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セージの止血と手当のために、ロキという子供との戦闘は回避された。
正直イラついてた勢いにしても、俺とあまり変わらないくらい、そこそこ身長のあるセージを飛び蹴りで吹っ飛ばした上に、あの細腕と体格で軽々と頭上まで持ち上げてたのだ。
少し冷静に考えれば分かる。そんな相手にまず勝てるわけが無いだろ。
俺は九死に一生を得たことを悟られぬよう、何事も無かったかのように宿へと入る。その際はすました様な、ポーカーフェイスを貫くことを忘れない。
「さっきは外で騒いですみませんでした。……ところで、さっき止血しに入ってきた男女と子供が来ませんでした? 俺はその連れなんっすが、今どこにいますか?」
「あぁ、神官様御一行だね。この階段を上がって、一番奥の左の部屋にいるはずだよ。全く、神官様もお人好しだねぇ」
(はいー、全くですー……!)
俺は内心渋い顔をしながら、宿の店主に軽く手を振って礼を言う。外装や内装は綺麗だが……。年季が入ってるのか、歩く度に床や階段が『ギシッ』と大きく鳴る。
「……まぁ防犯対策の鳴り板だと思えば、全然気にならないな」
別に俺が太ってるとか、体重が重いから鳴ったとか、断じて違うと信じてどんどん進む。たまにストレスで暴飲暴食するけど……大丈夫だよな!?
そして二階の一番奥……店主の言う向かって左側の扉を、三回ノックする。すると「はーい、ヒロくんならどーぞー」と聞き慣れた声が返ってきた。
俺はドアノブを捻って扉を開けて入る。不用心にも程があるだろう。
「『俺ならどーぞー』って、俺じゃなかったらどうするんだ……」
「誰だろうとぶっ殺すだけだ」
扉を閉めて振り返ると、あと一歩という所でロキが俺の喉元にナイフを向けている。フードの隙間から見える瞳が本気で殺気を放っており、冗談ではないことは誰が見てわかる。
俺は冷や汗をかきながら「ひぇー……」と小さく声を出すと、両手を胸元まで上げて、害を与える気は無いと訴える。
互いに睨み合って、数十秒くらいだっただろう。たったその短い時間ですら、俺にはとてつもなく長い時間に思えた。
その沈黙を破ったのは、他でもないセージだった。
「もー、ロキ! その方は僕を助けて、ここまで送ってくれた恩人だよ。そんな物騒なもの向けたら失礼だよ!!」
「……チッ!」
ロキは大きく舌打ちすると、ナイフを回してズボンの下に隠しては、俺から離れていく。
俺は内心ホッとして、小さく息を吐く。どうやらセージとは対称的に、このロキという人物は警戒心が強いらしい。セージの一言でナイフは仕舞ったが、俺たちが何か不審な動きを見せればすぐに殺す気で来るだろう。
(まぁコレが世間一般的に、正しい反応だよな……)
伊織は大丈夫だとして、問題はウチの妹様だ。人見知りが発動してる今は大人しくしているため、問題は無いとして……。慣れた時に何をしでかすか、そこが問題だ。
(とりあえず、当分はヒナのアホが、馬鹿やらかさないように見張ってねーとな……)
「セージさん、鼻血大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ、ヒナコ様。ご心配をおかけしました」
「一応止血はしましたが、他に痛い所とかはありませんか? かなり派手に飛ばされて顔からぶつけられたので……」
「ロキに蹴られたところ以外は、特に問題はありません。イオリ様、手当していただきありがとうございました」
セージは鼻に詰め物を詰めたまま、ニコリと笑う。伊織が擦り傷などを消毒するために顔を拭いたのか、顔についていた泥は綺麗に落ちており元の美人な顔に戻っている。……詰め物がなければ完璧だが、その姿ですらも美しいのはイケメンの特権か。くっ、羨ましい。
……などと考えていれば、ロキにジロリと睨まれる。すみません、庶民がイケメンに嫉妬するとか、出過ぎたマネでした。
「よぉ、セージ。派手に転がったが、本当に大丈夫なのか?」
「はい。先程のロキの手癖や足癖は、今に始まったことでは無いですし。僕は慣れてますから!」
(セージさーん! 大丈夫!? それイジメじゃない!? 嫌ならオニーサンに言いなさい! 止めさせるように努力はするから!!)
俺たちの引きつった笑みと空気を察したのか、セージは慌てて訂正する。
「あっ! 別に毎回、あんな風にしてる訳じゃないですよ! 今回は僕が勝手にいなくなったせいで、ロキは心配してくれて探しててくれて……。本当はとてもいい子なんです! これはその、あれはて……」
「だー! ゴチャゴチャうるせーな! お前は少し黙ってろ馬鹿セージ!!」
そう言ってロキは『ゴツン!』とセージの頭に、ゲンコツを食らわせる。セージは小さく「痛いよ、ロキぃ……」と抗議するが、当のロキは「ふん!」とそっぽを向いた。
「まぁまぁ、落ち着けよ。とりあえず、さっき色々とゴチャゴチャになっちまったが、自己紹介でもしねーか? 俺は神崎八尋だ。こっちは妹の陽菜子と幼なじみの和泉伊織だ」
「和泉伊織です。どうぞよろしくお願いします」
「神崎、陽菜子です……よろしくお願いします……」
妹は思い出したように人見知りを発動すると、セージと伊織の影に隠れる。
ロキは口をへの字にして片眉を上げると、妹を睨みつける。セージはそれに気づいたのか、笑顔を浮かべると妹を袖で隠すような形で、ロキへと顔を向ける。
「ヒナコ様は人見知りなんだよ、ロキ。そんな風には睨んだら可哀想だよ」
「そんなの知るかボケ。気合いで何とかしろ」
そう言ってロキは、妹から視線を外して離れる。
「ロキ、僕は済ませてるけど、ロキも自己紹介しなよ。この方たちはいい人たちだよ?」
「んなこと、分かるわけねーだろ。大体お前のことだから、ペラペラ喋ってんだろうが」
まぁ確かに。何となくどんな人物かは、軽く聞いてるわな。
「でもロキ本人がちゃんとしないと、意味ないよ?」
「僕はどうでもいいんだよ! お前が勝手にやってろ」
ロキはセージから顔を逸らす。セージは聞き分けの悪いロキに『プクー』っと、頬を膨らませて軽く睨みつける。が、ロキや俺と比べると全く迫力がない。
セージはすぐに諦めては、しょんぼりと困った顔をすると、「仕方ないなぁ……。わかったよ」と顔を上げる。
「ロキが自分で自己紹介しないなら……! ヤヒロさん、ヒナコ様、イオリ様。僕がロキのいい所をいっぱい紹介をします! まずロキは……!」
「チィィィィイッ!!」
セージがロキのいい所を笑顔で紹介しようと口を開いたのとほぼ同時に、ロキは一際大きく舌打ちすると、椅子にドカッと勢いよく座り「ロキだ! それ以外は何も言わねーからな!!」と机の上に足を乗せた。
「もーロキったら……。行儀が悪いよー?」
「うっせー! 自己紹介しただけでもありがたいと思え!」
「うん、ありがとう、ロキ」
セージは嬉しそうに笑うと、ロキは再び舌打ちをした。
俺たちはただ呆然と二人のやり取りを見ていただけだが。ロキという子供は口や言動……手癖や足癖が悪いだけで、実は根は真面目ないい子なのかもしれない。と、考えることにした。
そうではないとあの敬語で、常に笑顔を絶やさずに丁寧なセージが、こんなにも打ち解けて敬語を外し、表情をコロコロと変えるわけがない。
(第一印象は最悪だが……セージにはなんだかんだ言って甘いんだ。これは当分様子見だな)
ふと、ロキと目が合った。俺はロキとの親密度を上げるためにセージのように優しく微笑んでみる。俺は大人だからな。広い心を持って接していこうじゃないか。
……と、考えたのも束の間。ロキは心底嫌そうな顔をすると、「べーっ」と舌を出してそっぽを向いた。