御上神社には、一朗(いちろう)という老父がいた。一朗は麗を温かく受け入れ、麗の話を聞いてあげた。麗が、あなたが不老不死の薬を持っているの、と聞くと、「不老不死じゃなくて、不老の薬ならあるよ」と言った。
それをください、と麗は言うと、あげることはできない、と答えられた。「君に何が起こったのかはよく分かった。だけどね、この薬を飲むと、体の一部を神様にあげないといけないんだよ。」
一朗には左腕が無かった。
「神様…?」
「そうさ、この御上神社の神様である、月乃神様にね 」
月乃神様は、そこらでは有名な神様だった。何百年も前、月乃神様は悪神である焔神を封じ込めた英雄だ、と。麗は信じてなかったけれど、どうやら本当らしい。
それでもいい、と言った。椛を待つのにそれ以外の方法なんてない。
その意思を感じ取った一朗は、
「この薬は不老なだけで、不死では無いんだ。病気をしたら亡くなるし、大きな怪我をしたら亡くなる。病気や怪我をしなかったら、孤独な時をずっと過ごす。それでもいいのかい?」
と言った。
「それでもいい。」と、麗は即答した。何がなんでも椛を待たないといけなかった。約束を守りたかった。
一朗は許諾し、麗に薬を飲ませた。
飲んだ瞬間、酷い苦しみが麗を襲った。
右目が痛い。取れそうだ。
息ができない。苦しい。
一瞬飲んだことを後悔したが、すぐにこれでいいと思った。
薬を飲んだ後、麗は1週間気絶していた。
目を覚まして驚いた。右目が全く見えないのだ。痛みはもうほとんどないが、何も見えない。真っ暗というわけではなく、無が広がっている感じだった。幸い左目は平気だった。一朗は麗を御上神社へ住まわせてくれた。
右目は無くなったわけでは無かった。赤黒く変色していたが、数年経つとその赤黒い色も瞳の中に収まった。麗が月乃神に授けたのは右目の視力だった。
2人で何十年も一緒に暮らした。それでも、麗は椛と過ごした5年が忘れられなかった。一朗はとても良くしてくれ、祖父と孫のような関係になった。
毎日夢に椛が出てきた。
2人で笑い合う夢。
一緒に買い物をする夢。
火事の夢。
麗は一生この苦しさと向き合う覚悟を持っていた。
そして、一朗に病気が見つかった。
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