テラーノベル
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竜と言っても西洋における〝ドラゴン〟ではない。 蛇に似ている東洋のものだ。
足は四足で、頭には二本の角。
体は緑の鱗に覆われており、背にはやはり緑の毛が生えている。
水墨画などでよく見る姿である。
翼などは見当たらないが、きっと絵と同じく飛べるのだろう。
決して小さくはないが、見上げる程に巨大というわけでもなく、背中に跨るには丁度いいサイズだった。
「む……効き目が現れてきたな」
竜の口が僅かに動き、ナギの声が空気を震わせる。
その言葉の通り、尻尾の辺りが徐々に透け始めていた。
僕は試しに、左目を掌で覆い隠し、右目のみで尻尾を見つめた。
しかしそれでも、尻尾の輪郭を捉えることはできなかった。
僕がそれを伝えると、ナギは満足そうに頷いた。
「オーマ、私の服と刀も飲み込んでおいてくれ」
「了解しました」
言われた通り、オーマが口から蔓を伸ばす。
なるほど、突然のストリップはそのためか。
確かにいきなり変身したのでは、着ている服が破れてしまう。
「この薬の効果は、着ている服や装飾品、手に持ったり、背中に担いでいるものにも適用される。つまり私の背に乗っている限り、お前達も透明になれるというわけだ」
「効果が切れるまでの時間は?」
「約十二時間。魔女の棲家に乗り込み命を奪っても、充分にお釣りがくる時間だ」
ナギは足を折り曲げ、僕らが跨りやすいように、地面に身を伏せた。
「さあ、乗れ」
ナギの透明化に合わせて、僕らの体も徐々に透き通っていった。
皆が完全に透明化するのを確認してから、ナギは飛び立った。
竜が飛ぶ時、周囲には空気の膜のようなものができるらしい。
おかげでそこそこの速度で風を切っているにも関わらず、僕らは空気抵抗を全く感じることなく飛ぶことができた。
飛行しながら、ナギは自身の変身能力について話した。
この力は父親譲りで、彼女に発現したのはつい先日らしかった。
人狼の盗賊団と闘った時のこと——
剣の腕ではナギが圧倒的に勝っていたが、敵は数が多かった。
多勢に無勢。
窮地に追い込まれたその時——ナギの中に流れる、竜の血が目覚めたのだ。
ちなみに。
ラジオからは『旅の途中で変身能力が開花する』とは聞いていたが、そのタイミングだとは教えてもらっていなかったらしい。
やはり、肝心なところで言葉足らずなお告げだ。
そうこうする内に、魔女の棲家——黒い立方体は、もう間近へと迫っていた。
近づくと、あらためてその大きさがわかる。
「一辺が、数十メートルはあるかな?」
僕がそう呟くと、姿こそ見えないが前方に居るはずの蒼梧が、
「まあ、廃ビルの時と同じで、外観と中の広さがイコールとは限らないだろうけどな」
と返事をした。
「見張りの鴉が飛んでますねえ」
僕の肩に乗っているオーマが、不安げな声をあげる。
ある程度近づかないとわからなかったが、立方体の周囲を、十羽程の鴉が旋回している。
鴉達は時折、立方体の上面で羽を休めているようだったが、必ず数匹は空を飛び回り、周囲を警戒していた。
「ここから先は、声を落とした方がいいな——モリヤオサム」
「何、ナギ?」
「ラジオによれば、入り口の場所は定期的に変動するらしい。今の時間は東面のどこかに存在するはずなんだが——わかるか?」
「ちょっと待って」
僕は左目を隠し、じっと立方体を見つめた。
黒曜石のような光沢を放つ、漆黒の表面。
しばらく注視していると——ある個所に、それはぼんやりと白く浮かび上がった。
縦長の放物線を描く、半円形をした光のアーチだ。
アーチの中には、立方体の表面とはまた異なる種類の、流動する闇がぐるぐると渦巻いている。
「見えた——中心より、少し左下のあたり」
僕の指示に従い、ナギは鴉に注意しつつ、入り口へと近づいていった。
アーチを潜り、闇の中を進む。
#怪異
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リユ
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#ダークファンタジー
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阿炎快空
111
暫くすると、今度は前方に、白く発光する穴が見えてきた。
ナギは臆することなく、光の中へと突き進んだ。
一瞬目の前が真っ白になった後、一気に視界が開ける。
穴の先に広がっていたのは、まるで中世の古城のような廊下だった。
蜘蛛の巣の張ったシャンデリアがぼんやりと周囲を照らしており、床には真っ赤な絨毯が敷かれている。
廊下の両脇には、騎士の甲冑や悪魔の石像が並び、壁には、戦場や処刑場など、不穏なモチーフを描いた絵画が飾られていた。
僕は背後を振り返った。
廊下の奥は白い光に包まれており、ナギに乗って進んできた真っ暗な空間は、もはや見通すことができない。
ナギはゆっくりと床に着地すると、僕達を背中から降りるように言った。
「すまないな。私はあまり長時間はこの姿で居られない——もう限界だ」
メキメキメキ、と骨が軋む音が再び響く。
どうやら再び、半竜族の姿に戻ったらしい。
「オーマ、服と刀をくれ」
「俺の金棒も頼む」
二人に乞われたオーマが、『森』から指定されたものを続々と吐き出す。
ナギが手に取った瞬間、服や刀はフッと消失したように見えなくなった。
「ねえ、ナギ。ナギの体に触っていれば、僕らの体も透明になれたりしないかな?」
「残念だが、それは無理だ。私が一緒に透明にできるのは、あくまで『所有』しているものだけ。背負うならば話は別だが、手を握ったり、肩に触れている程度では姿は消えない。おそらくだが、私自身の『所有』に対する認識が影響しているんだろうな」
「てことは、ここから先は敵に見つかる恐れがあるってことだね……」
「それに関しては、お前次第だな」
「え?」
目を丸くする僕に、ナギが言う。
「ここからは、見張りのいないルートをお前が選択するんだ」
「えっと……それも、ラジオの指示?」
「ああ。『オサム君なら余裕でしょ』と言っていたな」
「丸投げかよ」
まったく、やれやれだ。
溜息をつきつつ、僕はホルスターから拳銃を抜いた。
「努力はするけど——有事の際には備えておいてね?」
コメント
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わあ、第58話「潜入」、読み終わりました! 東洋の竜の姿になったナギ、かっこいいですね。透明化の仕組みが「所有」の認識に依存しているって設定、すごく面白い。ラジオの「オサム君なら余裕でしょ」って丸投げに思わず笑いました。最後の拳銃を抜くシーンで、これからどうなるんだろうってドキドキします。次話が待ち遠しいです!