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「ここは喫茶店じゃないんだがな」
さらにだされたお茶菓子をつまみはじめたころ、向かいに静かに座ったのは無愛想な店員の男。少し伸びたような短い髪をオールバックのように撫でつけているが、全体的に立ち上がり眉間に一筋垂れている。
整えられた眉は真っ直ぐで二重の目には力強さをたたえている。そんな筋肉男なのに不思議と怖くはない。
しかしなぜ向かいに座ったのか。さっきまでの彼を見るに、彼女のことにはまるで興味もなかっただろうに。
彼女は“これはあれだな、お茶目当てだな。お菓子はあげないぞ?”などと心の中でそう納得した。
かたわらにまだ立ったままのもう1人、エルフの店員は男が座るのを見て、穏やかな笑みを浮かべてお茶を淹れる。
白の半袖のシャツに紺のオーバーオール、茶色のブーツというそのコーディネートもこのエルフが着るとなんとも不似合いではあるが、もしかしたらこの店のユニフォームかもしれない。目の前の男は黒の半袖シャツと革のズボンだが。
「さっきはすみませんでした」
「それはもう聞いた。弓が欲しいのか?」
なんだかよく分からない先ほどの取り乱した様子からそう推察されたが間違っていない。
「わたしこの春から狩人をしてるんです。でも弓が下手で……だから弓が上手くなりたいんです。」
「弓が下手なら別のことをすればいい」
その通りかもしれない。けど彼女には他の選択肢などない、弓以外になど。
「だってエルフなら弓だって、孤児院のみんなにもそう言われて、なら狩人になるって。狩人になって弓の名手と呼ばれるようなエルフになるって宣言しちゃったからっ!」
本人のこだわりでもない、ただのプライドか意地だけで言っているのか。この男にはやはりよく分からない。
彼女にしたらみんなの期待に応えたい気持ちと、有言実行を心掛けるが故に譲れないポイントが弓なのである。
そして、彼女自身そうと気づいていないが、まだ見ぬ両親にエルフという種族に繋がるものを弓に求めているのだ。
「ダリル、折角だしどうにかしてあげようか」
彼女の3杯目のおかわりを淹れながら、エルフ店員がそういった。