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チュンチュンと、心地よい雀の囀りが聞こえて来る。
時たま、何台かの車が走り出す音が聞こえて来る。
カーテンの隙間から、光が漏れて風に揺られる。
そんな気持の良い朝と言うには余りにも遅過ぎる時間、結子は未だベッドの上で吞気に鼻提灯を膨らませていた。
日はもうとっくに昇り切っているというのに、全く起きる気配が無い。早く起きる必要はないとはいえ、いくら何でもこれはないのではなかろうか。
「う~ん……」
嫌な夢でも見ているのか、寝心地が悪いのか。結子は顔をしかめて寝返りを打っている。
「うへへぇ……もうたべられないよぉ………」
急にその顔がデロリと蕩け、気持ちの悪い笑みを浮かべた。前言を撤回しよう。如何やらどちらでも無かった様だ。
またゴロリと寝返りを打つ。寝返りを打ち過ぎてもうベッドから落ちそうだ。
「うへへへへへへぇぇえええええッ⁉」
ドスン!
言わんこっちゃない。割と痛そうな音が聞こえて来た。
流石の結子も今のは堪えたようで、痛そうに尻を擦っている。状況が理解出来ない様で、目をしょぼしょぼとさせながら周りを見渡している。
「????…さっきまでいっぱいハンバーグたべて…………あッ!さっきの夢だったってコト⁉私って天才?天才だった!」
ベッドから落ちた事を理解できていない。その自信は一体何処から来ているのだろうか。結子はベッドの横の時計を一瞥した。が、すぐにもう五瞥くらいした。因みに今の時間は12時を過ぎている。
「ええッ⁉もうこんな時間ンンッ⁉」
その時、まるで今の時間を示すかのように結子の腹時計が鳴った。結子は切なげに腹を擦った。
「………お腹すいたな………ご飯食べようっと…」
結子は、腹を擦りながらまだ痛む尻に鞭を打ち一階へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
母は当然だがもう起きていた様で、鍋でシチューを煮込んでいた。結子は鼻をひくつかせた。良い匂いがする。
「おはよう、遅かったわね」
「寝てなかったんなら起こしてくれれば良かったのに~」
「起こそうとしても起きなかったわよ。それに、いい夢見てたじゃない」
「そうだけどさー」
「それはともかく、もう直ぐシチュー出来るわよ。朝ご飯も兼ねてるから多めにしといたわ。顔洗ってらっしゃい」
結子はまだ何か言いたそうだ。が、食欲に負けたらしい。洗面所へ顔を洗いに行った。
洗面所に着き、結子は顔を洗った。冷たい流水がまだ少し寝ぼけた頭に刺激を与え覚醒を促す。
結子は蛇口をキュッと締めた。顔を上げると、自然と目の前の鏡に視線が移る。鏡の中の自分をボーっと眺める結子。
クリッとした大きめの目、高めの鼻、小さな口、シミ一つ無いツルツルの肌、丸く卵形の輪郭。こうして見るとやっぱり自分ってそこそこ美少女な方なのではないかと結子は自分で思った。
寝起きで5割増しになったボサボサの髪型が少し残念ではあるが。結子はちょっぴりブラシで髪を整えた。
顔を洗い終わり、結子はリビングに向かった。結子のイカ腹が空腹を訴えている。結子は忍者さながらな動きでシュバッと椅子に座った。
母は結子が来てから直ぐにシチューを持って来た。ごろりと大きめに切られた野菜が入っている。隠し味に醤油を入れてあるらしい。乳白色の暖かそうに湯気を立てるそれは、アンケートを取ると10人中9人が美味しそうと答えるであろう見た目をしている。
が、結子はそんな事全てがどうでも良かった。ただ、今の結子はこの料理は自分に食べられるために生まれてきたと本気で思っていた。
「いただきます」
言った瞬間、結子はシチューを平らげた。底にあったウインナーを嚙み終わり、母を期待の目で見つめている。
「分かったわよ、全くもう。」
母は仕方なさそうに溜息をついた。言葉とは裏腹に少し嬉しそうにも見える。
言われるなり結子はお玉で鍋からシチューを掬い取り、皿いっぱいに注いだ。零れそうなそれを、また平らげた。それを繰り返し、やっと満足したらしい結子は、食後のプリンを食べている。シチューを食べながら、母は何故これ程食べているのに余り太らないのか疑問に思った。
「ご馳走様!」
「はーい、食器片付けてね、あと歯磨きして来なさい」
「りょ」
結子は食器を持ち、台所の流し台に置いた。水を軽く掛けた。少しの間水音が聞こえ、足音が遠ざかっていく。蛇口から水滴が垂れ、そして落ちた。
「………。」
ポチャン。
何かを忘れている気がする。母は思考を巡らせた。
ポチャン。
あ。
「そう言えば、何で太らないのか聞くの忘れてたわ」