいだろう?自分の子供を可愛がったって〜」
「まぁ…いいですけど」
「この子の将来が楽しみだ!」
「そうですね」
二人の笑い声が響いた。
ツー…
彩葉は無言で黒電話を置いた。
そのまま歩き出した。
またスポットライトの当てられた黒電話があった。
同じように鳴っている。
また同じように会話が聞こえる。
「おおっ!立った!立ったぞぉ!」
「えぇ!本当?!」
「ほら!もう一回!」
「きゃー!すごーい!」
「彩葉は本当にすごいなぁ!流石!俺の娘だ!」
ツー…
ガチャ…
彩葉はまた歩き続ける。
そして唇を噛んだ。
このあとにも同じように黒電話をとうして父と母の会話を聞き、彩葉は先へ進んだ。
変化が起こったのは10個目の黒電話を受け取った時だ。
ガチャ…
「彩葉…待ってて…」
ツー…
ガチャ…
彩葉は黒電話を置いた。
泣き出すような、絞り出すような声だった。
でも…それでも…
許せない。
そこから先、黒電話から流れてくる会話は無く、砂嵐の音が聞こえるだけだった。
そして15個目の黒電話から受話器をとり、戻した。
その音と同時に目が覚めた。
AM5時23分 家
起きたとき彩葉は暗かった。
またこれも原因の一つ。
もう、精神的にも、肉体的にも限界が近かった。
彩葉は何も思わず、木の天井を見上げる、そして、その時は突然来た。
「暗い顔をしてるね」
知らない声。
彩葉はすぐに振り返った。
「誰…」
小さい机の上にあぐらをかいているのは、赤い和傘を持ち紺色の袴姿、黄土色の髪から覗く目は朱色に染められていた。
「誰…か。
そうだね、君の言葉で言うなら、僕は化け物さ」
「嘘…奴らは喋らない」
「信じてくれ、なんて言わないさ」
少し、雰囲気が変わった気がする。
「僕が来たのは理由を言おう」
そして…
「君を、助けてあげよう」
彩葉はなんとも言えない感情に苛まれた。
不安、疑い、歓喜…
そして何より、希望。
「君は、願っただろう?
助けてくれって。」
一つ…思う。
「……どうするの…?」
フフッと笑いそのまま続ける。
「要するに君は自分が嫌なんだろう。
だったら死んじゃ嫌だと思えるようにすればいいんじゃなか。」
そのまま続ける。
「僕らの世界に来るといい。
君の事を好きだと思えるようにしてあげよう。」
今の現状を変えられる解決策もなにもない。
このまま変わらないのだったら…
「なら…ついて行くよ。」
ここに一人と一つの協力者が生まれた。
「それでは自己紹介をしようか。
僕の名前はハニホヘ、風の妖さ」
「…言の葉彩葉」
ハニホヘと彩葉。
この一人と一つの協力者はこれから何を始めるのだろうか。
今は、誰も知る由もない。
きっと全てを知ったあと、あなたの事を好きになれる物語。
続きはまた何処かで