テラーノベル
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キッチン横にある引き戸からも通じているので、パントリーにもなっている。
バルコニー横にある階段を上がって行くと、すぐ右手には収納、その奥にはもう一つキッチンがある。
暁人さんが目の前にある引き戸を開くと、先ほどよりもっと広い、四十畳近くのリビングダイニングが広がった。
「わぁ……!」
その向こうには広々としたルーフバルコニーもあり、多分こちら側一帯のワンフロア下が空き部屋なんだろう。
「たまに人が集まる時は、さっきのパーティーキッチンにシェフを呼んで、このリビングダイニングで食べる感じかな」
言っている事がセレブすぎて、もう頭がついていかない。
暁人さんは元来た道を戻り、階段の反対側に向かう。
「ここはマスターベッドルーム。いつもはここで寝てる」
寝室なのに二十畳近くあるそこを見た私は、「ここで暮らせそう……」と呟いてしまった。
「この寝室で寝たいなら大歓迎だけど」
「いっ、いえっ! 違いますっ!」
変な勘違いをさせてしまったと悟り、私は必死に否定する。
暁人さんはそんな私を見てクスクス笑い、お店でも開けるんじゃないかという、物凄く広いウォークインクローゼットをチラッと見せてくれ、その奥にある洗面所、シャワーボックスにジェットバスを見せてくれる。
「あと、ここはお気に入りなんだ」
暁人さんはバスルームから外に出られる引き戸を開けると、屋外の壇上にあるジェットバスを示して笑った。
(……せ、世界が違いすぎる……!)
「……左様でございますか……」
私は壁に手をつき、そう言うので精一杯だった。
メゾネットの下階に戻ったあと、暁人さんは私の荷物を十三畳ある客室に運ぶ。
「あっ、あの、もう一部屋のほうでも……」
「あっちは書斎だから、ここを使って。基本的に上は寝る時と風呂だけに使ってる感じかな。リビングダイニングも下のほうが落ち着くし。上下階ともバス、洗面、トイレがあるから、普段の生活は上下で分けよう」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私が言うのも変ですが、下階でくつろいでいる時や、緊急時は下のお手洗いを使ってください。暁人さんは家主ですし。わざわざこの広いメゾネットの中、移動するのは大変ですから」
「君こそ、お気遣いありがとう」
暁人さんは微笑んだあと言う。
「君には料理を作ってもらうわけだけど、普段使っている調味料とか出汁とか、調理器具とか、足りない物があったらリストアップしてほしい。君にとって一番いい状態で、美味しい料理を作ってほしいから」
「分かりました」
そのあと、彼はチラッと腕時計を見る。
「じゃあ、自由時間にしようか。荷物を所定の場所に置くとか、好きにしていいよ。来た当日から働いてもらうのは申し訳ないから、ランチはデリバリー、夕食はデートしよう」
デートという言葉を聞いて照れるものの、私は本来の目的を忘れては駄目だと思い、小さく挙手する。
「体力はありますので、ランチから働かせてください」
「でも、早く部屋を整えたいだろ? あ、そうだ。じゃあ、歓迎の意味も込めてランチは俺が作るよ」
「そんな……! 本末転倒じゃないですか」
悲鳴に似た声を上げると、彼はクスクス笑う。
「料理のできない男と思われるのは心外だからね。君には料理をしてもらうためにうちに来てもらったけど、自分でやらないと腕が鈍るから、時間のある時はご馳走させてほしい。あと、掃除については上下階共にお掃除ロボットがあるし、業者さんと契約してるから心配しなくていいよ」
「……本当に料理を作るだけでいいんですか? もっと色々こき使ってくれてもいいんですよ?」
私は店を救ってくれた恩人に、少しでも何かしたいと訴える。
「君に貸しを作ったからといって、威張り散らしてこき使うつもりはない。俺はビジネスとして店を買収したし、君の料理はそのついで。店だけ助けてもらった上に、ホテルで普通に働くだけでいいって言ったら、芳乃は納得しないと思った。……それに俺も、両親を誤魔化すための〝恋人〟ができて助かってるし。……過度に『恩があるから、なんでも言う事を聞かないと駄目』と思うのはやめよう?」
優しく微笑んだ暁人さんを見て、私は溜め息をつく。
「……見返りらしい見返りを求めないなんて、聖人みたいな人ですね」
それを聞き、彼はおかしそうに笑う。
「見返りなら十分にもらってるよ」
「え? ど、どんな?」
目を瞬かせて尋ねると、彼はスッと顔を近づけてきた。
コメント
2件
暁人さん、本当は芳乃ちゃんを何処かで知ってるの? だんだんと甘〜い雰囲気になってきた二人…♡
ちゅー( * ´ ³`)💕を御所望ですね😘 ん?ホントは知ってる仲?😳