ルティとシーニャ、どちらも水に入ることに抵抗がある。魔法で誤魔化すという手も考えられたが、試したところ今の時点で属性にかかわらず発動出来ない。
中に進んだら制限も緩和されるはずだが、とにかく今は飛び込めということだろう。先に行ったミルシェたちとはぐれても問題だ。
「しょうがないな。シーニャはおれの背中に掴まれ! 密着すれば水のことは気にしなくなるはずだ」
「ウニャ? アックに?」
「そうだ。身に着けるものと同じようにくっついていい」
「分かったのだ! パンツのようにくっつくのだ!」
何故そういう発想になるのかは不明だが、シーニャはかなりの力でくっつき出した。
「あのぅ~……アック様。わたしは~?」
水に耐性があるはずのルティが水を嫌うのは、召喚士との戦いが関係している。広い海で放置して泣かせてしまっているだけに、ルティだけは特別扱いをしなければならない。
「ルティ。君はここだ」
「はぇ? アック様の手の上……ですか!? 小さくなれませんよぉ~?」
「そうじゃなくて、とにかくこっちに来て」
「わ、分かりましたです」
こういう時にシーニャに見られでもしたらすぐにでも喧嘩が始まりそうだ。しかしシーニャはおれの背中に密着し、顔を背中に押し付けているので問題は無い。
「そしたら、おれの右手を枕だと思って傾けてくれ」
「こ、こうですか~? はひゃいっ!? な、なななな……何ををを~」
「何って抱っこに決まってるだろ。頼むから暴れないでくれよ」
「はふぅぅぅ~」
「よし、行くからな」
二人を確実に固定して、滝つぼの中に飛び込んだ。
それほど抵抗の出来ない水流でも無かったが、おれたちはどこかの水路に流れつく。アンブラダンジョンの中に入ったようで、魔法文字《ルーン》はここを”リオング水路”と示した。
耐水があるとはいえ、視力が回復するのにやや時間がかかる。今のうちに現状を把握しておく。まず今の状態だけで判断すれば、おれは仰向けになっている状態だ。
さすがに水流に身を任せていたことで、ルティは手元から離れている。背中に引っ付いていたシーニャも水圧で離されてしまったらしく背中にはいない。
肝心のミルシェたちの声が聞こえてこないところを見れば、近くにはいないと見るべきか。手足を動かすのに問題は無い――ということで、まずは足を動かしてみる。
どうやら、左右どちらにも何かが当たっている感じでは無さそうだ。
そして次に右手と左手を動かす――しかし、どちらの手からも生暖かくて何やらムニムニした感触があった。
「(もしかして、スライムにでも捕食されているんじゃないよな)」
感触だけでは確かめようも無いが、とにかく何度も手を動かし続けるしかない。
「フ、フニャ……」
「ひゃっ! ほへぇぇぇぇ~……こ、困るです。困りますです……」
スライムが何かをしゃべっている――はずも無く、視力が回復したので左右に首を動かした。すると、どちらとも仰向けになっていた彼女たちの姿がそこにあった。
自分の両手は見事に彼女たちの胸に手を置いている。気付いた所でかろうじてルティに置いていた手を瞬時に離すことが出来た。
だがシーニャに置いた手が、強い力で押さえつけられている。
「……シ、シーニャ? それはだな……不可抗力というやつでわざとじゃなくて……」
「ウゥ……アックは立派なオス。シーニャ、分かっている。でも、ドワーフにもやった。シーニャ、アックにお仕置きする!」
「お、お仕置き!? シーニャ、ちょっと待っ――ぬわっ!?」
シーニャに左手をがっちりと押さえられ、そのままの勢いでぶん投げられた。なまじ相手がシーニャなだけに、抵抗はしなかった。
「(んっ? 着いたのか)」
背中がどこかに当たる。つまりどこかの地面に着地したことを意味するが、もちろん痛みは無い。
「ああぁっ!! アック様っ! 大丈夫ですか~?」
上の方から心配そうなルティの声が聞こえる――ということは、水路の下層にでも投げ飛ばされたのだろうか。
「今すぐそちらに行きますです~!」
「ウニャ、シーニャも行くのだ」
おれをぶん投げたことで、シーニャの機嫌はすぐに直ったようだ。二人がおれの元に降りて来る前に周りの状況を確かめることにする。
シーニャに飛ばされ落ちて来た所は下層なのか、水の流れがあまり騒がしくない。一本道になっているようで、水路のあちこちに橋が架かっている。
上に上がれないことも無い――のだが、そこまで複雑なダンジョンという感じでも無さそう。
もっとも、さっきまで寝転がっていた場所は地上に近い所だった可能性がある。
そうなるとミルシェたちの行方が気になるが――。
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