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第9話 「背番号の意味」梅雨の気配が近づく頃。
グラウンドの空気が変わっていた。
夏の大会――
その足音が、すぐそこまで来ている。
「今日、背番号発表する」
福間監督の一言で、全員の表情が固まった。
ついに来た。
整列。
静まり返るグラウンド。
名前が呼ばれていく。
「1番」
「2番」
一人ひとりが前に出て、ユニフォームを受け取る。
「2番」
「小早川」
「はい!」
力強い返事。
キャッチャーの番号。
ミットを握る手に、自然と力が入る。
「5番」
「田村」
一瞬、間があった。
だがすぐに前に出る。
「……はい」
ユニフォームを受け取る。
戻ってきた男に、再びチャンスが与えられた。
番号はすべて配られた。
だが――
呼ばれなかった名前もある。
控え。
ベンチ外。
夏の大会に出られない者。
一人の2年生が、拳を握りしめていた。
「……くそ」
小さく漏れる声。
「なんで俺じゃねぇんだよ」
悔しさが、にじむ。
そのとき。
「理由、聞くか?」
福間監督の声。
全員の視線が集まる。
「選んだ基準は一つや」
静かに言う。
「“勝つために必要かどうか”」
言葉はシンプル。
だが重い。
「上手いだけじゃ足りん」
「声だけでも足りん」
「気持ちだけでも足りん」
一歩前に出る。
「全部や」
誰も動けない。
「選ばれんかったやつ」
視線が向く。
「終わりやと思うな」
「チームは18人で戦うんやない」
「全員で戦う」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
発表が終わり、解散。
グラウンドには、静かな余韻が残っていた。
夕方。
小早川は一人、ミットを手入れしていた。
そこに、田村がやってくる。
「2番か」
ぽつりと言う。
「似合ってるな」
小早川は少しだけ笑う。
「まだまだです」
少しの沈黙。
「俺さ」
田村が口を開く。
「一回逃げたからさ」
空を見上げる。
「今度は逃げねぇ」
その言葉は、以前とは違っていた。
小早川はうなずく。
「一緒に勝ちましょう」
短い言葉。
だが、重かった。
その頃。
グラウンドの端。
背番号をもらえなかった部員たちが残っていた。
「帰るか?」
誰かが言う。
少しの沈黙。
「……やるか」
別の一人がバットを持つ。
次の瞬間。
「お願いします!」
声が響く。
#高校生
その声に、もう一人。
さらにもう一人。
気づけば、数人が集まっていた。
その光景を、福間監督は遠くから見ていた。
何も言わない。
ただ、静かに目を細める。
空は少しずつ暗くなる。
だがグラウンドには、まだ音が残っていた。
背番号をもらった者。
もらえなかった者。
それぞれの覚悟が、夏へと向かっていく。
水郷に、熱い季節が近づいていた。
第9話 終