「あっあの!」
「……なに?どうしたの?葵くん?」
川口さんは微笑んだ。
馴れ馴れしく葵くんなんて呼ぶなと言いたいところだが、
僕はどうしてしまったんだ!
黙って見ていればよかったのに…そう、この転校生をかばえばいじめの標的は僕に移ってしまう。
分かっていたはずなのに。
全身から汗が吹き出してきた。動悸も止まらない。
「寒い…」
潤んだ瞳が輝くのが見えた。
「!」
そりゃそうだろう!全身びしゃびしゃなのだから。
若干、彼女の手が震えているのが分かった。
なぜ、僕が彼女の手を引っ張って保健室に向かっている?
気がついたら僕は彼女を連れて教室をでていた。
あぁ、僕の中学校生活終わったな…なるべく目立たないように卒業したかったのに…
未だに彼女の手は震えている。
「あ、ありがとう…」
それは声も一緒だった。
しかし僕はなんて返せばいいのかわからなかった。こっちだって気がついたら行動していたんだから。
「い、いやね?僕も黙って見てるわけにはと思ってさ、あは」
「…葵くんは正義感が強いんだね」
…いや強くねぇよ?なんなら正義感なんてないよ?
そうこうしているうちに保健室に着いた。
「す、すみませーん…タオルを借りたいんですけど…」
どうやら保健室に先生は不在だったようだ。
「仕方ないし、勝手に借りようか。」
「うん」
わしゃわしゃと髪をふくすがたはまるでお風呂上がりのようだった。
てか下着透けて…
決して邪な感情はないんだ…そう。だれも悪くない…悪くないんだ…
「…どこみてるの?」
「えっ?!」
どうやらバレていたようだ。
どうにかして話を逸らさなければ!
「てってかさ!教室戻りにくいだろうし!しばらくここで休んでよう!僕もついてるから!」
僕は何を言っているんだ。
「一緒にいてくれるの?」
「うん!もちろん!」
やっぱり先生を呼んでこよう!
…なんで心の声と全く違う言葉が出てくるんだ!
やっぱり僕この子と一緒にいるとおかしいぞ…
「じゃあ、一時間目が始まるまでここにいてくれるかな?なんだか心細くって」
「う、うん」
それから僕達はずっと無言だった。
「………………」
「………………」
でも話すことはなかったし、これ以上口を開けばもっと無駄なことを言ってしまいそうだったのでちょうどよかった。
ところが
「…まだ………」
「へっ!?どうかした?」
「寒い…」
どうやら彼女は冷え性のようだ。
てか冷え性じゃなくても寒そう。
新しい制服か体操服があればいいのに、あいにく今日は体育はないし、保健室を探して見てもなかった。
せめてここはなんか面白いこと言って場を…せめて場だけでも温かくしよう…………
「あっはは。お互い寄り添ったらあったかそーだねですね!」
語尾が変になった。すると彼女は顔を染めながら
「そ、そうだね…」
と言い、体をこっちに近づけ出した。
えええええええええええええええ??!!
理性!!!理性を保て!!!素数数えろ!
女子って普通に好きでもない人とこんなことができる生き物なのか!すごいな!!!!
僕の心情なんか知らずに、彼女は僕の肩に頭を乗せ、目を閉じている。
「冗談だよ」
なんて今更言えないし……
ゔゔ…心臓の音しか聞こえないっ…てあれ?これ、僕の心臓の音ではない…?
と言うことは…?
「…………」
まずい。このままでは非っ常ーにまずい気がする。素数素数!素数数えろ!
「葵くん…」
「はいっ!?」
「葵くんは…あったかい…」
もうダメだ。マリア…
僕の思考は完全におかしくなり、理性も限界に近づいてきていた。
「あ、もうすぐっIっ時間目が始まっちゃうから行くねっ!あ、まだ休んでていいよ!じゃね!!」
「あっ……」
なんか呼び止められた気がしたが、気にしている暇はなかった。
…実はまだI時間目までもう少しだけ時間がある
「……………トイレ行くか」
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