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「おい、どうした!」




 マリーベルが叫んでからすぐ、異変を察知したケールが扉の前にやってきた。


 


「ま、魔物が……魔物が部屋の中に……!」




「魔物だァ? おいおい魔物が入ってくるわけねえだろ!」




「そんなこと言ったって、ツボの中からいきなり出てきたのよ!」




「なんだって? じゃあ元から入り込んでたってのか!?」




「そういうことよ! 早く退治して頂戴!」




「へんっ、どうせ嘘こいて鍵を開けさせようって魂胆だろ? その手には乗らねーぜ!」




 すると次の瞬間、倉庫の中からガラガラガシャーン!とただならない音が聞こえてきた。まるで何かが暴れまわっているかのような音だ。


 まさか、本当に魔物がいるのだろうか。


 ケールは一歩扉に近づいた。


 


「きゃー! 早く、早く助けてーっ!」




 悲鳴はさらに大きくなる。


 もはや魔物がいるかどうかなんてどうでもいい。


 早くこのうるさい小娘を黙らせないと、姐さんクレソンの機嫌が悪くなってしまう。


 子分のケールにとって、親分の機嫌は常に伺っている必要があるのだ。


 


「チッ、仕方ねえな! 嘘だったらタダじゃおかねえからな!」




 渋々ながらもケールは扉を開けた。


 そして中へ一歩入った瞬間――ガツン!


 頭が割れんばかりの強い衝撃を受け、ケールは訳も分らぬからぬまま床に倒れ込んだ。


 


「ぎゃあああ! いでええーーーっ!!」


 


 扉の傍にはエルシャがツボを持ち上げて待ち伏せていた。


 相手が入ってきたタイミングで振り下ろすと、それはもう見事に頭に直撃したのだった。


 要するに単純な不意打ちである。


 しかし、防ぎようもないのもまた事実。


 部屋の中にまさか二人目がいるなんて想像もつかなかったはずだ。




「よし、今のうちに出るわよ!」




 そう元気に言うのはマリーベルだ。


 さっきまで部屋内の荷物を散らかして魔物と戦っているフリをしていたが、目的は果たせたので物を投げる手を止めた。当然、元に戻すつもりも義理もない。


 


「ど、どうしましょう……死んでないですよね?!」




「大丈夫よ、悪人ってしぶといから! そんなことより鍵拾って!」




「鍵ですね! 鍵、鍵……ありました!」




 ケールの手の傍に鍵は落ちていた。


 床に倒れた時に手放したらしい。




「よし、じゃあ外に出て逆に鍵をかけて閉じ込めてやるのよ!」




「はい!」




 エルシャたちは部屋から出ると、急いで扉に鍵をかける。


 その直後、干からびたカエルのように伸びていたケールが、意識を取り戻してむっくりと起き上がった。


 復活するや否や、扉を激しく叩き何かを叫んでいる。


 


「ちくしょう嵌めやがったな! てかなんで二人いんだよォォォ?!」




 だが、鍵を奪った以上すでに立場は逆転している。


 示し合わせたかのようにエルシャとマリーベルは部屋から聞こえてくる叫びを無視した。


 あとはここから脱出するだけ。


 見たところ外へ通じる出入口はないが、上のほうへと続く階段ならあった。


 おそらく現在地は盗賊団アジトの地下で、あの階段を上れば地上へと出られるはず。


 


 コツ、コツ、コツ――。


 


 すると、そんな希望的観測を打ち砕くかのように、階段を下る何者かの足音が近づいてきた。


 


「まったく。騒々しいと思ったら獲物が逃げてしまっているじゃないかぁ」




「なっ! こんな時に!」




 それは高圧的な雰囲気のある背の高い女だった。


 状況的に考えて、彼女の正体は盗賊団リーダーのクレソンしかありえなかった。


 


「おやぁ? おかしいねぇ、なんで獲物が二匹もいるんだい?」




 クレソンは違和感に勘づくと、増えた獲物であるエルシャをじっとにらみつけた。


 大蛇のごとく鋭くてねっとりとした視線に、思わずエルシャは怯んでしまいそうになる。


 


「はは~ん、なるほどねぇ。なるほどなるほど。こりゃ確かにきれいな宝石だ。こんなにドス黒くて赤いきれいな宝石、他にはないだろうねぇ」




「こいつ、絶対やばいわ!」




「はい、わたしも同感です!」




 だが、どうやってこの状況を脱するべきか。


 唯一の退路である階段の前には、クレソンが不気味な笑みを浮かべて立ちふさがっている。


 力業での突破は、少し……いや、相当険しい。


 


 ならば、交渉しかない。


 マリーベルは一歩前に出て、クレソンの目を見据える。


 


「見ての通り、鍵は今私たちが所持してるわ。そして、あなたの子分は私たちが閉じ込めた。交換条件よ。鍵を渡す代わりに、私たちを見逃――」




「逆に聞くけど、私があのボンクラをそんなに大事にしてると思う?」




「…………お、思わないわ」




「マリーベルさん?!」




 交渉にすらならなかった。


 あまりに早い計画の破綻。あまりに早い心の折れよう。


 隣で見守っていたエルシャもさすがに突っ込まずにはいられなかったが、冷静に考えると確かにクレソンに人質の価値があるとは思えない。


 つまり、前提からして作戦は失敗していたのだ。


 


「そんなつまらない男の話はもういいわ。もっと面白い話をしましょう。たとえばそう……コレ・・の話とか」




「――!」




 両者の間に緊張が走る。


 コレ・・というのは、カタナと呼ばれる遠い異国の剣だった。


 緩やかに反られた細い刀身は、見た者を魅了するかのような妖しさを放っている。


 だが、それ以上に放っているのは危険な匂い。


 刀というものを初めて目にするエルシャやマリーベルでさえ、思わず背筋が震えるほどに冷酷な形状をしている。


 まさに「斬る」という行為に特化したかのような形状だ。


 


「ああ、怖がらなくていいのよ? 最初に言ったでしょ、コレの話をしましょうって。はいじゃあそっちのキミ」




「わたしですか?!」




 クレソンが持った刀の切っ先が、エルシャに向けられた。


 


「この剣はねぇ、ある旅人が持っていたものなの。あまりに美しかったから、目を離していた時にちょっと借りてみたのよ」




「そ、そうですか……」




 それってつまり泥棒したってことですよね?


 などという気さくな冗談は、とてもじゃないが言える雰囲気ではなかった。


 


「キミもそう思うよねぇ?」




「は、はい! すごく、きれいですよね!」




 明らかに異様な状況だが、きれいだと思ったのは本当のことだった。


 その答えを聞いたクレソンは大層満足した様子で、刀の切っ先をマリーベルに向け変えた。


 


「じゃあ次はそっちね。キミも美しいと思うだろう?」




「……」




 聞かれたマリーベルは一瞬考えたのち、逆に威圧し返すかのように冷酷な視線をクレソンに送った。


 


「いえ、ちっとも」




「ふぅん……」




「え! ちょ、ちょっとマリーベルさん?!」




 予想外の返答にエルシャはギョッとする。


 クレソンの気を損ねたら大変なことになる……。


 だがマリーベルは気にすることなく続けた。


 


「どんなに価値ある名品だったって、あんたが持ってるってだけで台無しなのよ!」




「……っ」




 その瞬間、クレソンの額に青筋が浮かび上がった。

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