テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「大袈裟だな。そんなに美味いか」
「はい! 絶品すぎます! お店出せちゃいますよ」
そんな他愛もない軽口を叩き合いながら、穏やかで温かな時間を過ごしていた。
その時、テーブルの上のスマホが「ピロン」と小気味よい通知音を立てた。
画面に表示されたバナーを何気なく覗き込む。
「ん……? あれ、さくらから……?」
思わず独り言が漏れる。
送り主は、高校時代に一番仲が良かった女友達、東雲桜だった。
「どうした?」
尊さんに声をかけられ、俺はスマホを手に取って顔を上げた。
「あっ、いえ。なんか高校の友達から連絡で…内容は……」
指先で画面をタップし、メッセージの詳細を確認する。
『ねぇレンレンーーー!今度高校の同窓会あるんだけど来るよね?てか来いよ?』
いかにもさくららしい、有無を言わせぬ一方的な命令口調。思わず苦笑いが漏れる。
「同窓会の誘いみたいです」
「なるほどな……行ってきたらどうだ? 久しぶりに旧友と会うのもいいんじゃないか」
尊さんは特に気にする様子もなく、紅茶を口に運びながら淡々と言った。
だけど
同窓会という言葉を聞いた瞬間、俺の心は急激に冷え込み、あの忌まわしい記憶の檻がガチャリと音を立てて閉まった。
「そう……ですね」
口ではそう言いながら、脳裏には最悪の光景がフラッシュバックする。
『……60分で帰ってきてねって言いましたよね。連絡先も交換しない、お酒も禁止。……恋くん、これ、ぜーんぶ破りましたよね?』
暗い部屋、冷徹な声。かつての恋人……
思い出したくもない、亮太さんから受けた異常なまでの束縛と制限。
『そんな顔されたら、俺が悪いみたいじゃないですか』
『ま、仕方ないですよね。躾が足りなかったということでしょうし』
『……ねえ、恋くん? 僕は君を愛してるんだ。だから、これも立派な愛の形なんだよ?』
恐怖心による支配。逃げ場のない閉塞感。
そして、暴力的なまでの支配を「愛」という言葉で正当化する身勝手さ。
それが深いトラウマになっている俺にとって
「同窓会に行く」という行為そのものが、過去の悪夢を呼び起こし
亮太の影を引き寄せてしまうような恐ろしいトリガーとなっていたのだ。
そう思うと、せっかくのアップルパイの味も分からなくなる。
俺はこの誘いを受けるべきではない、そう自分に言い聞かせて断りの返信を打とうとした。
ふと、視線を尊さんに移す。
尊さんは、じっと俺の顔を覗き込んでいた。
そして、静かな声で問いかけてきた。
「……あんま乗り気じゃないのか。同窓会」
「ふぇっ……?」
思考を見透かされたようなタイミングに、驚いて変な声が出てしまう。
「あっ、いや、そういうわけじゃないんですけど……ちょっと、トラウマといいますか……っ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ねむ