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第十二章 ラディスへの帰還
第十七話 そしていつもの五人
ボロボロの布の隙間から差し込む赤い夕日が、二人の顔を照らしていた。
その眩しさにダイチはゆっくりと目を覚ます。
いつの間にか、互いの肩と頭へ体重を預け合い、ぴったりと寄り添ったまま眠っていたようだった。
「……あったか……」
小さく呟く。
自然と頬が緩んだ。
隣では、ジントが静かな寝息を立てている。
柔らかな黒髪。
長い睫毛。
穏やかな寝顔。
ダイチはそっと頭を起こした。
すると肩へ凭れていたジントが、小さく身じろぎする。
「ん……」
「ジント、起きぃや」
優しく声を掛け、顔を覗き込む。
長い睫毛がゆっくり震えた。
そして、夕日の光を映した黒い瞳がぼんやりと開かれる。
その瞳が目の前のダイチを捉えた瞬間、ジントの表情が少しずつ変わっていく。
そしてハッとしたように顔を上げた。
「……寝ちゃってた」
照れ臭そうに笑う。
「ぐっすりやったで」
ダイチも笑った。
けれどさすがにこんな狭い場所で眠っていたせいか、身体のあちこちが痛い。
二人は秘密基地の外へ出ると、大きく伸びをした。
木々の隙間から差し込む夕日が、秘密基地と二人の顔を赤く染めている。
「そうや!」
ダイチが何かを思い出したように声を上げた。
「この先、少し高台になっとるよな!」
「あ……そうだった」
秘密基地を背に、二人は木々の間を進んでいく。
落ち葉を踏む音。
風に揺れる枝葉。
懐かしい森の匂い。
子供の頃、何度も駆け回った道。
やがて視界がぱっと開けた。
小高い丘。
そこからは、夕日に染まるラディスの街が見下ろせた。
赤く染まった屋根。
白い教会の塔。
ゆっくり煙を上げる家々。
変わらない景色。
変わらない場所。
二人は並んでその光景を見つめる。
すると突然強い風が吹き、ジントの身体が少しぐらついた。
その瞬間。
不意に互いの手が触れる。
そしてどちらからともなく、
そのまま手を繋いだ。
冷たい秋風が二人の傍を吹き抜ける。
けれど繋いだ手から伝わる体温。
近すぎる距離。
高鳴る鼓動。
そのせいで、身体は熱を持っているようだった。
ダイチは繋いだ手を見つめる。
昔と同じ。
いつも隣にあった手。
何度も握ってきた手。
けれど今は、昔とは違う感情が胸の奥にある。
ジントも同じだった。
安心する、いつもと同じ手の温もり。
変わらない優しさ。
だけど、この時間が、この温もりが、ずっと続けばいいのに。
そんなことを思ってしまった自分に少し戸惑う。
――ゴーン……
――ゴーン……
遠くから教会の鐘の音が響いた。
夕暮れの空気を震わせながら、静かに街へ広がっていく。
「……そろそろ戻らないと」
ジントが少し名残惜しそうに呟く。
ダイチはまだ、遠くのラディスを見つめていた。
青い瞳に映る赤い夕日。
いつもより柔らかく見える横顔。
その姿に、ジントの胸がまたぎゅっと締め付けられる。
綺麗だと思った。
ずっと見ていたいと思った。
でもその切なそうな表情を見ると、なぜか胸が痛くなった。
ジントは、グイッとダイチの手を引いた。
「帰ろっか!」
笑顔で言う。
ダイチは少し驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「……うん」
けれどその笑顔はどこか寂しそうで、少し泣きそうにも見えた。
すると突然、
ジントは両手でダイチの頬をきゅっとつまんだ。
「い、イテテテテ!!」
「何すんねん!!」
頬を引っ張られたダイチが叫ぶ。
「アハハハ!」
ジントは楽しそうに笑った。
「変な顔してたから」
「どんな顔やねん!」
「……寂しそうな顔」
その言葉に、ダイチは一瞬黙った。
そして小さく笑う。
「……敵わんなぁ」
夕暮れに染まった街を惜しむように、二人はゆっくりと来た道を戻り始めた。
木々の隙間を抜ける秋風。
揺れる落ち葉。
遠ざかっていく秘密基地。
夕日を背にしたその顔は、二人ともまだ少し赤く染まったままだった。
◇
二人が宿屋へ着いた頃には、すっかり日も沈んでいた。
建物の中からは温かな夕食の香りが漂っている。
馬を繋ぎ、三人が泊まっている二階の部屋へ向かう。
扉の前で。
ーーコンコン。
ノックをする。
すぐに扉が開いた。
「お、帰ってきた!」
顔を出したシュンタは。
ジント。
ダイチ。
二人の顔を交互に見る。
そして……ニヤァ。
「デートは楽しかったん?」
「っ……!」
ダイチが固まる。
ジントは一瞬意味を理解できなかった。
だが数秒後、顔が一気に赤くなる。
「で、デート!?」
「そ、そそそんなんちゃうし!!」
ダイチが慌てて否定する。
その反応にシュンタの笑みがさらに深くなった。
「いやぁ〜分かりやすいなぁ」
「何がやねん!」
後ろからハヤトが顔を覗かせる。
「まあまあ、とりあえず入れよ」
その口元にも、どこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。
「おじゃまします……」
ジントが小さな声で言いながら部屋へ入る。
ジュウタロウはベッドへ腰掛け、読んでいた本を静かに閉じた。
その表情は、珍しく柔らかい。
「腹減っただろ?」
ハヤトが立ち上がる。
「食事をしながら話すか」
「それな!」
シュンタがお腹を押さえる。
「俺、昼もまともに食べてへんねん!」
「酒飲んでただろ」
ジュウタロウが冷静に突っ込む。
「いやぁ〜あれは別腹や!」
「別腹の意味分かっとるのか……」
ダイチが呆れたように言う
五人は連れ立って一階の食堂へ向かう。
夜の宿屋は賑やかだった。
旅人達の笑い声。
皿の触れ合う音。
香ばしい料理の匂い。
奥にはちょうど五人で座れる大きなテーブル席が空いていた。
自然とそこへ向かう。
「やっぱなんか、この面子が一番落ち着くわぁ」
シュンタが椅子へ凭れながら笑う。
「そういや、五人だけで食事するん久々やない?」
ダイチも嬉しそうに笑った。
「いや、三日ぶりだろ」
ジュウタロウが淡々と返す。
「そうだっけ?」
ジントが首を傾げる。
旅へ出てから、色々な場所へ行った。
色々な人と出会った。
色々な食卓を囲んだ。
どれも大切な時間だった。
けれどこうして五人が揃うと、不思議と胸の奥が温かくなる。
戻ってきた。
そんな気がした。
「ほら、さっさと注文するぞ」
ハヤトがメニューを開く。
「今日めっちゃ腹減っとるからな俺!」
「お前いつもやん」
「そういうダイちゃんもやろ!」
いつものやり取り。
いつもの笑い声。
いつもの五人の空気。
それが今は何より心地良かった。
comi
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ばたっちゅ
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成瀬りん
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コメント
3件
自然と手を繋ぐシーン見てて微笑ましく思いました!2人が寄り添い合いながら思い出の秘密基地で眠るところが見てて幸せでしたね☺️💕︎
いやあ、もう夕日の中で手を繋ぐシーン、胸がぎゅってなりました…!「昔と同じ手、だけど今は違う感情」ってところがもう、二人の距離感がすごく丁寧で。戻ってからの五人の空気も、ああ、帰ってきたんだなって感じがしてすごく温かかったです。ダイチがジントに頬つねられて「イテテテテ!」って叫ぶとこ、思わず声出して笑いました(笑)comiさんの描く、寄り添い合う距離感が本当に素敵です🌷