テラーノベル
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次の日。
いるまは、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
カーテンの外は、まだ少し暗い。
静かだった。
「……」
スマホを見る。
らんからの通知は、ない。
当たり前みたいに毎日来ていた「おはよ」は、
もう二日、来ていなかった。
いるまは、トーク画面を開いた。
最後のメッセージ。
らん:『おはよ』
いるま:『おはよ』
それで、止まっている。
「……らん」
小さくつぶやいた。
返事は、ない。
画面を閉じた。
学校へ向かう足取りは、
昨日より重かった。
通学路。
何度も、
後ろを振り返る。
でも、
やっぱり、
らんはいなかった。
教室のドアを開ける。
「おはよ」
すちが言う。
「……おはよ」
いるまは答えた。
そして、
見る。
窓側。
後ろから二番目。
らんの席。
——やっぱり、空だった。
「……」
当たり前なのに、
少しだけ、
息が苦しくなった。
「今日も休みか」
なつが言う。
「心配だな」
こさめが続く。
「連絡、まだつかないの?」
みことが、いるまを見る。
「……うん」
短く答えた。
そのとき。
「……あれ?」
すちが言った。
「どうした?」
なつが聞く。
すちは、
らんの席を見ていた。
「……こんな席、だっけ」
「え?」
いるまの心臓が、跳ねた。
「なにが?」
「いや……」
すちは首をかしげた。
「なんか……違和感」
違和感。
その言葉に、
いるまの手が、少しだけ強く握られた。
「気のせいじゃね?」
なつが言う。
「かも」
すちは、それ以上言わなかった。
でも、
いるまには、わかっていた。
違和感の理由。
らんの机の中にあったはずの教科書が、
なくなっていた。
昨日までは、
あったのに。
授業中。
いるまは、
何度も振り返った。
空っぽの席。
そこに、
らんが座っていた記憶は、
ちゃんとあるのに。
今は、
最初から誰もいなかったみたいに、
静かだった。
休み時間。
「いるま」
こさめが、小さな声で言った。
「……なに」
「らんってさ」
その言葉に、
いるまの呼吸が止まる。
「どんな顔だったっけ」
「……は?」
思わず、声が出た。
「いや、ごめん」
こさめは困ったように笑った。
「なんか、急に思い出せなくなって」
「……なに言ってんの」
いるまは言った。
「毎日一緒にいるだろ」
「……うん」
こさめは、うなずいた。
でも、
その表情は、
少しだけ、
不安そうだった。
その日の帰り。
いるまは、
ひとりで、
らんの席の前に立った。
机に触れる。
冷たい。
そこに、
らんの気配は、
もうほとんど残っていなかった。
「……どこ行ったんだよ」
声が、
震えた。
「らん」
呼ぶ。
誰もいない教室に、
その名前だけが、
静かに消えていった。
そのとき。
窓の外で、
風が吹いた。
カーテンが揺れる。
そして、
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
らんの席に、
誰かが座っていた気がした。
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