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美咲は冷えた手でスマホを握りしめ、画面に表示された文字を凝視していた。
「アンインストールには、新たな犠牲が必要です。」
その犠牲が何を意味するかは、彼女の中で既に分かっていた。長く続いた恐怖と絶望の中で、アプリの本性を見抜いていたからだ。アプリは善行を口実に、次々と犠牲を要求し、彼女の心を壊してきた。そして今、最後の要求が目の前に立ちはだかっている。
「犠牲って、私の命ってことなの?」
そう呟いた瞬間、スマホの画面が再び変わり、「はい/いいえ」の選択肢が現れた。「はい」を選べば、アプリはアンインストールされる。だが、その代償は彼女自身の命だ。恐怖と混乱の中で、涙が頬を伝い落ちる。
夜の静けさが広がる部屋の中、美咲は一人でその決断を迫られていた。周りに助けを求めることもできない。友人や家族に打ち明けても信じてもらえるはずがない。ここまで来たのは自分一人だった。
彼女の心の中で、これまでの「善行」が鮮明に蘇る。人を助けるという美名の裏で、罪なき人々が犠牲になり、自分の手が血に染まっていった。そして今、自分自身がその最後の犠牲となるのか…。
「どうして、こんなことに…」
しかし、美咲の心の中には別の感情も芽生え始めていた。これ以上、アプリに支配され続ける人生は耐えられない。たとえ命を犠牲にしても、この恐怖から解放されるなら、死はむしろ安らぎのように思えた。
スマホを見つめる美咲の手が震える。「はい」のボタンを押す決心がつかないまま、時間だけが過ぎていった。しかし、アプリは次の通知を送り始めた。
「善行を完了しなければ、さらに大きな犠牲が要求されます。」
その言葉に背筋が凍りついた。アプリは美咲が躊躇する間にも、次の犠牲者を探している。もし彼女がこのまま拒否すれば、自分の大切な人がターゲットになるかもしれない。家族、友人、誰もが危険に晒される。
「もう…逃げられない…」
ついに、美咲は決意した。アプリを消すことでしか、この悪夢から解放される方法はない。そして、それを選ぶのは自分自身しかいないのだ。
「はい」を押す瞬間、画面が一瞬だけ真っ暗になり、すぐに「アンインストールが開始されました」という通知が表示された。同時に、美咲の体が重くなり、息苦しさが襲ってきた。まるで生命力が吸い取られるような感覚だった。意識が薄れ、視界がぼやけていく中、彼女は最後に呟いた。
「これで…終わり…」
美咲の視界が完全に暗闇に包まれ、静寂が訪れる。そして、スマホの画面もゆっくりと消えていった。
翌朝、美咲の部屋には静けさが戻っていた。スマホは無造作に床に転がり、画面には何のアプリも表示されていなかった。彼女の体はその隣に横たわっている。安らかな表情を浮かべたまま、彼女は二度と目を覚ますことはなかった。
だが、静寂は一時的なものだった。
しばらくして、美咲のスマホが微かに震え、画面に新たな通知が表示された。
「功徳アプリ、再インストールが完了しました。」
そして、その瞬間、スマホはリセットされ、新たなユーザー登録画面が現れる。次の犠牲者を求めるかのように。
「ようこそ、新しいユーザー様。」